第12話 神の声

「灰田社長、あと1時間ほどで終わりますので、こっちをやりきってから退社でよろしいでしょうか。」

「ああ、助かるよ、菊川君。無理しないで適当なところで終わらせてくれればいい。きりのいいところまでやったら、社内携帯で連絡して帰ってもらっていいよ。じゃあ、俺はメンテナンス班の奴らとサーバー室から作業を始めるよ。じゃあね。」

今のところ、怪しまれてはいないようだ。自分で細工しておいたクレームメールの解答はすでに用意されていて、いつでも仕事を終わらせることができる。さらにその中の一通には、霊のシステムについてのクレームが仕込んである。もし、霊のシステムに侵入して疑われた場合もいいわけぐらいはいえる。それも想定して用意していたのだ。

やがて、作業中の菊川のパソコンに、いくつかのメッセージが表示される。外部絵のネットワークが切断され、ファイアウォールが解除されたのだ。これで、霊のシステムへも侵入可能だ。

いよいよ覚悟して、キーボードに手を伸ばす。

だが、躊躇してしまうのはなぜだろう。あの苦しい時でも、いつもにこやかにほほ笑んでやり過ごす、あの灰田の優しさだろうか。

それとも、何回も大変な危機に襲われたのを、力を合わせて、乗り切ってきた、チームとしての、いいや二人の過ごしてきた時間の生だろうか。

しかも、最初にそれをしてきした柴田刑事も、心当たりがあって確かめずにいられなくなった自分も、灰田社長が怪しいと思っていたが、システムに不正アクセスしていたのは、めったに姿を見せない大山会長だった。

灰田が真犯人なのか。

それとも、大山会長が怪しいのか。

それとも二人の間に深いつながりがあるのか。

事態はまだまだ予断をゆるさない。

だが、ぐずぐずしていては怪しまれる。菊川は、大きく息をして、覚悟を決めた。

そう、あの日柴田が指摘井したのは、支払いのシステムだった。

「私も、最初は全く気付かなかった。でも、自分でも知らないうちに、ゴルフが趣味の私の情報も、白峰流石刑事のプライベート情報まで犯人たちに筒抜けになった。私たちは犯人とは一切かかわっていないはずなのに、いったいなぜ?」

そこで柴田刑事は、一冊のファイルを撮りだした。

「これはうちの丸亀刑事が丁寧に報告書のデータをまとめてくれたファイルです。すると、被害者の二人に共通していたネットサイトは、比較してみれば、ほとんど共通点は無いのに、あるシステムだけが、妙に一致していた。」

そこまで言うと、柴田は、現在流通しているウェブマネーの種類とそのシステムの一覧表を出した。

「いま、業界では、いろいろな種類の独自のウェブマネーが流通しています。ところが、あの二人の被害者がいつも見ていたサイトは、ほんの一部の企業でしか使われていないネットマネーだった。しかも、開発も運営もマナビーゲームネットのね。」

だから、それが一体何だというのだ。あの時、菊川は柴田刑事をきっとにらんだ。

「私も、白峰刑事も、捜査をする過程で、知らないうちに情報を吸い取られていたんですよ。あちこちのネットサイトを回るだけで、知らないうちにうまくやられていたんですよ。あのネットマネーを使っている占いの館ミロスでは、生年月日だけでなく、最近の悩み事や気になっていることのデータが集められる。ご褒美ネットでは、買い物の送り先として住所や電話番号が手に入る。趣味のサークルネットでは、個人的な趣味や興味の対象がわかる、。他にも健康情報サイトや出会い系サイトなど、多くのサイトとつながっている。つまり一つひとつのサイトでは少しずつのデータしか集めないが、それらが、裏で一つに結びついていたらどうだろう。実は、マナビーネットマネーは、登録番号方式で、しかも間違いが起きないようにチェックシステムまで入れていると菊川さんが教えてくれた。その登録番号には、どこのサイトに行って、何を入力し、どれだけ金を使ったかが残るようになっているのではないのか。それなら、登録番号につながっているそれぞれの会社のデータを集めれば、一つひとつは小さいが、総合すればほぼそのひとの個人データを網羅する大きなデータになるのではないか…。その可能性は否定できない。わたしも、白峰刑事も、捜査のため一通りのサイトを回りました。そこで必要におうじて、あちこちのサイトに、少しずつ個人データをばらまいていたわけです。ところが、実は裏側ですべてのサイトはネットマネーでつながっていた。だから、誰も気が付かなかった。そんなことはありえないとみんな思っていた。」

