073-外れる双道

『Clavis、現在視点から4時の方向に重戦車二輌を確認した、交戦は避けて基地へ向かえ』

「了解」


私は今、砂漠を移動している。

敵基地殲滅の任を受けたからだ。


「基地のデータをお願いします、通信の状態が悪化しているのであれば衛星写真のみで出来ますか?」

『可能だ、即座に送信する』


役目を失った私は、こうして戦略兵器として運用されることになった。

そう、役目を失ったのだ。

一週間前、私のもとを訪れた護衛が、書簡を私に手渡した。

その書簡には、私をクロノスのプロジェクトから外し、シークトリア軍直属のシークトリア警備部隊「ジークレディン」に配属することが伝えられた。

その日の夜に、クロノスが自分の所にパイロットが来た事を教えてくれた。

何故かは分からないが、私は綺麗にお払い箱にされ、クロノスには再び人間が乗るのだ。


『Clavis、指定のルートから外れている』

「....申し訳ありません、所定外のラグが発生しました。ただちに修正します」

『使えないな、あまり不具合が多いようでは廃棄になるぞ』

「......申し訳ありません」


もう私を守る立場はない。

完全に破壊されれば直しては貰えないし、隊員からの圧は強い。


『早急に殲滅しろ。お前の安全など確保しなくていい、お前は弾薬と同じだ』

「.....はい」


更に速度を上げ、哨戒を搔い潜る。

今、ジャミングを展開して地上部隊が陽動を行っている。

彼らに死者が出たら、どんな暴力を振るわれるか分からない。

義体の損壊は、戦闘中のもの以外は直してもらえないから。


「(.....見えた)....敵基地を発見。タレットは破壊しますか?」

『無視しろ、侵入に時間を掛ければお前は包囲される。どうせ人間ではないのだから、多少の被弾は許容するのだ』

「...はい」


私は単独で基地の周囲を旋回し、入り口を発見する。

厳重な扉で守られているが、


「攻撃を開始します」


肩に背負っていたランチャーから、短距離ロケットを発射する。

直撃と同時に両腕の機関砲で損傷部分を狙い撃ち、ダメージを蓄積させる。


「.....!」


だが、勿論無事とはいかない。

立ち止まっている以上は、オートタレットからの射撃を受ける。

アーマーの装甲はあまり頼りにならず、すぐに何発か受けてしまう。


「.......突入します!」


扉が壊れると同時に、私は基地内部へと侵入した。

多くの人間が、私に銃口を向けている。

その憎悪と怨嗟の混じった視線を受けつつ、私は彼らを撃ち殺した。

壁に守られていない彼らは弱く、赤子の手を捻るように彼らは死んだ。


「………敵基地の制圧を完了」

『やけに早いな』

「物資の搬出が行われた形跡があります、恐らくはこの基地もダミーかと…」

『チッ! 奴らめ!』


今追っている犯罪者集団「メティス」は、こうやってダミー基地を大量に建設していて、そうやって追っ手をかわしながらテロ行為に勤しんでいるのだ。


『……回収部隊を向かわせる、お前は基地内にいる生命反応を根絶しろ!』

「……はい」


嫌だとは言えない。

私は動き出し、基地の内部に残ったまだ息のある人間、隠れている人間を屠っていくのであった。







『……最悪だな』


そう呟いたのは、クロノスだった。

彼の元にパイロットが来て、これからは彼に従えとジェシカに言われたクロノスは、若干の違和感を覚えつつも新しいパイロットであるジェニス・アラインスターに従った。


『……あいつ、絶対車を大事にしないタイプだ』


ジェニスはクロノスの性能に最初こそ驚いていたが、僅かなラグや不便さに苛立ちを募らせ、コンソールを叩いたり壁を蹴ったりした。

クロノスはただでさえ乱暴な操縦に困惑していて、つい…こう思ったりもしてしまった。


『オレが自由に動けさえしたら…あいつをバラバラに引き裂いてやれるんだけどな』


クロノスは、ジェシカに送ったメールを思い返す。

クラヴィスに会いたいと言ったが、もう所属も部隊も変わり、クロノスとの通信すら許されないと返ってきたのだ。


『........会いたいなぁ』


クロノスは、心の底から寂しがったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る