昔話だけど今につながってる

カートン怪

第1話 日本にいた子供の頃

 カツヤは地主の長男に生まれたが、村は小さく貧しく何もなかった。父親は武士だと自慢げに言っていたが、そもそも武士がどんなものか知らなかった。

 山間部の村であったが雪が降ることは滅多になく温暖な気候だった。場所によっては遥か遠くに太平洋がわずかに見えた。

 カツヤの世界はあまりにもちっぽけだった。


 物心ついた頃から同年代の子供たちは村中を走りまわったりして遊んでいた。田んぼや畑の仕事を手伝わされるようになるまでのわずかな自由な時間だ。ちっぽけなこの村では子供も貴重な労働力だ。

 カツヤは地主の息子だったので他の子供とは違った。あるいはカツヤの方からみんなに近寄れば一緒に遊んだのかもしれない。おとなしく引っ込みがちだったカツヤは自然と仲間はずれになった。父親が言うとおり武士ならば身分の違いも関係しているかもしれない。

 カツヤは自分がぼっちなのを気にしていなかった。ぼっちが寂しくないわけじゃないが、他の子供たちと仲良くなれるとはとても思えなかった。たまに遭遇すると臭い物を見るような視線を向けてくるのは煩わしかったが、それ以上近づいてこないのはありがたかった。

 父親はカツヤにたいして興味がないらしくとくに絡んでくることもなかった。酒に酔うとしつこく絡んでくることもあったが、自分の部屋に避難してしまえば追ってはこなかった。

 母親は常に父親の機嫌を伺っていてそのこと以外に関心を示さなかった。そのなかにカツヤも含まれいた。

 いつからかカツヤは村から半刻ほど山を登った場所で過ごすようになった。晴れた日には、小さくだが太平洋が良く見えた。その手前には大きな城下町も見えたが、海面の方が何倍も輝いて見えた。

 海の向こうには何があるのかあきることなくいつまでも想像していられた。何の知識もないカツヤはたいした想像力も働かなかったが現実よりは何倍も輝いた世界だった。

 生まれた場所が悪かったのか、それとも家庭が悪かったのか、はたまた時代が悪かったのか。カツヤは自分の境遇を呪わずにはいられなかった。

 何をどうずればいいのか知識もひらめきも思いつきもなく、ただため息をついて遅々と進まない時間が過ぎ去るのを望んでいた。

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