第13話 天才エンジニア(2)

二人が密約を交わし、タラップを降りたその時。サーニンとロビンと同じく、技師と兵士が形ばかりの検証作業を行っている態のさざめきが響き合うドックの中に、一人の男が姿を現した。


ロビンがいち早くその男に目を留める。


――ovaの開発者。


ノベに最大の負傷を負わせた、あの事故の原因を作った張本人。特許技師のケン・バラドだった。


「よく、抜け抜けと姿を現せるものだ」


今にもつかみかかりそうなほど怒気をはらんでいるのが明らかだったが、それでも周りを意識して、最大限抑えた声音でロビンは正面から男に声をかけた。


「お前が私のことをどう思っていようと構わない。だが、ここは帝国帝都だ。私を断罪したいのであれば、場所をわきまえるんだな」


抑揚のない声。ロビンのHF機体の方に視線をやり、横向けた顔からは表情が読み取れない。


「ふざけるな! あんたの犠牲になったのはノベだけじゃない。工房の……」


こらえきれないように相手の胸ぐらに掴みかかった……その瞬間、逆手を掴まれねじり上げられる。いつぞや見た、敵対するものを悉くねじ伏せるための容赦のない体術。


「いいか。ノベのことは口に出すな!」


ケンはロブの声にかぶせるように、声を張った。


「お前は帝国兵だろうが。それが養成所の同期に関わることであれ、どんなことであれ、国の意に逆らうようなことを大っぴらに言ってんじゃねぇよ」


荒げる声とは対照的に、まっすぐにロブを見据える目は静かだ。


「立場をわきまえろ」


鋭く言い捨てるように言うと、太い腕が容赦なくロブの肩を機体に押し付けた。身動きが取れなくなったロブがそれでもなお声をあげようとすると、ケンは前傾姿勢になり、息がかかるほど至近距離まで顔を近づけた。ケンの前髪がはらりとロブの額にかかる。


「騒ぐなバカ……ここで過去のつながりがバレてみろ。お前の今までのすべての思惑がパアになる。そうだろ」


耳元で囁いた。


「すみません! 師長」


サーニンがロビンの不逞な行為に、蒼白な顔で間に割って入ろうとする。


「どうしました?」


騒ぎを聞きつけて、場の監視役を担う帝国技師も駆けつけた。


「こいつが、ノベの一件をしつこく追求するもので、つい熱くなった。……すまない」


弁解しつつ、ケンの黒い瞳がまっすぐにロビンを見つめた。


「おい、お前」


節くれ立ったひとさし指が、ロビンを指す。


「宿舎エリア3号棟の201だ。詫び入れに来い、ここでの生き延び方を教えてやるよ」






「ロブ、ひやひやしたぜ」


ケンがその場を去った後、隣のブースで作業していたオリバーが駆け寄ってきた。


「お前、なんつーこと言ってくれるんだ!」


サーニンは師長へのロビンの暴言に混乱する頭を沈めながら、事の始終を理解しようと、頭を抱えている。


「……我慢できなかった。驚かせたな。ごめん、サーニン」


謝罪の言葉を述べながらも怒りの冷めやらぬ様子のロビンをしばし見つめて、オリバーはぼそりと、呟く。


「お前、あいつをタカノリのことで糾弾した訳じゃないだろ? 追求しようとしたのは……過去のことだろ?」


ロビンは頷いた。


「あいつはお前の突然の激高に衆目が集まるのに気づいて、瞬時に話題をすり替えた。お前と奴の過去の関係がバレないために。つまり、お前を守ったんだぜ?」

「……」


そうであったとしても、その真意は? ロビンは不審に満ちた顔で押し黙った。

その意を汲むようにオリバーが続ける。


「目的なんか知るかよ。とにかく〝お呼ばれ〟したんだ。行って来いよ。過去の奴の所行は確かに許せない。だが、真意はどうであれせっかく二人で会うチャンスをくれたんだ。無駄にするな」




