第32話 悪夢を見せられている様である

 そんな俺の事をいつの間にか現れたノア殿下が俺に向かって自分と同類だと言ってくる。


 違う! 同類なんかじゃっ、好きな人に何故か嫌われた者と一緒じゃないっ! と一返したいが先程大っ嫌いだと言われた手前否定する事が出来ない。


「ふ、フンっ。 どうせ直ぐにフランに近付き傷つけられて俺の助言が正しかった事に気付くであろう。 それまでの辛抱だからな」

「お前はフランを一体何と勘違いしてるんだよ……ったく。 まあいいや。 じゃあ俺はフランを追いかけるという大事なミッションがあるからじゃあな」

「フンッ、学園管轄下の林とは言え凶暴な獣や魔獣と言った類がいない訳ではないのだ。 俺もシャルロッテを追いかける為に林へ行くつもりだったわー」

「嘘が下手かよ。 棒読みじゃないか」

「う、五月蝿い黙れっ。 ほら行くぞっ!」


 全く、このストーカーがこの帝国の殿下だと言うのだから世も末であろう。


 コイツが皇帝にならない様に第一殿下には頑張って貰いたい限りである。


「フラン様っ、私と友達になって下さいっ!!」


 そしてシャルロッテにバレない様に木々の後ろで隠れながら見守っているとシャルロッテから耳を疑う言葉が聞こえて来た。


 俺の愛しのシャルロッテがまさか貴族至上主義であるドミナリア家のフランと友達になりたいなどと思いもよらなかった為そいつだけはダメだとシャルロッテを救い出したくなるのだが先程大っ嫌いと言われたばかりな為グッと堪える。


 ノア殿下はノア殿下で「まるで物語のワンシーンの様だ」などとほざいている。


 たしかにシャルロッテの美しさはまるで物語に出て来るヒロインの様である事は認めよう。


 そのシャルロッテの美しさ程では無いもののフランもまた美しい容姿な為、この絵だけを切り取ればそう見えてしまうのかもしれないのだが、俺はノア王殿下と違いフランという女性の、ドミナリア家がどういうものであるかを知っている為にその光景が美しければ美しい程にフランの歪さが際立ち気持ちの悪いものを見せられている様な感覚に陥ってしまう。


 そしてフランとシャルロッテが何回か会話した後シャルロッテの右手がフランの左頬を叩き、乾いた音が響く。


 生憎フランとシャルロッテがあの間に何を話していたのかは聞こえなかったのだがそんな事など関係ない。


 俺は堪らずシャルロッテの元へと走り出すのであった。





 まるで悪夢を見せられている様である。


 一カ月前にわたくしはたしかにシャルロッテを貴族令嬢から助け出したのだが、だからと言って馴れ合うつもりなど毛頭無いのである。


 当たり前だ。






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