第5話 ここはどこ?私は誰?

 台の上に引かれた布団に寝かされていた。部屋は寺子屋よりも広く、カツヤの想像の範囲外だった。ここは海の向こうと判断する以外の知識がカツヤにはなかった。

 白髪の老人に導かれてソファーに座らされた。

 「体調は大丈夫か?熱もないし他も大丈夫そうじゃが、頭痛がするとか不調はないか?」

 「ありません。」

 少し頭がクラクラする気がするが、きっと気のせいにしておいた方がいいだろう。

 「勇者殿、ワシはデメテル教教皇のぺトロじゃっ!」

 白髪の老人はゆっくりと切り出した。カツヤは意味がわからなかった。単語の意味もそうだが、異人が同じ言葉を話すものだろうか。老人の話した言葉は日本語ではない。でもカツヤには言葉が入ってきた。しかし、勇者とかデメテル教とか教皇とか聞いたことがない。ぺトロがこの老人の名前らしいとは想像できた。

 「勇者かどうかわかりませんが、私はカツヤと申します。」

 わからないことだらけだったが、何を聞けばいいかすらわからなかった。

 「デメテル様から神託があってのう、それで召喚したから、勇者で間違いないだ。」

 「ちょっと何言ってるかわからないです。」

 もう少し詳しい説明を求めた。ぺトロ教皇はゆっくりと説明を始めた。

 ここがイルバニア王国であること、デメテル教はこの国唯一の宗教であり、最近魔物の活動が活発化していて、それにより魔王の誕生するのではないかと噂されて、国民は不安に陥っている。少し前にデルメル様から神託があり、魔王の誕生が近くあと数年しかないが、勇者の召喚方法を教えられて、今に至っている。

 カツヤの知識ではここが地球のどこかで、神デルメルは知らないが天照大神のようなえらい神様と理解した。自分が勇者かどうかは知らないが、魔王は悪魔や妖怪の王様でそれを討伐するために呼ばれたのだと理解した。

 不思議なことにカツヤは、こうして召喚されたことと魔王を討伐することを受け入れた。村や武士ということに未練どころか嫌悪すら感じていたから、外部的要因によってそこから逃れられることは幸運でしかなかった。唯一興味を持っていた剣術はあのまま日本にいても生かされることがないのは自明の理だった。いくらかの模擬戦の経験はあったが真剣を使った戦いなぞ、平和な日本に望むべくもなかった。

 知らない場所や状況に来てしまった不安感よりも、人生に起こった荒波に期待踊らせるカツヤであった。

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