第4話 海の向こう
意識が戻った時、カツヤはその状態にとまどった。カツヤは風邪をひいたこともなく一切病気になったこともなかったが、何か悪い病気にでもかかったのではないかと思った。
どこか痛いわけではないが、気持ち悪いというのか重い感じというのか頭も働かずうまく考えられなかった。
身体を動かすどころか手足が無事にちゃんと正常にあるのかもわからない。まぶたも重く目も開かない。
意識が覚醒してからどのくらいの時間が経ったのだろうか。肉体どころか自我すらも消滅してしまうのではないかという恐怖に苛まれ、次元の狭間の深淵に沈み込んで溺れていて永遠に抜け出せないのではないかと考えてしまう。
ふっと、記憶にないような良い匂いがした。五感も意識もすべてない状態から、不意に嗅覚が機能した。その匂いをすぐ近くに感じた。それこそ目の前から匂ってくるかのように感じてそれが肌からの感触なのかわからないが、触覚も戻ったのかと思っていると、急速に意識も戻り目が開いた。
かわいい女の子と目があった。
「ひゃっ」
女の子は小さく驚くと走り去っていった。
金髪に白い肌。カツヤには何もかも理解できなかった。カツヤが知っている人はすべて黒髪に黒目で黄色人種である。外国には肌の黒い人や金色の髪をした人が存在していることはかろうじて知ってはいたが、自分が出会うとは夢にも想像したことがなかった。
山の上から海の向こうを幾度も妄想していたが、そこに異人たちが住んでいるとは思わなかった。普通に考えればおかしいとわかるはずだが、江戸の片田舎の少年が異人に会ったことも見たこともあるはずもなく、想像にも妄想にも日本人しか出てこなかったのである。
カツヤはここが海の向こうの異国なのではと思った。村に帰るところだった自分がなぜ遠くに来てしまったのかわからないが、神隠し的なものではないのかと思った。
もう一度目を開いて自分がどこにいるのか確認しようとしたが、今までの人生で見たこともない部屋にいた。自分の部屋とも寺子屋ともまったく違う部屋だった。カツヤの知識では異国がどんなデザインの部屋かもわからないが、異国の部屋としか考えようがなかった。
しばらくして人の気配がして枕元に立ったのがわかった。
目を開けると白髪の白衣を着た老人がカツヤの様子を診察した。カツヤは目を閉じてなすがままにするしかなかった。
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