第14話 パズル

「さて、それでは第一回ゆるキャラグルメバトルのグランプリを発表します。」

ステージの上には審査員全員がズラリと並び、曽根崎がもったいぶって白い封印された紙を実行委員長の園山に渡した。

各部門賞はバラバラで、どこがグランプリになるのか誰も分からなかった。

ベストゆるきゃら賞;エコつまさん

ベストパフォーマンス賞;芸人ギルドのハッピー小判君

ベストPR賞;ヒーロー活劇ニクレンジャー

ユニーク賞;朝露農園共同体の高機能食品、ベジユバー

地域の元気賞;天山市伝統文化保存会の焼き天そば

ベストグルメ賞;ミニカレーマンセット

特別賞;かしまし商店街の魔法のソース

どれも甲乙つけがたく、どこが受賞してもおかしくないとの審査員全員の意見だった。

先っぽっピョコンが大うけのエコつまさん、強風で飛ばされたのが逆に幸運を呼んだハッピー小判君など、ハプニングで頭一つ抜け出したキャラもいた。

味もうまいが携帯高機能自然食品として注目されたのがベジユバーだ。地元の特産品で作られた焼き天そばも注目された。グルメ部門はどこもおいしくて大人気だったのだが、ドライブスルー方式で何種類ものメニューを効率よく配っていたカレーソサエティが、売り上げでナンバー1となった。これは作戦が地下。そして、最初はなかったのだが、特別賞が発表された。それが、肉でも揚げ物でも野菜でも、とにかく難にかけてもおいしいという、あのおばあちゃんの魔法のソースだ。なんにかけてもおいしいので、いろいろ応用ができそうだということで受賞したのだ。

「グランプリは…。」

小太鼓が打ち鳴らされ、会場が静まり返った。

「グランプリは、この天山市の牧場の特産物をいかし、自分たちでゆるキャラを演じてPRショーを盛り上げ、さらに肉好きの観客から圧倒的な支持を得た、ニクレンジャーの肉屋連合です。」

あのくりそつ五人親父が今度は肉屋の白い制服を着てステージに上がってきた。

「一郎です。今回はどこもあまりにおいしく素晴らしく、私たち五人も、グランプリでいいのかどうか今田確信が持てないくらいです。これからも、参加団体のみんなで、知恵と力を合わせて天山市を盛り上げていければと思っています。ありがとうございました。」

大きな拍手が会場を包んだ。最後の花火が打ち上げられ、フィナーレの音楽が鳴り響いた。

終わったと思った瞬間、何者かが舞台上の審査員席に飛び込んできた。

曽根崎は身の危険を感じて、さっと楽屋の方に逃げ出した。

「曽根崎はーん、ありがとう!グランプリ、グランプリやでー!!」

しかし稲妻より早く、電光石火で追いついてきたのは、あのニクレンジャーに出てきた女王様ではないか。

「わかった、多摩湖ちゃん、分かったから、あとで打ち上げを一緒に使用。ウグググ…。」

トゥインクルグルグルタマコちゃんが後ろからら曽根崎の首根っこにぶら下がって離さないのだ。このままでは、曽根崎が窒息死だ。あわてて追いかけてきた、ウタポンが声をかけた。

「タマコちゃん、グランプリおめでとう!」

ふりかえったタマコちゃんは、今度はそのまま大きく空中へとジャンプし、ウタポンに正面から抱きついた。

「ありがとう、ほんま、みんなのおかげやー!。」

「ウガ、ギャース!」

だが、底に突進してきた第三の女清水レイナ、彼女は曽根崎に抱きついたタマコちゃんに喧嘩を売るつもりだ。しかも、そこに近づいて来る第四の影、流石だった。まずい、この状況で流石まで来ると、ノリノリ天然たまこちゃん、お嬢様天然ウタポン、坑道派天然流石と天然三人娘がそろって、さらに清水レイナが起爆剤となり、ビッグ・バンが起こりかねない。

曽根崎は猛スピードで、女子たちに話しかけた。

「おい、清水、スタジアムの外の特設売り場で、ゆるキャラやグルメの大売り出しが始まったってよ。」

「ガビーン!なぜ、すぐ教えてくれないんですか?行ってきまーす。」

「多摩湖ちゃん、きみがいないと、肉屋連合の締めくくりができないぞ!」

「あ、しもた。わすれてもうたー!」

「おい、ウタポン、、俺たちは審査員の反省会に行くぞ。」

「あらあら、うっかりしてました。忘れていましたわ。」

「流石、伝え忘れていたけど、霊の3枚の写真、あの一枚がどうも怪しいぞ。」

「え、そうか、気が付かなかった。サンキュー。」

しばらくして、曽根崎はウタポンと人ごみの中に消えて行った。

ふと見ると、ウタポンはまたどうしたわけか戦闘モードに入っている。

「信頼とチーム力が、新しい可能性を、新しい世界を作り出せるって今日、おしえていただきましたわ。新しい味をどうやって作るのか、闘志がわいてきましたわ。」

「その通りだ。一人でなんでもうまくやろうったってどこか歯車がかみ合わずうまく行かない時がある。どうやっても、同じことの繰り返しになってしまう。そんな時は、傷ついたって、恥ずかしくたって、自分と違う何かを持ったチームで支え合って突き進んでみろ。一段上に昇れる。突き抜けて行ける。そういうウタポンの瞳の輝きも、今日は突き抜けてるぞ。」

ええ?そんな…。ええ、もっといい料理を作れるようにがんばりますわ。

そのころ流石は会場を見渡していた。

「やっと終わったけど…。」

流石は悪辣な犯人の何度にも及ぶ犯行を何とかしのぎ切って、少し落ち着いた。

「でもあやしい奴は見つけたけれど、なぜそんなことをするのか、目

的も分からない、証拠もまったくない。くやしいけれど、でも、なんとか、最後まで乗り切れてよかった…。」

そのころかしまし商店街の人々は、グランプリは取れなかったものの、部門賞を二つ受賞し、大いに盛り上がっていた。用意の時に倒れた餃子の山ちゃんが元気な顔を見せてくれたことが、それに拍車をかけた。あの熊のぬいぐるみのようなやさしい山ちゃんが歩いてくると、みんなで歓声をあげて迎えた。

「よかったなあ、大したことなくて。」

「もう、どこも悪くないってさ。だから少しだけ寝かしてくれれば餃子だって焼けたんだ。ははは」

「じゃあ、今晩の受賞記念の飲み会は出ても平気だな。ハハハ。」

「あったぼうよ。お医者様の許可もおりたんだ。今夜は飲むぞ。」

みんな、よくがんばった。だが、まだ犯人たちの真の狙いをみんなは知らなかったのだ。

「さて、明日からは、今までのようにはいかないわよ。」

見えない犯人、見えない目的、だがそれは、意外なところから正体を表すのだった。

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