第30話 なんだか釈然としない
「お前、その傷──」
その時、乾いた音が馬車の中に響きわたる。
そこには流れる涙を拭おうともせずレオを親の仇かの様な形相で睨みつけるアンナと左頬を抑え何が起きたか理解出来ていないレオの姿が目に入って来た。
「フランお嬢様に触るなっ! フランお嬢様をバカにすんなぁぁぁぁあっ!! お前にフランお嬢様の何が分かるっ!? フランお嬢様はっ! フランお嬢様はっ!! ふぇえええんっ!!」
「あ、アンナっ!? 気持ちは嬉しいのですけれども落ち着いてっ!? ねっ!? わたくしはこんな三下に何を言われても何をされてもこの通り大丈夫ですからっ! ほらっ!」
ある意味アンナのお陰で一触即発の空気は物の見事に霧散した為、あの時はファインプレーだったと帰ってから褒め千切る事にしよう。
ただアンナの、初日に抱いたクールビューティ感もまた霧散してしまったのは秘密であると共にわたくしの左肩にある傷跡に過剰反応してしまうきらいがあると心のメモに記入するのであった。
◆
朝は本当最悪だった。
最悪だったが、アンナとの絆が更に深まった気がする為良しとしよう。
そんなアンナは普段より若干わたくしに近い位置で常に寄り添っている程には。
ただ、もともとわたくしの印象は最悪だった筈であるにも関わらずたった一カ月でここまで心を開き懐くものであろうか、と少し疑問でもある。
これはあれか? 最初の印象がどん底だった為に何をするにも好感度が上がってしまう、素行の悪人が雨に濡れる子猫に傘を差しただけで好感度鰻登りとかいうわたくしが嫌いなあの理論をわたくし自身が現在進行形で体験しているのだろうか?
まあ、生き延びる為には使える物は使わして頂きますが、なんだか釈然としない。
「さあ、アンナ…着きましてよ」
そんなこんなで昼休み。
わたくしは学園内にある手入れされた林の中、その少し開けた場所に来ていた。
流石貴族や王族御用達の学園、その広さたるや夢の国よりも優に広い敷地を保有しているのだが、その広さに随分と助けられている。
というのもお昼休みにあのストーカー王子から逃げる為である。
新学期初日の頃は王子に取り巻く女性達がうまい具合にガードしてくれて助かっていたのだがここ最近ストーカー王子は半ば強引に取り巻きを押し退けわたくしに絡もうとし始めた。
それは当然各休み時間わたくしの元へ来ようとする為最近では授業の終了を告げる鐘の音と共に教室外へと逃げているのである。
そして各休み時間という事は当然昼休みもストーカー王子はわたくしの元にやって来るので今ではぼっち飯をする為に林の中まで来ているのである。
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