***




一時滞在専用の宿舎が並ぶエリアに、ロビンはバイクで乗り付けた。


ケンの居室はセキュリティがAランクのエリアにあった。駐在中の基地内でセキュリティA、ドアホン付きの1人部屋。ケンの帝国軍内での待遇が知れた。

だが、それを得るためにケンが犠牲にしたもの。それを思うにつけ、ロビンは腸の煮えくり返る思いだった。




ドアホンとならすと、開通を示すランプがともる。


「ロビン・ラスキン」


簡潔に、名前だけ述べる。


「キーは開いている。そのまま入れ」

「……」


ドアを開けると、ケンはロビンに一瞥をくれ、無言で手招いた。

手の届く距離まで近づいた所で、ケンの片腕がやにわにロビンに向けて伸びた。


「な…!!」


ケンは座っていたベッドにロビンを組み伏すように押し倒すと、その口を手で覆い、耳元で虫の羽音の様にひそやかに呟いた。


「この部屋は監視されている。セキュリティAランクは何も対外的な監視だけじゃない。内側の監視も同じくらい厳しいってことだ」

「……?!」

「俺の背後の一角にカメラが一機。サイドの壁際に一機。……盗聴器もそこかしこにしかけられている。このボリュームが限界だ」


動こうと思っても、指一本自由にならない状態だった。


「バーーーカ。本気で襲うつもりはない。伝えたいことはそう多くない。適当に抗う振りをしながら聞いてろ」

「お前のこということなど、聞くと思うか?」


くぐもった声で、ロビン精いっぱい反抗する。


「あのovaの大元を設計したのがアレクセイだったとしても、か?」

「……」


ロビンの瞳が揺れた。あの災厄の元凶の、悪魔のようなHFを作ったのが、アレクセイ?


「俺が技師として得意とする所は実装だ。できるのはせいぜい改造まで。一からの設計は不得手。それはお前が一番知ってるだろう? 俺の行為。すべてはアレクの意思なんだよ」


猜疑心・憎悪、そして少しの困惑。ケンにはロビンの表情から内心が手に取るようにわかった。


「俺のことを信じないならそれでもいい。ただ……このまま帝国の犬を演じ続けたところで、帝国は尻尾をださない。けしてお前のやりたいことの糸口はつかめないだろう。お前のすべきこと。それは、カルディアに俺が今から渡すものを伝えることだ」


ケンは、自分がエリア10(ここ)にいる、その目的をすべて分かっている。ロビンは察知した。そのことが、ロビンの怒りを増幅させる。


――だれが、その状況を作ったかわかってんのか!


