074-機械の役目

「..........」


それから数日後。

私はヘイベンと呼ばれる船で輸送されていた。

時速4000kmで飛行するこの船は、空挺降下に適している。


「.....なあ、今日はあいつが出るんだろ?」


その時、聴覚センサーが、隊員たちの声を拾った。


「ああ、あのよく分からない兵器だろ?」

「しー、聞こえてるかもしれないぞ」


聞こえてますよ。

そう言えたらどんなに楽か。

.......私は顔バレしているので、監査レベル6......警備隊の階級のようなものだ.....以上の人間は、私の姿を見ることも、通信を傍受することも出来ない。


「あのバトルアーマー、目張りされてんだよな」

「中に何か乗ってるのか?」

「よせよせ、下手にバレてみろ。一週間トイレ掃除だぞ」


恐らく、トイレ掃除では済まないだろう。

私の姿を見た瞬間、あの程度の監査レベルの警備隊員では、良くて除隊、悪くて即日に前線で捨て石にされるだろう。


「(誰にも、相談できないんだ.....)」


これも、”王”の策略なのだろう。

私をこうした状態に置いて、徐々に心をすり減らしていく。

頷かないなら、頷かなければ心が死んでしまうほどにまで追い詰めればいい。


『....まもなく降下シークエンスに移行します。作戦に参加する隊員は、所定の位置に移動、所定の機体に搭乗してください』


そして、格納庫に音声が響く。

同時に、私が固定されていたフックが伸び、降下ハッチの上まで移動する。

格納庫にあった三台の戦車にも、数人が乗り込んだのちハッチの上まで釣られて移動する。


『ハッチ解放まで、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.......』

「......!」

『0』


ハッチが開き、船体全体が空気の抵抗を受けて振動し始める。

同時にフックが外れ、バトルアーマーは超高速で空中に放り出される。

警報を聞きながら、私は背面のバーニアが起動する音が割り込むのを確かめる。

周囲の戦車も、同様にバーニアを噴射して減速する。


「........」

『接地まで残り40秒。到着後、南西に向かって移動を開始せよ。目標地点に到達すると同時に、CL-00を先鋒に突撃せよ。敵の重戦車部隊が先行部隊に移動を開始後、基地の南西3km地点に歩兵を降下させる! 双方同タイミングで合流し、基地から発進する直前の戦艦を撃墜せよ!』


そう。

今回の目的はテロリストの星外逃亡を防ぐのが目的だ。

危険を承知で大気圏内でワープされれば、最悪逃げられてしまう。

そして。

ワープの衝撃波で、私たちは全員死ぬだろう。

ロボットの身体でも、耐えられないのだ。


「.......前進!」


そして、ついに足が地面へと着いた。

バーニアを背後に向け、先行して前進する。


『〈砲撃感知〉』


直後、その警報と共に砲弾が飛んでくる。

センサーを切り替えると、近距離に複数の熱源が見えた。


「こちらClavis、地上に複数の熱源を感知! 偽装された砲台だと思われます」

『破壊しろ、戦車に一発も当てさせるな!』

「.........はい」


無茶を言わないでほしい、と思うが.....

どちらにせよ、一人でも死んだらまた文句を言われる。

私は向きを変え、機関砲で砲台を破壊する。

台座を破損させれば、撃つことはできなくなる。


『〈砲撃感知〉』

「....くっ!」


その時、砲弾が私に直撃する。

少し吹っ飛んだ私は、損害をチェックする。

喰らった右胸の装甲が歪んでいるものの、戦闘は続行できる。

次弾を受ける前に、横っ飛びに回避する。

更に斜め前に跳んで、加速。

砲台の横を通り過ぎるように駆け、後ろに回り込むようにしながら撃つ。


「がっ!」


背後から砲撃が飛んでくる。

それが左肩に当たり、射線がずれる。

外れた銃弾が、地面に当たって砂埃を散らす。

即座に射線を修正し、飛んできた砲弾を右腕のシールドで受け流す。


「...円状に配置されているものと予想し、戦車隊の進路上の砲台を排除しました」

『時間をかけ過ぎだ』

「すみません」

『目標はそのままだ、前進しろ、斥候を任せる』

「了解!」


相変わらず無茶な指令に辟易しつつ、私は南西へと加速を続けるのであった。

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