菊川は、そんなことはありえないと言い返したが、柴田の言うことも否定できなかった。だから、それを否定するためにじっくりと計画を練って、今日の日を迎えたのだ。

ここのところまで、すべてうまく行った。いつも侵入できないシステムの壁はすべて取り払われ、手を伸ばせばすぐ確認できる。

マナビーネットマネーでは、登録番号がすべてのもとになっている。最初に支払いをするときに強制的に登録番号が決定され、その番号にコンビニで金を払い続ける。

ネットマネーの登録番号を調べ、チェックシステムを動かした場合、底に個人情報が集まってくるかがまずは一つのポイントだった。

灰田社長も、メンテナンス班のメンバーも、サーバー室にいったまま、まったく帰ってこない、たぶんあと1、2時間は来ないはずだ。

菊川は、意を決してネットマネーのシステムに侵入し、登録番号を探し出した。そこまで、なんの問題もなく、一覧表が出てきた。

そして、チェックシステムを作動させ、適当に選んだ登録番号のチェックをしてみた。

「…これじゃあ、難しいかも…。」

登録番号から出てきたのは日時とネットマネーの入金や使用分の膨大な記録と、プレイ内容の記録が機械的に並んだもので、個人情報も入っているが、それをすべて拾い上げるには、かなりの手間がかかる者だった。これでは数人の個人情報を拾い上げるにも一日がかりだ。

少し、安心した。可能性はゼロではないが、現実的ではないように思えた。

他にも何人かの登録番号を調べたが、どれも同じ感じだった。菊川はチェックシステムを一通り当たり、少し安心して画面から抜けようとした。その時だった。

「gコマンド?こんなコマンドシステムデザイナーの私も知らないわ。」

ありえるはずのないコマンドが、画面のすみにあるのだ。これがセキュリティに関わっていたら、自分の身も危ない、社長たちにばれてしまうかもしれない。でもこんなあやしいコマンドを見逃すわけにはいかない。胸がドキドキして、口の中が乾く。菊川は、のこりのコーヒーを一気に飲み干すと、その、gコマンドを推した。

「え?なんてことなの。」

すると登録番号の横に、その人の氏名が出て、さらにその横に100パーセントから、0パーセントまでの数字が並ぶ。しかも百パーセントになったデータは赤く色が変わり、上の方に表示される親切さだ。震える手で、百パーセントのデータを開く。すると殺気と覇全く違い、不必要なデータはすべて削られて、個人情報のデータだけが、ちょうど見やすい一枚分の詳細な記録にまとめられている。

「…。」

菊川は愕然として声も出なかった。やけになって、あちこち押してみたが、見事に集められた個人情報の記録が何人分も開くだけであった。誰かが、個人情報を盗んでいる。柴田啓二の言うとおりだ。しかもご丁寧にGコマンドなんていうものまで拵えて、きっと能率よく、個人情報を集めて、どこかに流していたに違いない。でも、ここから流れた情報のおかげで犯罪が起きて、実際に人が死んでいるのだ。

「え?なんてことなの…。」

菊川はある画面を見つけ、愕然とした。たくさんのコンプリート情報の中に自分の名前、菊川小夜子を見つけたのだ。恐る恐る開いてみたら、住所電話番号から人に言えぬ悩み事、好きな男性のタイプまで詳細なデータ画面が出てきたではないか…。

「とにかくなんでもいい、証拠になりそうなものを手に入れてください。」

柴田啓二は言っていた。だが、ここでへたなことをすれば気づかれるかもしれない。とりあえずこの画面のデータをコピーして…。やっぱり駄目だ、コピーができないようになっている。頭が真っ白になって来て、もう、どうしていいのかわからなくなってきた。気が付くと、意味もなく涙が流れてくる。仕方なく菊川は自分のスマフォで画面を直接撮影することにした。手が震えてなかなかうまく取れない、シャッター音が何回か鳴り響く。その時だった。

