三
いったいどれだけの時間が経ったのだろう。
しかし、その静寂は破られる。
突如として轟音が響き、見世物小屋が崩れ落ちたのだ。
「大丈夫か、蓮太郎!」
いち早く這い出た颯介が蓮太郎を引っ張り出す。助けられた蓮太郎もまた、颯介と共に未だ埋もれている人々を助ける。
その混迷の
「返せ! それは私のものだ!」
視線の先には、人魚の
雷に照らされ、鱗が一際強く輝いた。雨に打たれ
そうして人魚は主人に背を向けると、雨の流れる地面を這い進む。行き先、いや帰る先は川なのだろう。
「返せ!」
尚も叫声をあげ追い縋る主人は、人魚を追って隅田川へ飛び込んだ。それから
こうした騒ぎの中で、二人の両国見物は幕を閉じる。しかし物語は終わらない。
港町へ帰った数日後のこと。港にほど近い浜辺に、あの日見た人魚が流れ着いたのだ。白く砕ける波に揺られるがまま、力なく横たわり、幼子の木乃伊を抱きしめている。亡骸となった我が子を、それでも決して離すまいとする親のように。
嵐の中で人魚が発したものは、言葉ではなく金物を切り裂くような音にしか聞こえなかった。だから颯介たちに、この人魚の心事を
二人は人魚たちを
「蓮太郎、颯介。何やってるんだこんな所で」
「いやァ、その……」
「……海を眺めてたんだよ」
「そう? それよりも、そろそろ江戸の話を聞かせてくれよ。二人とも全然話してくれないじゃないか!」
土産話をねだる孫七に、二人は曖昧な返事をするだけだ。このときばかりは普段のようにじゃれ合う気にもなれなかった。
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