011-初戦闘 前編

「回避ルートを算出! 回避しつつ攻撃してください! 照準は私が合わせます!」

『了解だ!』


実体弾ライフルを連射しながら、クロノスが飛翔する。

既に7機を撃墜しており、完全にマークされていた。


「後方からミサイル攻撃」

『冗談だろ!?』

「小型ミサイル発射準備、最適な発射位置を計算します」


ミサイル攻撃に対してミサイルを放つのは、爆風による誘爆を狙うためだ。

だから私は、飛来するミサイルを出来るだけ少ないミサイルで仕留めるための発射位置を計算する。

何しろ、ミサイルは全部で24しか積んでないからな。


「前方ウスカ級に集中攻撃! その後上方に離脱し、右旋回後算出したルートに従って移動してください!」

『おう!』


一機につき4秒以上掛けられない。

それだけの数が襲来しているのだ。

目の前で、ウスカ級が蜂の巣になり爆発四散するのが見えた。

実弾兵器なんか今更効かないでしょ~.....と思っていたのだが、結果は見ての通りだ。


「........狙いは完全にこちらに向いていますね、クロノス!」

『ああ、がっちり付いてきてるぜ!』


音速で飛ぶクロノスに、8機ほどウスカ級がくっついてきている。


「............愚かですね、クロノス、4秒後にスラスターを切り、逆噴射!」

『え? あ、了解だぜ!』


4秒後、背面噴射が止まる。

そして、前面の全スラスターを逆噴射することでクロノスは急停止した。

急停止したクロノスの横を、ウスカ級が通り抜けていく。

やはり、人間が乗っている。

クロノスが急停止したことで対応できず、仕方なく通過したといった感じだ。


「クロノス、攻撃開始!」

『おう!!』


放たれるのは3発のミサイル。

それらは旋回中で速度の落ちているウスカ級3機にぶち当たり、爆発した。


『待ちやがれええええええええ!!!』


ライフルを連射しながら、クロノスが残りの後を追う。

数秒と経たずに、また4機が墜ちた。


「追撃します、内装レーザー砲に切り替え」

『照準固定、発射!』


右腕のアームガード部分が展開し、レーザー砲が姿を現す。

前回の訓練では使用しなかった武装だ。

クロノスは無慈悲にそれを放った。

機関部を破壊されたウスカ級は内側から膨張して、宇宙空間に炎の華を咲かせた。

撃破を確認したクロノスは、とくに指示がないためスラスターを噴かせ、艦隊の上を飛翔する。


『なぁ、あれ見ろよ』

「!」


その時、センサーが急速に高まる熱源を感知した。

それはクロノスが指差した方向と全く一緒で、エルトネレス級が青白く発光し始めていた。

先端部分に空いた穴と、そこから覗く砲台にエネルギーが集まっていく。


「......クロノス! 艦隊後方に布陣! 電磁シールド、出力、範囲共に最大展開!」

『了解!』


説明してる暇はない。

クロノスは急加速し、実験艦隊の背後.....つまりエルトネレス級の正面に陣取った。

スラスターを使い、位置を微調整する。

左腕のシールドを構え、出力を引き上げる。

範囲が拡大し、私たちより大きい平面のシールドが完成する。

直後、エルトネレス級が極太の極光を放った。

宇宙の闇を切り裂いて襲い掛かったそれは、電磁フィールドと激しく衝突する。


『ぐ、おおおおおお........!』

「電磁シールド、出力88%に低下」


物凄い勢いでシールドの出力が低下していく。

メイン機関の出力不足ではなく、電磁シールドの耐久値そのものが減っているのだ。


「電磁シールド、出力64%に低下」

『くっそぉ.....早く消えろよ!』


物凄い出力のレーザーだ。

こんなものを数秒間撃っただけで、並みの艦隊なら全滅だろう。

未だに止む気配のないそれを、私たちは受け止め続ける。


「電磁シールド、出力33%に低下」

『耐えてくれ.....!』


クロノスの悲痛な声が響く。

コックピット内を、映像から伝わってくる閃光が埋め尽くし、私の調光センサーが起動して彩度を調節する。


「電磁シールド、出力12%に低下」

『まだかっ!?』

「電磁シールド、出力1%に低下!」


シールドにヒビが入った。

同時に、レーザーの噴出が止まった。

電磁シールドが砕け散り、即座に崩壊して消えていく。

これでしばらく電磁シールドは使えないな.......


『受け.....切った.......?』

「はい、敵艦は大幅に出力が低下したことを確認しました」


恐らく出力不足に陥り、レーザー砲を切ったのだろう。

ワープ直後と同じで、大きな隙だ。


「推力全開、敵艦開口部に突入します」

『は? え、冗談だろ?』

「もとより、プランの一環ですが?」


私は首を傾げる。

ウスカ級を相手にしていてもしょうがない、本体をやらなきゃジリ貧だ。


『.......まあ、オマエが言うなら安全なんだろうな』

「はい、多少の危険はありますが.....」

『ならいい!』


クロノスの背面噴射から光が噴出し、クロノスは加速していく。

予測では、敵艦のエネルギー再充填まで63秒。

クロノスの全力なら追いつける。


『クロノス、帰還しろ! ワープの準備が完了した!』

「お断りします」


その時、艦長らしき人物から通信が来た。

当然、拒否する。


『何故だ!? そのまま突っ込めば確実に破壊されるぞ!』

「これはクロノスと私の総意です!」


クロノスが何か言っているが、そもそも焚きつけたのはオマエだろ。

責任取って最後まで付き合ってもらうぞ。


『.............仕方ない、だが、これだけは言っておこう。帰ってきたら――――ジェシカ大尉がオマエを待っているぞ』

「..........肝に銘じておきます」

『お出でなすったぞ!』


その時、クロノスが叫んだ。

見れば、エルトネレス級の周囲に展開していたウスカ級が一斉に向かってきていた。

そして、放たれるはミサイルの雨。


「フレア展開!」

『フレア展開!』


左右にフレアを放ち、ミサイルを攪乱しながらクロノスは突き進む。


「ロックオンを受けています、チャフ展開!」

『チャフ展開!』

「ローリングで弾くんだ....ではなく、回転起動を取りながらウスカ級編隊下方に回り込み、ミサイルで仕留めてください」

『うわ..........責任重大だな!』


クロノスは錐揉み回転することでロックオンを妨害しつつ、ウスカ級編隊の下に入り込んだ。


「ミサイル発射! 数指定、6!」

『つまり全門開けってことか!』


上に向けて放たれた6発のミサイルは、ウスカ級編隊のど真ん中で炸裂した。

無数の火焔の華が咲き乱れ、殆どのウスカ級を撃破、残りの機体に重大な損傷を負わせた。


『残りはどうする!?』

「振り切ってください! このまま突入します!」


エルトネレス級の開口部はもう眼前である。

エルトネレス級エネルギー充填完了まで残り17秒、後ろを気にしてはいられない。

そして、クロノスは開口部へと突入した。


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