第2話 長時間通学が苦にならない
しばらくして他の村の子供たちが田んぼの手伝いをさせらるようになった頃、カツヤは町の寺子屋に通うようになった。町には歩いて一刻ほどかかった。高低差もあり子供の足では厳しかったが、カツヤは足の痛みよりも未知の世界への好奇心が勝っていてむしろ期待感しかなかった。慣れるのにもそれほど時間はかからなかった。
町にはカツヤが初めて訪れる前に想像していたような場所ではなかった。むしろ人間はちっぽけな村とあまり変わらないかも知れない。それでもかなりましと思えたのは剣術に出会えたからだ。
町の寺子屋は道場も兼ねていて、近隣の村から武士の子供たちが集まっていた。父親が武士いうのが本当だとは思っていなかったので意外ではあった。地主だから本当はちょっと偉いだけの農民かと思っていた。
読み書きは性に合わなかったが、刀を振る剣術には心が震えた。真剣は最初に見せてもらえただけで使えるのは木刀だけだったが、背筋を伸ばして構えると世界がシンとして現実さえ消えたように感じた。剣術とは単純にいえば人を殺す技術なのかもしれないが、それとは別の動作の追求や術を極める道とか精神的な部分にのめり込んでいった。
とはいえカツヤはちっぽけな村と同様にここでもぼっちだった。同じ時期に寺子屋に入ってきた子供たちは一番偉い武士の家の子供を中心につるんで、一番ちっぽけで辺境の子供のカツヤを何かと馬鹿にしたり家や村の悪口を言ってきた。カツヤは心底下らないと思っていた。何を言われても無言のまま睨んでいるとやがて去っていった。世間を呪うには十分な理由があったが何かするというよりは無難に過ごして、剣術に打ち込みたかった。剣術を習うには寺子屋に通う必要があったので、たとえ自分に非がなくとも問題を起こしてダメにする気はなかった。
剣術の才能があったのか本人の努力によるものなのかわからないが、カツヤはあっという間に寺子屋で一番強くなった。なかには倍も年齢が上の子供もいたが、誰もカツヤに勝てなくなった。
もともと大した道場でもないし戦争もない世の中なので、真剣に剣術に取り組んでいるのがカツヤだけであったからという理由もあるのかもしれない。とはいえ年齢も体格も力も倍くらいある相手に勝つということは、カツヤに素質も才能もあったのかもしれない。
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