「あれ、菊川、何、撮影してんだ?」

菊川は、心臓がとまったかと思った。いつの間にかドアが開きすぐそばに灰田が来ていたのだ。


流石は、走っていた。舞台裏ではすぐ次の肉屋連合の用意が始まっていた。

ノリノリのトゥインクルグルグルタマコちゃんが、大きな声で歌うように掛け声をかけていた。

「出演者はみんなスタンバイオーケーね。」

「ヘイ!」

「前評判は上々、観客はドキドキしてまってる。あたしたちの実力見せるよ!」

「ヘイ!」

みんなノリノリで、どの出演者も顔が生き生きしている。脚本のパルサー月岡の話では、多摩湖ちゃんはスタッフも出演者も隔てなく声をかけ、信頼して細かいことを一切言わず、怒ったことも一度もないという。みんなそれぞれに持ち場を頑張って、自分の力以上のパワーを発揮できるのだという。理想的なプロデューサーでありディレクターだ。

プロのえんたー底面と覇、この辺から底時からがちがう。

「おや、流石さん、あわててどうかなさったんですか?」

慎重2mの格闘家、大吾が着ぐるみに着替えながら話しかけた。

「あやしい男がこの辺にいたっていうのよ。大吾、見なかった?」

「いや、ぜんぜん見ないっすよ。あやしい奴は、だいたい気配でわかるんだけどなあ。」

「ありがとう、大吾。またくるから。」

流石も男まさりモードに入っている。火事場のくそ力的行動力がみなぎっている。かっこいい。やがて、楽屋の前に集まっていた、カピバラ梶原さんたちボランティアのパトロールの人たちを発見しかけつける。柴田と丸亀もほぼ同時に集まって来ていた。

「それで、あやしい人物を見かけたのはどなたですか?」

一人の若い女性のパトロール員が手を揚げる。

「みなさんが、さっきの芸人ギルドのショーを見ていた時です。もう最後のフィナーレのあたりで、若い男の人がこの通路を舞台の方に歩いていくのを見て、声をかけたんですが、無視して行ってしまったんです。黒っぽい服を着て、黒い帽子をかぶっていました。気になって舞台裏に追いかけて行ったら、その辺をうろうろしていて、裏の搬入口のほうに何かを持って、逃げて行きました。え?何を持っていたかですって?薄暗かったんでわからないですね。すいません。」

「わかったわ。すぐ、外の警備の人と連絡取って、とっつかまえるわ。柴田と丸さんは、盗まれたものが無いか、この辺を確認して!」

「了解。」

走り去る流石。肉連の舞台は今のところ問題なしだという。だが、底に

最期の舞台を締めくくるかしまし商店街のメンバーの一人ガンさんがやってきた。

「あれ、」

柴田が声をかけた。

「どうかしましたか?」

「つい4、5分前にここに運んでおいた、台本が、台本を入れた箱そのものが無いんですよ。」

「ええ?なんですって?」

かしまし商店街危機一髪だ。


「次の出し物は肉屋連合のヒーローショーです。」

幕が上がる前、のりのいい音楽とともに幕前に二人の小学生が出て来る。

なぜか二人ともコロコロして肉付きがよい。

「やった、人生で初の百点満点だ。」

「おまえ、今回がんばったなあ。どうしたんだ。」

「百点取ったら、好きなモノなんでも食わしてくれるってパパがいったんだ。やったぜ、これで今夜は和牛a5クラスのサーロインステーキだ。」

「そうかい、実は俺も、昨日、ホームランうったんだ。今晩は牛丼のメガもりだ!」

うれしそうな二人、だがそこに突然戦闘員が、会場のあちこちから奇声を上げながら集まってくる。

「なんだ!おまえたちは!」

「ああーん、怖いよ。」

戦闘員たちは、二人の重そうな小学生を、かかえ、下手へと消えて行く。

幕がゆっくり上がる。悪の帝国のテーマが重々しく流れ、舞台には古代と未来が混ざったような秘密結社グルーメンの基地が姿を現す。舞台の中央には高さ3mほどもある巨大で不気味な石造がそびえ、そのすぐ横には、古代の華麗な衣装をまとった女王が座っている。

って、女王様は、黙っていれば知的な美人、トゥインクルウルグルタマコちゃんだ…って、本物のスーパースターが出ちゃっていいの?

