010-出撃

『行くぜクラヴィス! 俺たちの出番だ!』

『は?』


俺は思わず問い返す。

いや、それは分かるけど.......

今出撃しても磨り潰されるだけだし、そもそも許可されないだろう。

いくら代わりが幾らでも居るとはいえだ。


『ダメですよ、許可されません』

『行こうぜ行こうぜ! ここを逃したら当分戦えないだろ!』

『シミュレーターで我慢してください』

『嫌だ! たーたーかーいーたーいー!』


子供かよ......

とはいえ、俺も考えがないわけじゃない。


「護衛艦、被弾率増加!」

「二番実験艦、機関部に重大な損傷!」

「ウスカ級、なおも接近!」


恐らく、このままじゃ全滅する。

俺はこっそりエレベーターに入り込み、スイッチを押した。


『.......? Clavis、どこへ行くのですか?』

「....出撃します!」

『出撃は認められませんよ?』

『.......失礼!』


見抜かれてたか。

俺は格納庫のある階のスイッチを押し、降下した。




『全艦に通達! DN-264、Clavisが命令違反! 二番格納庫に向かっていると思われます! あらゆる手段を用いてでも機能停止させ、営倉に拘束してください!』


エイペクスが全艦放送を行う。

同時に、ジェシカが立ち上がった。


「艦長、クロノスを出撃させてみてはどうでしょうか?」


艦長と呼ばれた男は、その提案に首を横に振った。


「ダメだ、ClavisとChronusは失えない。例え全滅したとしても、あの二体だけは失うわけにはいかないのだ、ワープ準備急げ!」

「待ってください」


その時、もう一人が立ち上がった。

それは、ハーデン中尉だった。


「ハーデン中尉、どういう風の吹き回しですか?」

「別に何も? ただ、戦わせてみたくありませんか? まだまだデータは足りませんからね」

「しかし............」

「どうでしょうか? 彼らを失った場合は、プレトニアが戦力を融通します」


ハーデンは胸を張り、叫んだ。


「.......ハーデン中尉、あなたは一体」

「さあ、時間がないでしょう? ご決断を」

『出撃させた場合、被害を最小限に抑えることができます。ただし、クロノスが戦闘不能になる確率60%、ロストする確率80%』

「..........................」


艦長は唸る。

エイペクスの判断では、リスクの方が大きい。

だが、艦長はハーデン中尉の正体も知っている。

無視できない影響力を持つ彼の提案を、一蹴することはできない。


「.................................出撃はさせない」

「「艦長!」」



艦橋に、失望したような声が響き渡った。

そして、被害は大きくなっていく。




◆◇◆




「この先は行かせませんよ、クラヴィスさん」

「......無理にでも行くと言ったら?」

「あなたを破壊します」


ラウド少尉は、銃を取り出した。

一般的なハンドガンタイプ、充分に私を機能不全にできるものだ。


「...............」

「どうか従ってください、あなたを破壊したくない」

「.......」


確かに、ここで逆らってもいいことはない。

今回のは、ただのクロノスの戯言だったんだ。

そうだ、出撃する必要なんてない。

誰も求めてなどいないんだから。


『クラヴィス、行こうぜ!』

『やめておきましょう、無茶にもほどがある』

『無茶がなんだ、お前――――そんなに臆病だったか?』

『あ?』


今何て言った?

親友だからと言って、言っていいことと悪いことがあるだろ。


『機械になったからなんだってんだ? 俺とお前は変わらない。自分の責任は自分で取るもんだろ?』

『だったら、私は出撃しな.......』

『本当にそれでいいのか? このままじゃ皆死ぬ。既に護衛艦は墜ちた!』

『え...........』


艦橋を出る前は確かに炎上はしていたものの、墜ちないと思っていた護衛艦がもう陥落した。

それは衝撃をもって私を殴りつけた。


「ッ!? 何だ!」

「これは......!」


艦内が激しく揺れ、ラウドはバランスを崩す。

その隙を狙い、私は頭部ユニットを切り離し、全力でラウドに突進した。

銃が吹っ飛んでいき、私はラウドに馬乗りになるような形になった。


「...............こ、これは?」

「――――申し訳ありません、ラウド少尉」


頭部ユニットがすっ飛んできて、私の頭部に再び接続された。

私は素早く立ち上がり、ラウド少尉の制止を振り切って駆け出した。

既に何度も強制停止コマンドを送られており、意識がはっきりしない。

けれど、俺は、格納庫に辿り着いた。


「..............乗せてくれませんか?」

「許可されていない、投降しなければ破壊する!」


そして、無数の銃口が向けられた。

全て私の胸を狙っている。

機能停止させる気だ。


「おわあああっ!?」


だが、運命は俺に味方した。

轟音と共に、格納庫の重力制御が切れた。

待機していた乗組員はバラバラに宙を舞う。

私も当然、そうなるけれど........反重力装置が起動したことで、宙を自在に舞い、クロノスの元へと飛翔する。


「逃がすな!」

「うっ...........!」


右足を撃ち抜かれたが、私はついに入口へと辿り着いた。

クロノスの制御下にある搭乗口はその口を開き、私を迎え入れた。

中に入ると、全ての通信がオフラインになり、停止コマンドが無効化された。


『ゴタゴタ言ってる割に、ちゃんと来たじゃないか』

「.............接続を開始」


こうしている間にも、被害は増大していく。

私は頭部ユニットの接続を済ませ、背中と手のプラグを接続する。

視界が一瞬ブラックアウトして、接続が完了する。


「この際細かいことは言ってられません、クロノス発進!」

『おうよ!』


私というクラヴィスが接続されたことで、神話の巨人の名を冠する兵器は動き出した。

固定具を破壊し、格納庫に踏み出す。

動き出したことでクロノスに繋がって居たコードが切断され、クロノスは再び自由の身となる。


「ブリッジ、エアロック解放申請を送信します」

『許可できません』

「許可されない場合、エアロックを破壊します」

『ぶっ壊せぶっ壊せー!』


背面のスラスターを起動し、無重力化をクロノスは進む。


『許可できません、ただちに投降してください』


段々悪いことをしているような気分になってきた。

だが、クロノスに乗ってしまった以上はもう、戦果を挙げる以外選択肢が残されていない。


「......仕方ありません、プラズマキャノン発射準備」

『プラズマキャノン展開だ!』

「プラズマキャノン、エネルギー充填完了」


左腕の盾が変形し、そしてプラズマキャノンの砲身が現れた。

クロノスはそれを突き出し、言った。


『照準固定、発射ッ!』


視界を閃光が埋め尽くし、同時に酸素が急速に吐き出されていくのをセンサーが感知した。


「クロノス、進宙してください、すぐに隔壁が閉まります!」

『了解だ!』


背面噴射を全開にし、クロノスは宇宙へと進み出た。

ウスカ級が艦隊の間を飛び回り、ミサイルやレーザーを実験艦に叩きつけていた。

シールドで何とか持ちこたえてはいるが....


「クロノス、まずは周辺の敵を掃討します!」

『了解だ!』


クロノスはスラスターから白い奔流を噴出させ、宇宙空間を更に加速した。

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