第29話 吐いた唾は飲み込めんぞ

「だからっ、あの時お前を結果的に吹き飛ばしてしまった事を謝ると言っているんだろうがっ!!」


 しかしレオはわたくしの心情など知らないとばかりに約一カ月も前の事をわたくしに向かって投げやりに謝罪をし始める。


 ノア様はノア様で「全く、世話の焼ける奴らだ」みたいな顔をしてわたくし達を見ているだけである。


 そのいい事やりましたといった表情をしているノア様を出来る事ならこの馬車から突き落としたい。


 全力の蹴りで。


 そんな事より今は目の前のレオである。


 いくら恐怖心に潰されてしまいそうでもわたくしはわたくしを曲げたくはない。


 それに、それはなんだかこの不条理な運命を受け入れてしまいそうで、そっちの方が恐ろしい。


「レオさん、貴方謝罪というものがどういう意味かお分かりでしょうか?」

「バカにすんじゃねぇっ! ガキじゃあるまいしそんぐらい理解出来てるわっ!!」

「では、今回わたくしはレオさんからの謝罪はお受けいたしません」


 その瞬間馬車の空気が一瞬固まった気がした。


 しかしわたくしはレオから目線を逸らす事をせず寧ろ睨みつける。


「あ? この俺がドミナリア家のお前に頭を下げているのに、謝罪を受け入れないだと?」

「当然ですわ。 だって、貴方は本当に悪いと思って心から謝罪をしているのでは無いのでしょう? ノア様が謝れと仰っているから渋々わたくしに謝った。 違いまして?」


 レオの、ドミナリア家を強調する口ぶりからある程度わたくしの家系が貴族至上主義である事を知っているのかもしれない。


 故に、例えそこに心が籠っていなかったとしてもそのレオがわたくしに頭を下げるという事がいかに重大な事であるかという事ぐらい理解している。


 しかし、それはそれこれはこれである。


 心の篭っていない謝罪程腹立たしい物はない。


「それに、ドミナリア家の事を少しは理解しているが故のあの時の行動であったと言い訳をするのであれば………人をバカにするのもいい加減になさいませ。 レオさんも同様にわたくしをドミナリアというだけで偏見の目で見て差別し暴力を振るった。 その意味を理解しちゃんと反省した上で自主的に謝罪をしに来てくださいまし。 話はそれからですわ」

「貴様っ! 先程から言わしておけばこの俺をドミナリア家と同様だと? 吐いた唾は飲み込めんぞっ!!」

「きゃぁっ!?」


 そこまで怒りに任せて言い切るとやはりレオは反省する筈もなく逆ギレをしてわたくしの肩を掴むその動作により、わたくしの制服がズレてしまい左肩が露わになってしまう。

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