第17話 何も予定のない休日

 翌日カツヤは遅い時間に起きた。自覚してなかったが以外に疲れていたのかもしれない。特に予定も用事もなかったが、街を歩いてみようと思っていた。

 この街はイルベートという名前でイルバニア王国の首都になる。カツヤがお世話になっているデルメル教の大教会が街の中央にある。どれくらいの人が住んでいるのかわからないが、カツヤの故郷こきょうより規模きぼがはるかに大きい。

 東西に走っている大通りが幹線かんせんらしく、道幅も広く人通りも多く、様々さまざまなお店もありにぎわっている。少し行くとギルドがあり、もっと進むと東門で鬼門きもんの森がある外に出られる。

 どこかでご飯でも食べようかと思ったが、いざお店に入るとなるとりがつかなかった。田舎いなかには飲食店いんしょくてんもなかったし、そもそも外食自体の経験もなかった。

 ふと食欲しょくよくをそそる匂いが漂ってきた。小さな屋台から肉の焼ける音がしていて、店主が串焼きを焼いていた。

 「一本銅貨三枚だよ。おいしいよー」

 目があったカツヤに店主が声をかけてきた。金貨袋きんかぶくろから銀貨を一枚渡すと串焼きと銅貨七枚のおつりがきた。何の肉かわからないがとてもおいしそうだ。

 タレが甘辛くて食べたことのない味だった。そもそもカツヤの田舎ではあまり肉が手に入らないので、食べる機会もほとんどなかった。文化レベルとか繁栄とかよくわからないが、イルバニア王国の首都イルベートは日本の首都江戸より栄えているのだろうか。

 江戸に行ったことのないカツヤには判断がつくはずもなかった。一度くらいは江戸に行ってみたかったが、武士とはいえ田舎の低層階級のカツヤにはたぶん無理だったろうし、いろんな体験のできる今が本当に貴重なことだと思う。

 ブラブラ歩いているとギルドについた。おもしろそうなお店も何軒かあったが、入る勇気もなかった。結局ギルドくらいしかくる場所がない。

 昼間のせいなのかギルドは閑散かんさんとしていた。左手にある併設へいせつされている食堂にも人はまばらだった。


 正面奥にある掲示板を見ることにしてみた。不思議なことに張り出されている依頼の文字が読める。とくに気にしていなかったがよくよく思い返してみると

話す言葉も日本語とは違う気がする。文字も日本語とは違うとは思うが理解はできる。まったくおかしなことなのかもしれないが、召喚されたこと自体がありえない事なので、言葉の問題くらい大したことじゃないのかもしれない。不便ふべんがあるわけじゃないので気にしてもしかたがない。悩んだところで答えが分かるわけじゃないし、受け入れるしか選択肢がないだろう。

 興味があって見てみたが、内容はいまいち分からなかった。護衛ごえいとか討伐とか単語は読み取れるが、それがどんなことをするのか分からない。

 また機会があったらハーデスにでも聞いてみようと思った。

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