ロビンの感情にはまったく関知せず、ケンは話を進める。 


「カウント3で解放する。俺を殴って精一杯罵倒しろ、それからすぐに部屋を出て行け」

「…早く離せ!」


ロビンが状況を思い出したように声を上げて身をよじらすと、ケンは両手の拘束を強めながら口早に付け加えた。


「一つ言い忘れた。ノベの乗ったova。あれの力を信用するな。……あの時となんら状況は変わっていないことがわかっただろう。危険な未完成品だ」


静かな目だった。過去、ロビンが絶対的に信頼していた親友の目だった。


「お前は、俺とアレクの自信作に乗るんだ。カルディアでな」


思わず、すべてを忘れて頷きそうになった。

ケンはそのバカ正直なロビンの感情をすべて見透かしたように、薄く笑みを浮かべながらおもむろにカウントを始めた。


「三…二…一」


最後に。

ケンの唇がロビンの口を覆った。


「!!」


拘束する腕が緩められた途端、ロビンの拳がケンの左頬に食い込んだ。


「!!ふざけんな、タコ!」


そう言い捨てて、ロブは身を翻した。

音を立ててしまったドアを見つめて、ケンはこみ上げる笑いをかみ殺した。


「…ふざけんな、タコ?」


繰り返すと、決まり文句で罵倒する幼い声が聞こえた気がして、ケンは頬を押さえながら、今度は声を立てて笑った。




――くそっ。


ロビンは乱れた衣服を整えながら、口の奥に転がりこんだカプセルを手に取った。折り畳まれてごく小さくなった紙片に書かれているのは、HFの設計図の様だった。


そこに書かれている字。自分に文字を教えた人の字。その所為でロビンも何度か字を他人に笑われるはめに陥った、それほど判読が難しい特徴的な癖字。


見間違うはずもない。アレクセイの字だった。




***




「ロブ」


自室でスチールの味気ない机に突っ伏していると、軽く肩を叩かれた。選抜兵の一人、タリムだ。プライバシーの確保という慣習を一切もたない彼にノックの重要性を説くことは、ロビンはとうにあきらめている。


「酒盛り、酒盛り」


黒の鋼の様な強い髪。赤銅色の肌。彼は大陸の東南部の出身である。標準語の圏外出身の彼は、帝国語を一通り不自由なく扱うものの、非常に癖のあるイントネーションで言葉を話す。なお、彼の出身部族は敬虔なターヤム教の宗徒であり、ターヤムの戒律では、飲酒をきつく戒めている……はずなのだが。


「タリム、俺たちは昨夜も飲んだ。そして寝過ごし、招集に遅刻するところだった、よな?」


ロビンは目を据わらせ、詰め寄った。


「落ち着イテ、ロブ」

「この上なく落ち着いている」

「余計、怖いヨ」


引きつった笑みを浮かべたタリムが壁際に追いつめられた時。


「酒に弱いのも寝過ごしたのもお前のせいだろ。すすめたタリムのせいじゃない」


ふりむくとクリストファーが部屋の戸を開けたところだった。灰色の髪。赤黒い肌。精悍……というか、ドスの利いた顔というのが正しい気がする。昨日浴びるように誰よりも酒を飲んだ上、寝こけたロビンたちを起こすでなく、一人余裕で集合の刻限に間に合ったのは彼である。

