第18話 ランクアップ

 翌朝、バルバラが迎えに来てくれて狩りに出かける。ハーデスとヘルセポネとはギルドで待ち合わせている。教会の中でも外でも好奇こうきの目で見られることは多いが、今日はバルバラが隣にいるせいか、いつもより多く見られている気がする。比較的に慣れたとはいえ、気にならないわけではない。

 幹線かんせん道路は朝から各々おのおのの目的に向かう人々で賑わっていた。活気のある街はエネルギーにあふれていて、こっちもやる気が湧いてくる。

 ギルドについた。すでにハーデスとヘルセポネは来ていて掲示板を見ていた。ハーデスはカツヤに気が付くと、朝の挨拶もそこそこに受付へと誘導した。

 受付の人にカツヤのランクがDランクにアップしたと言われた。討伐した魔物の魔石をいくらか納品した結果、ランクアップしたということらしい。

 江戸時代は身分は生まれた時から固定されている。何か手柄をたてたからといって身分が上がる訳じゃないし、そもそも手柄をたてるような場面もない。戦争もないしが暴れることもない。

 とはいえ少し嬉しかった。ランクが上がるのは成長の証でもあるわけだ。大きい有名な道場なら師範しはんとかランクのようなものがあるのかもしれないが、カツヤのいた田舎道場では何もなかった。

 冒険者ランクはCランクが一人前とされているそうで、ハーデスとヘルセポネはBランクだそうだ。よくわからないが今のように魔物を狩って魔石をギルドに納品すれば上がるのだろうか。

 カツヤは剣士として強くなることに興味を持っていて、それ以外のことに意識を向ける余裕はなかった。誰かに師事しじしたいと思わないでもないが、基本は寺子屋てらこやで習ったので、今は魔物をただひたすら狩る時なのかも知れない。


 今日はバルバラがいるので、さらに奥まで行くことになった。カツヤは鬼門きもんの森のことはよく知らないので、魔物の生息状況もよくわからない。もっと強い魔物と戦いたいと思うし、はやる気持ちも強い。それでも付き合ってくれるハーデスたちがいるので安心して戦うことが出来ているので、贅沢ぜいたくを言うことは出来ない。


 いくらかの雑魚ざこを倒しながら真っ直ぐ北に進んだ。カツヤは何かの気配けはいを感じた。ハーデスに合図して前に出る。樹の影からいきなり巨体が現れてカツヤを殴りつけてきた。魔物ランクCのオークだった。身長はゆうに2メートルをえていて、体重もカツヤの三倍はありそうだ。オークの拳を剣で受けたが、かなり後方まで弾き飛ばされた。ダメージはなかったが、体勢は崩され戦略的に後手にまわってしまった。すかさずハーデスがオークの前に出て盾をがっしり構えた。

 さすがにハーデスは戦い慣れているな。盾師たてしだけあって敵の攻撃を受けて味方が攻撃できる体勢を作れるようにしてくれる。ハーデスのおかげで安全安心して魔物討伐の経験が積める。オークのパワーをまともに受けるのは悪手として、オークの拳をいなすことが出来るだろうか。受け流すべきかかわすべきか。まあ、ハーデスがいるので防御は後回しにして、後方から踏み込んでオークの右手を狙う。拳とひじは避けて切刃きりはで切りつける。浅いがダメージが入る。オークが左手で掴みにきたのを左に飛んで避ける。かんだが予測がついた。掴みにくるのがわかったわけじゃなくて、こっちの攻撃が弱いので構わずに反撃してくるだろうって事だ。

 そのまま左に回り込み、オークをハーデスと挟み込む位置に移動した。カツヤがオークのヘイトをかったのでこちらを向く。魔物は基本的に何も考えていないかのように攻撃してくる。右の拳を構えつつ突進してくる。スピードは速くないが受けると吹き飛ばされるし、かわすのも簡単じゃない。

 コツコツとダメージを積み重ねる戦い方が良いかと思ったがひらめいた。突進してくるオークのひざを狙い打刃うちはで水平に打ち抜いた。手応えは十分にあった。

 オークはそのままの勢いで顔面からダイビングヘッド。痙攣けいれんしているうちに、うなじ切刃きりはでトドメを刺した。

 「スゲーなカツヤ。」

 ハーデスが驚いた表情で言った。

 「いや、ハーデスがきちんと防いでくれるから戦えるんだよ。」

 お世辞せじでも何でもなく本当にそう思う。

 「うぅ電撃でんげきぶっぱなしたい!」

 ヘルセポネが震えながら言った。

 「いや、カツヤのサポートの為に来ているのだからね。」

 ハーデスがヘルセポネに言った。

 「わかってるけどさー、カツヤの戦い見てるとたぎるもんがあんじゃんw」

 ヘルセポネが拳を握りしめ言った。

 「ありがとうな、付き合ってくれて。」

 カツヤがヘルセポネに言った。

 「ハーデスもバルバラもありがとう。」

 カツヤは頭を下げた。

 「いえ、こちらこそせっかく来て下さったのに、色々うまく出来なくてすみません。」

 バルバラはいち早く答えた。ハーデスとヘルセポネも気軽に返答しようとしたのだが、出来くなった。気まずくなったわけではないが、カツヤの境遇きょうぐうを思い言いずらくなった。

 見知らぬ世界にたったなのに他人に気を使えるカツヤに驚愕きょうがくしかないのだった。

 それからはあまり強い魔物も出現せずに、ヘルセポネもバルバラも出番がないまま終了した。

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