012-初戦闘 後編

エネルギーフィールドを突き破り、一瞬視界が青白く染まる。


「.................!」

『なんだ、これは.......』


エネルギーフィールドのベールの先は、想像もしないような景色が広がっていた。

まず、真ん中には外側に見えていた砲台に繋がるであろう、巨大な支柱があった。

だが、内壁は.........無数のビル群が立ち並ぶ、まるで都市のような外見であった。

そして、立ち止まる私たちの眼前で、ビル群の隙間から次々とウスカ級が出撃してくる。

その数は.....


「220、360…….さらに増大中!」

『どうすりゃいいってんだ.....!』


圧倒的な数のウスカ級に、私たちは磨り潰されようとしていた。

そして、全てのウスカ級から、ミサイルが一斉に発射された。

高精度の誘導タイプでないのが唯一の救いか。


「.......フレア展開、内壁付近まで逃げてください!」

『了解!』


クロノスはフレアを展開し、ミサイルの軌道を逸らしつつ、ウスカ級の出てくる内壁付近まで接近する。

当然、とんでもない数のウスカ級にターゲッティングされるが、回転機動を取りつつそれらを振り払う。


「チャフ展開!」

『チャフ展開!』


加速、減速、反転、旋回、上昇、後退、ミサイル発射、下降、急加速、回転、チャフ展開、チャフ展開、フレア展開。


『何だか楽しくなってきたぜ!』

「............ついにおかしくなったんでしょうか?」


私は呟くが、何となくその気持ちは理解できていた。

熱線とミサイルの軌道を予測し、的確な回避ルートを算出、それを送信し、イレギュラーを観測しながら変動させていく。

今私は、役目を果たせている。

…..だが、限界は以外にも早く訪れるものだった。


『まずいっ、ライフルの弾がもうない!』

「リロードを試しましたか?」

『ああ、弾倉を使い切った!』


弾のなくなったライフルを腰にしまい、クロノスはレーザー砲を構えた。


「背後からミサイルが接近しています、ミサイル発射!」

『ミサイルもない、撃ち尽くした!』

「そんな、まだ二発分あるはずなんですが......」

『本当にない!』

「回避運動! 内壁に擦り付けますよ!」

『了解!』


クロノスは内壁に向けて急降下し、ビル群の間を駆け抜ける。

ミサイルはビル群に着弾し、次々とビルを粉々に吹き飛ばしていく。

クロノスは再び上昇し、目の前に集結するウスカ級を眺める。


『どうする!?』

「電磁シールド展開、強行突破します!」

『了解!』


先程電磁シールドが復活した。

クロノスは盾を構え、ウスカ級の編隊に突っ込んでいく。

レーザーを弾き、ミサイルを受け、そしてウスカ級に体当たりし、貫通してその向こうへと出る。

そして、私の眼に熱源の集中する場所が映った。


「あそこです、あそこを攻撃してください!」

『遠すぎる、近づくぞ!』

「はい!」


ウスカ級の密度が急激に薄くなり、私たちは熱源へと近づく。

チャンスは今しかない。


「プラズマキャノン発射準備!」

『プラズマキャノン発射準備!』

「エネルギー充填開始!」

『照準固定!』


視界には、向かってくるウスカ級......総勢570機が映っていた。


「............異世界で、オマエと戦えてよかった、トモ」

『オレもだよ、ハル』


たとえ熱源の破壊に成功しても、生きて帰ることはできない。

そう悟った私たちはなお、躊躇することはなかった。


「プラズマキャノン、」

『発射!』


閃光が放たれ、熱源を撃った。

そして、全てが白く染まった――――――




◆◇◆




クロノスは、一機佇んでいた。

目の前には、なおも輝く熱源。


『届か.....なかったか......』


プラズマキャノンは、その外殻を破壊しただけで終わった。

直後にクラヴィスがシャットダウンされ、クロノスは動けなくなりその場に浮遊し続けるしかなかった。

無数のミサイルが着弾し、クロノスは吹き飛ばされる。

レーザーを食らうが、動けない。


『.....ちく、しょう..........』


クロノスを縛る枷は、とても強く、クロノスの意志で動くことはできない。


『今、動ければ.......!』


クロノスは無数のミサイルの直撃を受ける。

その全身が破壊され、その下から黒い内部構造が覗き見えた。


『ゆる......ゆるさ...............許さね、ええ!!』


クロノスの身体が、ピクリと動いた。

その震えは、徐々に大きくなっていく。

そして、クロノスのアイカメラが赤い光を帯びた。


『ぜ、全部.......ぶっ壊して.................』


その全身に、急速に罅が広がっていく。


『待って!』


だが、ヒビの浸食は止まった。

クロノスのアイカメラの色が正常に戻った。

内部では、破損したコックピットで、クラヴィスが目を覚ましていた。


「ごめん、出力不足で........」

『ア.....ああ...............』


クロノスは、出力を取り戻し、その身体をぎこちなく動かした。


「破壊できなかったんですね」

『ああ、力及ばずな.....』

「まだ諦めないでください、攻撃手段を.......」


その時、クラヴィスは気付いた。

クロノスの左腕が破壊され、もうプラズマキャノンが撃てないことに。

レーザー砲では出力不足だと、分かってしまっていた。


『悪いな、もう詰んでるんだ......』

「まだ、手があるでしょう」

『......冗談だろ?』


クロノスは苦笑しながら、右手でロングソードを引き抜いた。

動力が伝達され、刀身が光を帯びた。


『行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

「はい!!」


剣を構え、クロノスは熱源に向けて突撃した。

そして、熱源に、剣が突き刺さった。

剣の力場が内部崩壊を引き起こし、今度こそ本当に、コアは融解し、膨張したのちに――――爆発した。


「急速離脱!」

『言われなくても!』


ロングソードを引き抜き、クロノスは左腕に向けて突進する。

後は爆発の勢いに乗り、崩壊するエルトネレス級の内壁から脱出した。





「申し訳ございません、もうバッテリーが......」

『オレもだよ.........』


宇宙空間を漂う俺達は、完全にエネルギーを使い果たしていた。

クロノスは被弾時にリークしたのが原因だが、俺は単純に活動限界だ。

クロノスが健在なら充電できるんだが.......ああ、眠い.....

そして俺は、意識を闇へと沈めたのだった。




















「酷い............」

「だが、興味深い、とてもだ」


回収された機体を見て、ジェシカとハーデンの二人はそれぞれ別の感想を口にした。

次に、二人の視線は格納庫の監視室内に移る。

そこには、シャットダウン状態で寝かされているクラヴィスが居た。


「命令違反、停止コマンドの無視、建造物破壊、撤退命令無視、そして明らかに不可能な任務の遂行.......一体どうなっているんでしょうか?」

「この娘には何かがある、これからの研究が楽しみだよ、そう思わないかな?」


そしてハーデンは、不穏な笑みを浮かべた。

ジェシカはその笑みに、危険なにおいを感じ取った。


「...........とにかく、このことは上に報告ですね」

「そうだね、珍しくいい報告が出来そうだよ」


二人は頷きあい、部屋を後にしたのだった。

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