選抜兵になって以来、各々に個室が与えられていたがなぜかこの二人は隙あらばロビンの部屋に来て酒をあおっている。

クリスの言葉は正論であるが、だから余計腹が立つ。


「さ、タリム酒を出せ」


クリスは一変して、満面の笑みをタリムに向けた。その笑顔はその厳めしい顔を一転していかにも人が良さそうに見せる。


「飲も、飲も〜」


タリムが跳ねた。


「ロブ、つまみを呼んでこい」


つまみとは隣室にいるはずのオリバーのことである。なぜか最近酒盛りを前提にして所持品の中に大量に乾きものをそろえている。




「はーまたやってんね」


呼びに行くまでもなく、オリバーが訪れた。


「毎日暇だネ〜」


タリムが心底幸せそうに酒を口に含みながら話す。


「ノベの事故以来、やることといったら格好だけの検証作業だからな」


と、つまらなそうにクリス。


「カルディアの怖い人たちが納得シナイ限り、これ続くワケ?」

「だろうな。カルディアは帝国にとって、最重要地域であることは間違いないから。他の地域と違って主張を真っ向から突っぱねる訳にはいかないんだよ」

「ヤッパリあのノベの行動、中枢の人たちの思惑の外だったってコト?」

「……だろうな」


とタリムの疑問を肯定して、クリスはロビンを見つめる。


「聞いていいか?」


何を、とは聞き返さない。何を意味するのかは分かっていたからだ。


「どうぞ」


勘ぐられないように、ごく軽く受ける。


「あの時、『暴走化』とお前は言ったな? あれはどういうことだ?」

「……」

「あの時、ノベに何が起こったか知っているということか?」

「いや、知らない」

「では、その言葉の出所は?」


追求は執拗だった。


「ノベは明らかに常と異なった行動を示していただろう? ovaの暴走、という風に見えたんだよ。新型というのは、常にそういう危険性を孕んでいるんだから」

「では、お前もあれを帝国のいうような想定内の事態ではなく、想定外の突発的出来事だったと考えているということか?」

「……そうだ」


ロビンは肯定した。


「……ガラムと言ウ言葉がターヤムの教典にある」


タリムがふと、口を開いた。


「ガラムは神を守る。強い強い戦士ダ。そして美しく穏やかダ。でも、一度彼が刀を抜く。そしたら、彼は目の前の者をすべて斬り殺す。ソウしなければならナイ」

「なぜ?」


クリスはその肉体派に見える外見に似合わず多方面に教養が深い。この話にも食いついた。


「僧侶のように教典に通じてないカラ。ワタシは知らない。けれど、ガラムはそうやって敵とともに愛する妻も殺した」


クリスが頷く。


「…似たような昔話は中央にもあるな。もっともそれは、異民族の屍の山を築くのに恍惚感を覚えた武将が最後には自軍に手を下したというものだが。話が生まれた当時に精神高揚作用のある麻薬が多用されていたいう解釈が主流だが、俺はもっと主観的に解釈すると、どの人間にも思い当たるような教訓譚になると考えている」

「どの時代にも、自分の望みで凶徒化する奴がいるってこと?」


先回りするようにオリバーが言った。


「あたらずといえども」


クリスは真顔で頷く。


「しかも、それは決して特殊な感情ではない。周りに認められたい、特定の人物に好かれたい、見返したい。そんな些細な感情が契機になりうる、というところだ」

「ウ〜ン、その願望。自分にも思い当たる所がないといったらウソだネ」


タリムは唸り、ロビンは何かを必死にこらえるように、震える声を発した。


「そういう人間本来の気持ちを、逆手に取るような……そんな技術開発を帝国が進めているとするのなら……」


続く言葉を、なんとかロビンは飲み込んだ。

クリスもタリムも、その気配を察しつつ。気取らないように装った。


「今、俺たちは帝国の兵士だ。その立場にいる限り、個は捨てて、それ相応の振る舞いをするまでだ」


クリスは誰にともなく呟いた。危うきには近寄らず、危険は避けて通る。帝国に暮らす者が自然に身につける生きる術だった。




***




「遠路はるばるお越しいただき、痛み入ります」


視察団本体に遅れること三日、カルディア側の視察団のトップが帝都に入った。


「視察団の皆様におかれては到着してからほとんど休息の間もなく、視察に注力されているとのこと、報告を受けております。連日晩餐の席を設けておりますものを、なかなかお運びいただけないご様子で。本日こそぜひご同席いただきたく」


本部棟の応接間で視察三日目を迎えたカルディアの一団を迎え入れたのは、チャールズ・シュミッツアー中佐。統一戦争以来、カルディアとの外部交渉を一手に担い、一触即発の危機を武力行使に発展させずに解消してきたという実績がある。帝国はもとより、カルディア側にも大きな信頼を寄せられる人物であった。タカユキ・ノベとは同窓であり、統一戦争以来の帝国主導の大陸の安寧を守ってきた立役者の一人でもある。


「中佐、御託はいい。本題に移ろう」


先日ケンと直接質疑で対峙した少女をはじめ、一団五名の先頭に立って接待の誘いをばさりと切り捨てるように言ったのは、カルディア人に珍しい長身の青年。しかし艶のある黒い目、そして野生の動物のように隆起した見事な筋肉が、彼がまぎれもなくカルディアの民であることを示していた。


カルディアは他民族化・混血が進んだ都市部には見られない、純粋な単一民族地域として残る。人々の上背は中央の民に比べ低いが、筋肉質で頑健な肉体を持つ。高地の寒風と日差しにさらされて肌は赤茶け、黒髪は灰色に染まるが、大きな目の輝きは老若男女共通して美しい。


「それでは。視察の結論をお伺いしたいのですが」


シュミツァーは相手の性格を熟知している。これ以上の誘いは逆効果だった。即座に取り下げ、話題を切り替える。


「……最新型の導入は見送りだ」


問いに青年が再び口を開いた。トーンが低く、聞く者の鼓膜を心地よく震わせる。美声である。

カルディア領内では従来の民族言語が色濃く残り、日常においては帝国の標準語を話さない。しかし彼はおよそ完璧な帝国語を話した。


「デンガール殿」


平時、カルディアとの対外的な交渉を一手に担うシュミッツァー上尉は、青年の意見を一笑にふした。


統一戦争末期、ブレスタンの自治を帝国に認めさせる交渉を結実させたのは当時若干二十四歳だった現在の首長ロキ・シュバズだった。デンガールはそのロキの三男。明晰な頭脳・恵まれた外見と肉体。若年層の人望を一身に集めるカルディア軍の最高司令官、総兵長を冠する。


