第33話 奴隷ですわ、
誰が自分の命を刈り取るその元凶の大本と親しくなりたいなどと思うというのか。
それこそ常に死を意識させられて生活するなどわたくしにはとてもじゃないが耐えられそうにない。
ただでさえ今の状況に押し潰されそうになっているのだから勘弁して頂きたいものである。
「わたくしと友達……?」
「はいっ是非っ!」
その希望に満ちたその瞳を向けられると心臓を鷲掴みにされている様な感覚になる。
たった一度助けただけでわたくしの性格や価値観など知りもしないにも関わらず友達になりたいなどと何故思えるのか。
平和呆けしたその思考回路に反吐が出る。
「そうですわね、あなたとわたくしではそもそも価値観や考え方が全く違うと思うのですけれどもその事は考えておりまして?」
「そもそもフランさんと私では別の人間ですので価値観や考え方が違う事は当たり前なのでは?」
わたくしの問いに『何当たり前の事を言っているのでしょう?』といった表情でシャルロッテがわたくしを見つめてくる。
ダメだコイツ。
そもそも貴族と平民との間には例えそれが豪商の娘と言えどその価値観や考え方は全くの別物であると言って良いだろう。
いかせん前世が平民であった分その違いを否が応でも理解している。
そもそも貴族と平民では生きる為にしなくてはならない事が真逆なのである。
そしてその中でも我がドミナリア家はその最たる者であろう。
「ではそうですわね、今わたくしの側仕えをして下さっているアンナをシャルロッテさんはどう思いますか?」
わたくしがそう言うと何も言わずともアンナはスッと、洗礼された動作で前に出て来てシャルロッテに対して軽くお辞儀をしてくれる。
こういう細かな動作一つでアンナがいかに出来る人材であるかが伺える。
そしてそれはもちろんアンナだけではなくメイやウルにも言える事でありわたくしはそれが、彼女達の御主人様として誇らしく思う。
「フランさんの側仕えのアンナさんですか……とても素晴らしいメイドさんだと思いますっ!」
「奴隷ですわ」
「………奴隷…? え、だって……え?」
「奴隷ですわ」
案の定シャルロッテはアンナが奴隷だと聞き、その言葉を理解するにつれてみるみる表情が曇って行く。
そしてそのシャルロッテの反応から、平和呆けしたおめでたいその頭には奴隷という答えは考えていなかったのであろう事が伺えてくる。
平和呆けすればする程底辺の者達、スラム街に暮らす人々や孤児、路上生活者達や奴隷の人々といった者達が視界に入らなくなっていくものである。
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