第28話 虎穴に入らずんば虎子を得ず


 おそらく敵はジュレミアが売ったと勘違いするのであろうが、ジュレミアや奴隷商が潰れようが既に百人程の奴隷を手に入れた後では最早あそこに用は無い。


 ただ、奴隷商だった場所のハコは便利な為それまでは使用させて貰うつもりである。


 そんな会話をしていたら着替えも終わり、迎えに来てくれたメイドのノックを合図にドミナリア家の仮面を被る。


 そして朝食も取り終え、登校しようと準備をしていたその時である。


「迎えに来たぞフランっ!!」


 ストーカーが我が家にやって来た様である。


 そしてそいつはただでさえ迷惑極まりないにも関わらずレオまで強引に連れて来ている様である。


 強引である事はレオの表情を見れば否が応でも分かるというものである。


 実に気分の悪い朝である。


 それはもう恐怖や苛立ちと言った感情を足してかき混ぜた上で二で割らないぐらいには気分が悪いしなんならあまりの恐怖と嫌悪感に足は竦み吐き気まで催して来る。


「大丈夫ですか? お嬢様」


 そんなわたくしを気遣って声をかけてくれる今日の側仕え当番のアンナが唯一の癒しである。


 もう抱きしめてめちゃくちゃにしたい程にアンナの好感度が絶賛うなぎ登りである。


 わたくし前世の記憶を持っておりますので女性の方も行けましてよ?


「ありがとう、アンナ。 大丈夫よ」


 そんなアンナに自分は大丈夫であると気丈に振る舞う。


 そう、大丈夫じゃないのはこのストーカー王子の頭の中身なのだから。


 そしてわたくしはノア王子に半ば無理矢理引っ張られる形で馬車の中へと入って行く。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 そう自分に言い聞かせる。


 しかしそれでもわたくしに襲いかかってくる恐怖に押しつぶされそうになる。


 ガマガエルを攻略した事により運命の矯正力が発動してしまったのではないか?


 このままわたくしは殺されるのではないか?


 殺されるとしたらどの様な殺され方をするのか。


 せめてアンナだけは生かして頂けるように今から懇願するべきなのか。


 考えれば考えるほど恐怖心は増して行きわたくしの手は小刻みに震え始め、それに気付いたアンナが優しく寄り添ってくれる。


「おい、聞いているのか? 俺は謝ったからなノアっ!!」

「………な、なんの事でしょうか?」


 どうやらわたくしが恐怖により押し潰されそうになっていた時、レオがわたくしに何かを言っていたみたいである。


 やばいヤバイやばいヤバイっ!! 何も聞いてなかったっ!! このまま生意気であると殺されるのではないかっ?


 そんな心の中の恐怖心を隠してレオにもう一度言う様に促す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る