第19話 そしてあれから

 カツヤたちはあれから鬼門きもんの森で魔物を狩り続けてそれによってレベルアップして強さが増した。連携も強化され効率がアップしそれがまた強さをあげ、最強の循環をすることになった。

 魔王誕生と関連しているのかは分からないが、魔物たちも強さを増し、数も増えていった。目立った被害こそないが魔物の隆盛に街の住民たちは不穏ふおんな空気を感じていた。


 時間がたつにつれて聖女バルバラの人気はうなぎ登りに増した。住民の不安を解消してくれるという願望を背負った。勇者カツヤもまた期待されていた。

 デルメル教のペデロ教皇はうまく聖女と勇者を利用した。神託によって召喚された勇者は、聖女と共に教会の権威けんいを象徴することになった。

 ペデロは聖女と勇者をうまく利用して、何かあれば責任を聖女と勇者になすりつける気でいたのだ。しかし、このたくらみはうまくいかず、教会の権威けんい失墜しっついすることになる。

 聖女と勇者の人気は個人的なものであり、教会と必ずしも結びついていなかった。ペデロ教皇の執拗しつような教会アピールは、真摯しんしに魔物の脅威きょういに取り組む聖女と勇者と別の物と捉えられた。ペデロの俗物的ぞくぶつてきな行動が自滅じめつを招くことになる。


 そして神託通しんたくどうりに魔王は鬼門きもんの森の奥深くに誕生した。聖女バルバラ、勇者カツヤ、盾師ハーデス、雷使いヘルセポネ、四人のパーティーは魔王に何もさせることもなく討伐に成功した。

 あっけなかったように思えるが、四人がそれぞれの思いを胸に協力し研鑽しあった結果だった。召喚されたのがカツヤでなかったならこうはならずに、悲惨な未来があったのかもしれない。


 最大の脅威きょういである魔王は去ったが、魔物は活発なままだった。教会、国王、ギルド、それぞれ対応が後手後手にまわり、街の住民たちの不満が爆発した。ギルドを中心にして冒険者たちは何とか踏みとどまっていたが、なんと教皇と国王は逃げ出したのである。


 デルメル教会はペデロ教皇を追放そして背徳者はいとくしゃとして手配された。そして聖女の神託しんたくの能力を公式に認めて、聖女のくらいを教皇の上位に設定した。聖女バルバラは名実ともに教会のトップに君臨することになった。


 イルバニア王国に残されし者たちは火中の栗を拾わず、何と勇者カツヤに王位を禅譲ぜんじょうすることにした。前王は徳を失ったから、人類を未曾有みぞうの危機から救った勇者が徳をもって王位に君臨することこそ王道であるとした。国を治める困難から逃げたのか、あるいは勇者を傀儡かいらいにして一時期の危機から逃れたのか、真意はわからない。

 勇者カツヤは王位と関係なく魔物に立ち向かい、街の住民の熱狂的な支持はますますエスカレートした。


 やがてほどなく魔物の発生も沈静化し、王となったカツヤは聖女バルバラと結婚した。バルバラは王妃おうひとなり、盾師ハーデスは騎士団団長になり、雷使いヘルセポネは魔術団団長となり、王カツヤを支えた。

 カツヤとバルバラの間には、なぜか男の子しか授からなかったが、壮年に差し掛かろうかという時に待望の女の子が産まれた。

 カツヤはその子をと名付けた。ウミと迷ったが語感からにした。カツヤにとって未知な物の象徴が雪と海の向こうである。イルバニア王国も比較的温暖な気候で、カツヤの故郷同じで雪はほとんどらない。子供の頃からいつか一面の銀世界を見てみたいと思っていて、いまだに見ることは叶わず、そして今でもいつか見てみたいと思う。


 は聖女の能力を継いだ。女神デルメルの神託を受け取る能力と回復の魔術を使えるいやしの能力だ。魔王の誕生に前後して大量発生した魔物はカツヤたちの働きで沈静化したが、またいつ魔王が誕生するかもわからない。

 剣士の資質がある子供たちはハーデスの元で騎士見習いとして訓練している。はヘルセポネの元で魔術師見習いとして訓練している。

 平和に越したことはないが、またいつか神託が下りるのかもしれない。その時にはカツヤとバルバラの子供たちが、あるいは孫たちが子孫たちが立ち向かってくれるだろう。


 カツヤは故郷で眺めていた海の向こうがこのイルバニア王国なのだと思う。もちろん物理的には違うだろう。でもカツヤが望んだ世界がここにはあった。聖女とかどうでもいいが、カツヤをここに召喚してくれたこと、愛してくれたことにいつまでも感謝している。


おわり

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昔話だけど今につながってる カートン怪 @toshi998

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