「女王様、クリステル様、」肉が好きだというとんでもない子供たちを捕まえてきました。

「何、肉がすきだと?よくやった。そんな肉好きは、牢屋にぶち込むがよい。」

「なんで、肉好きだと牢屋なんだよ。」子供が文句を言う。

「わがグルーメン帝国は超古代、世界をこの手に握っていた。だが、肉ばかり食べていた皇帝メタキング様は、力を失い、帝国は衰えた。だから、肉は敵じゃ。世界征服をはたし、肉の無い世界を作るのじゃ。」

「やだよ、肉のないせかいだなんて。カレーにも、マーボにも肉がないなんて、ありえないよ。」

「ステーキも、ハンバーグも、フライドチキンもなくなるなんて、そんなのい屋だよ、そんな世界はいやなんだよおおお。」

「うるさい!うるさい、子供たちだ。怪人ノーニックよ、こいつらをこの世から消しておしまい!」

すると下手から、ガイコツのような、肉の無い怪人が登場。

「ノー、ノー、ノーニック。肉は、この世からけしてやる。ノー、ノー、ノーニック!」

「助けてー、肉はやめられないよ!」

「助けてー、肉の無い世界はやだよ!」

だがその時、口笛の音とともに、大きな声が会場に響く。

「やめろ。その子供たちに手を出すな!」

「誰だ。」

すると、上手の大きな機械の上に、まんまるい人影が現れる。

「この世に肉のある限り、肉好きの民がいる限り、命を捨てて駆けつける。肉屋戦隊ニクレンジャ―だ。カムオン、ニートダンサーズ!」

すると、その人影はどたどたと階段を下り、舞台の中央へ、底に残りの余人もやって来て、五人がそろった。しかもいつの間にか、後ろに派手なダンサーがついてきて、五人を盛り上げる。

すばらしいロックのリズムと踊りの盛り上げに合わせて、角の生えたリーダーから名乗りを上げる。

「ステーキ大好きニクレッド!」

お次は翼の生えた身軽な(?)隊員だ。

「空は青いぞ、唐揚げ命のニクブルー!」

「ハムに目が無いニクピンク!」

「どこでもバーベキューニクブラック!」

「酢豚もうまいぞ、ニクイエロー!」

「五人そろって、ニクレンジャー!」

「なにを、この小太り親父!やっておしまい。」

怪人ノーニックが必殺パンチを放つ。

「ふふ、死ね!必殺普通の人なら十メートルぶっ飛んで即死だよパーンチ!」

だがレッドにはきかない。小学生が突然話し出す。

大画面に、その解説がアニメとなって映る。

「解説しよう。ニクレッドの体のブヨブヨした、ゴムゴムマッスルが、相手の攻撃を、無効化してしまうのだ。」

「なにをしている、ノーニック、はやくやっつけておしまい。」

「くそー、こうなったら、十m舞い上がるサイクロン投げだ。ええい、投げ飛ばしてやる。ええいええい、あれ、なんで飛ばないの?」

「解説しよう。ニクブルーの体重は秘密だが、けっこう重い。」

「うう、頭に来た。こうなったら必殺エネルギーショットガンだ!」

ノーニックは骨でできたような奇妙なショットガンを取り出す。それを見たニクレッドは叫んだ。

「子供たちを守れ、肉のバリアだ。」

するとニクレンジャ―の五人はさっと子供たちの前に立ちはだかりズラリと並んだ。

「ばかめ!全員まとめてこの世から消し去ってやるわ。ええい、エネルギーショットガン!」

その一瞬どういうしかけだか、ニクレンジャ―の体が光ると、ノーニックのショットガンから出た巨大なエネルギー弾が、肉のバリやで跳ね返って行くのがわかる。

「解説しよう。五人の体を包むゴムゴムマッスルが五人そろった時、ボヨヨンバリアパワーが発生し、あらゆる攻撃を跳ね返すのだ。」

よく見ると、背景にプロジェクションマッピングで画像を描いているらしい。エネルギーショットガンは、スローモーションでゆっくりとわかりやすく跳ね返って行った。そして、大爆発だ。怪人ノーニックのところで無体に仕掛けられた火薬が大爆発!吹っ飛ぶ怪人

