第12話 ただ喋るだけで

 武器屋を出てから、バルバラの後について行った。

 少し街のにぎわいが閑散かんさんとしてきた辺りで、おしゃれなお店に入った。店内は程よく空いていた。

 紅茶という飲み物がイルバニア王国では良く飲まれているそうで、それを注文した。

 やはりバルバラは美人だ。今日は修道服姿で厳粛げんしゅくな雰囲気がいっそう可憐かれんさを引き立てている。

 そういえば日本では若い女性と接する機会なんてほとんどなかった。そう自覚すると何だか緊張きんちょうしてきた。

「まずは私たちの都合でこちらの世界に召喚したことをおび致します。」

 そう言ってバルバラは深く長くお辞儀した。

「こちらの世界って、ここは海の向こうじゃないのか。」

 カツヤには地球とか世界の概念がいねんがわかっていなかったので、ここが異世界であることもわからなかった。

「私にもくわしくはわかりませんが、勇者様がいた世界とこの世界はまったく別の世界であり、つまり異世界から勇者様を神託しんたくにより召喚致しました。」

 バルバラは説明した。

 「よくわからないしお詫びされることなのかも知れないけど、召喚してもらったことには感謝かんしゃしているよ。何の目的も目標もない人生だったけど、魔王を倒す目的と平和を目標に戦うことは僕にとって大切なことだよ。」

 カツヤは自然な笑顔を浮かべていた。こんな風に誰かと話しをすることができている自分に驚いていた。

 よくよく考えてみると、挨拶あいさつしたり日常的な会話を交わすことはあっても、誰かと話しをすることがまったくなかった事に気が付いた。両親とも必要なこと以外は話さないし友達のひとりもいない。今まで気にしたことがなかったが、普通ではなかったのかもしれない。


 それからバルバラが現在のイルバニア王国の状況を説明してくれた。

 魔物の発生がおよそ三年後と予言されている魔王の誕生に向けて増えていること。まだ深刻しんこくな状態ではないが、着実に質と量ともに増していて、時間と共に状況が悪化するのは目に見えている。

 教会では騎士や冒険者の回復にあたっているが、街の住民の不安も刻一刻と増している。

 そんな時、バルバラが神託しんたくを受け、勇者を召喚し魔物の討伐を続ければ、魔王を倒す強さを手にいれられるだろう、とのことだった。

 ハーデスとヘルセポネが勇者の魔物討伐に協力してくれるそうなので、実践経験を積んでどれくらい強くなれるのか楽しみであった。


 カツヤは目の前のバルバラのことが気になっていた。女神めがみがいるならばバルバラのことなんじゃかいかと思った。あるいは単にカツヤが女性慣れしていないから意識してしまっているだけかもしれない。

 バルバラを目の前にして平静へいせいでいられる男なんているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る