第34話 この娘はおめでたい頭の持ち主の様だ

 まだそういった者達を見下し嫌悪感を抱いてくれた方がマシであると言えよう。


 もしかすればそういう者達を視界に入れない様にと仕事の斡旋や、見下したいが為に雇用してくれるかもしれないのだから。


 それは一時的なものであったり善意から来る行動では無いのかもしれない。


 しかし、やらない善よりやる偽善の方が遥かにマシである。


 一番の悪は無関心、何もしない、何も思わない、考える事すらしない事である。


 それはわたくしの家族と何が違うと言うのか。


 そしてアンナもわたくしと同じ考えなのかシャルロッテを他人に分からない様に睨みつける。


 まあ、わたくしには手に取るように分かってしまうのだが。


「アンナ、この娘に何故自分が奴隷になったのか教えてあげなさい」

「はい、フラン様」


 そう言うとアンナは何故自分が奴隷になったのか、その切っ掛けについて語り出す。


 ドミナリア家にメイドとして働いていた事、食事の時わたくしの食器を下げようとしてグラスを倒してしまいわたくしの服を汚してしまった事、そしてその結果罰としてわたくしの奴隷へと落とされた事、その流れを懇切丁寧に説明する。


「さ、最低ですっ!!」

「つぅ………っ!」


 そしてアンナの話を聞き終えたシャルロッテは右手を振りかぶりわたくしの左頬へと振り下ろす。


 わたくしは叩かれた左頬をさすりながら、自分が正義でわたくしが悪だと決め付け睨み付けて来るシャルロッテをゆっくりと目線を合わせ睨み返す。


「わたくしは、あなたみたいに価値観が違うからと暴力を振るったりは決してしないわ。 ましてやあなたはいくら豪商の娘と言えど庶民の娘でわたくしは公爵家の娘。 その意味をお分かりかしら?」

「価値観の問題ではありませんっ! それにこの学園の学生は貴族も庶民も関係なく皆平等ですっ! それは前にフラン様も自分でおっしゃったでは無いですかっ!?」


 本当、この娘はおめでたい頭の持ち主の様だ。


 自分の行動が後にどの様な結果が起こるか想像する事すら出来ないみたいである。


「価値観の違いでは無いと言うのならばその根拠をまず提示して下さい。感情論で会話する程わたくしは暇ではございません。それと、虎の威を借る狐も結構。しかし虎がいない所ではその虚勢も無意味だと言う事くらい考える事をしなさい」

「ど、どう言う意味ですかっ!? わたくしは学園のルールに従ったまでですっ! それのどこが間違っていると言うのですかっ!?」


 少しは自分で考えろっ! と叫びたくなるのをグッと堪える。

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