「当然の結論だと受け入れるべきだ。新型開発の説明の際に、パイロットに対するリスクを全く告知されることはなかった。また、先日の事態が果たして貴方らが言う通り起こりえた事態なのか。それを裏付ける証拠も一つも提出されない。その信頼性に欠ける対応に、なにか言い分はあるかと聞いている」

「パイロットの件はバラドからも再三申している通り、こちらでしかと検証してから引き渡しいたします。また、何度も申し上げますが今回の事態は我々にとってあらかじめプログラムとして組んでいた想定内の状況なのです。現に、数千を数える観客について、一人の死傷者も出していない」


いかにも帝国軍人といった態で紋切り型の答えをした。


「唯一の幸いを誇張して言い分にするのは止めてもらおうか。操縦者は生存しているのだろう? であれば、対面させてもらえるか? 直接仔細を聴取したい」


シュミッツァーは黙った。

巧みな質問だった。生存していないという回答、生存を認め対面を許可する回答、対面を拒否する回答。いずれも〝想定外〟の暴走を認めることにつながり、残された選択肢は沈黙しかなかった。

デンガールは予想通りの反応を鼻で笑った。数秒、考え込むように黙したが、


「現状で新型五十機の納入は承諾できかねる。しかし、一つ譲歩してもいい」


シュミッツァーを試すように見つめ、言葉を切る。


「どうぞ。聞いてから判断させていただきます」


さすがにシュミッツァーも交渉慣れしている。表には一切動揺を示さず、よどみなく促した。


「新型五機のみカルディア入国を許可する。一月の間、操縦技能・HF本機の情報双方について新型についての再ガイダンスを要求する。安全の担保は大前提で、だ」


まだ続きがあると見て、シュミッツァーは一言も漏らさない。


「さらに条件がある。教授役は、精鋭からハーケンを。それから先刻の公開訓練で操作技能が群を抜いていた兵士……ロビンと言ったか? そいつを寄越してくれ。操縦まわりについてはあと二人、同等の操作レベルを持っている者を。それから二つ星以上の技師を2名以上」


デンガールの口調はあくまで鋭かった。


「三六六協調宣言の規約第三十条にてらして、すべてを公開してもらう。やましい事がなければ、隠し立てする必要もない」


半ば挑むような視線を、シュミツァーに向ける。


「それが終了した暁には、兼ねてからの約通りに新型五十機の受け入れを呑もう。つつがなく終わった場合には、な」


部屋の張り詰めた空気が一層緊張感を増した。


痛いほどの静寂を破る吐息が、シュミッツァーの口から漏れる。


「……条件はすべて呑みましょう。一連の約は書状化させていただきますが、よろしいか?」


デンガールはこともなげに頷いた。


「これで隠し立てしている所が見つかれば、我々はこの後の帝国との付き合いを見直さなければならないだろう」


部屋を去り際に、残された帝国人に向けたその視線。

目線で殺すことができるとすれば、瞬殺されていたかもしれない。

三十年前には歴戦の勇士と謳われたシュミッツァーが、思わず喉を鳴らすほどの強烈な眼光だった。


――カルディアに自らの最新兵器を持ちこむこと。後悔するなよ。


言外に語ったその意中を、シュミッツァーは正面から感じ取った。

そのデンガールの堂々たる所作には、


――結論は上層部の意向に添っているとはいえ、果たしてこの行為は正しかったのか。


と、帝国に心からの忠節を誓うシュミッツァーにすら疑いの念を抱かせてしまうほどの圧倒的な凄みが感じられた。

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