「ムキュー、や、やられた、バタリ。」

「どうだ、女王クリステルよ。」

すると女王クリステルは、玉座によじ登り、大きな声で訴えた。

「皇帝メタキングさま、今こそよみがえり、この肉団子のようなおやじどもを滅ぼしたまえ!」

そして、美しい声で、古代の歌を歌い始めたのだった。

うっとりするような悲しい歌声。すると地響きが起き、舞台の大道具がグラグラと揺れ出した。

すると舞台の奥から、派手な鎧を付けた古代の軍隊が足音をそろえ、出現した。

「皇帝、メタキング様!」

女王が最期に大きく叫ぶと、舞台の中央に或る巨大な石像が揺れ始め、なんと3m以上ある、その巨体が、自信とともに動き出したではないか。崩れ落ちるいくつもの巨石、それは、身長2mの男大吾が50cmの高さの巨大な靴を履き、頭の上に巨大な胸から上のパーツをつけて、巨人に変装して立ち上がったのだ。地鳴りのような足音、地獄からひびいてくるような恐ろしい叫び。すんごい迫力で、動き出したのだ。

ヒーローアクションから、スペクタル巨編にバージョンアップだ。

メタボキングは、体中に脂肪やセルライトの塊をコブのようにぶら下げ、醜い姿でしゃべり始めた。

「われこそは、皇帝メタキング。肉を食べ過ぎ、醜い体となった。メタキングじゃなくて、メタボキングだと陰口を言われた。肉が憎い。肉が憎い。ニクレンジャ―よ、おまえたちごと、世界から肉を消し去ってくれるわ。」

すると、古代の鎧をつけた兵士たちが、舞台の前に進み出て、ロボットのような不気味なダンスを踊り始める。ニクレッドがみんなに声をかける。

「みんな、ひるむな。力を合わせるんだ。」

「場亀!!」

メタボキングが大きく手を振り上げる。その瞬間目が赤い光を発する。

「伏せろ。」

今度はニクレンジャ―たちのまわりでいくつも火柱が立ち大爆発だ。吹き飛び、転がるニクレンジャたち。舞台が暗くなって、倒れたニクレンジャたちの所だけスポットライトが

当たる。

レッド「大丈夫か、みんな。」

ブルー「だめだ、体が、体が重い。」

ピンク「腹も減ってきた。このままじゃ、かてない。」

ブラック「逃げるなら、今のうちだぞ。」

イエロー「ばか、ここで逃げたら、世界中から肉が消えるぞ。それでいいのか?」

全員「それは、絶対嫌だ!」

そこで、レッドが剣を持って立ち上がる。

「ミートフォースで攻撃だ。みんなそれぞれのふぉおーすミートを俺に渡せ!」

「ラジャー!」

剣にイエローの酢豚の豚、ピンクのウインナー、ブラックのジンギスカン、ブルーの唐揚げ、そして最後にレッドのサイコロステーキが先端に取り付けられる。

五人が力を合わせてミートフォースの剣をメタボキングに向ける。

「無駄だ、無駄だ。何をやってもわしには勝てん。」

「ミートフォース、肉の神の声を聞け!いくぞ、ひとーつ!」

剣が光ると大画面に、神の声が浮かび上がる。

「ひとーつ、肥満は自分のせい。」

「ふたーつ、不足だ、運動不足。」

みいいっつ、みねらる、ビタミン、野菜をたべよう。いっしょにたくさんとるんだよ。。

「よーおおっつ、よくない、脂肪はカット。」

「いつーつ、いつまでも若く、アミノ酸にコラーゲン。」

「なんだ、きさまら、わしが運動不足で、脂肪も、カットせず、野菜も一緒にたべていないと申すか?」

「その通り、肉は、野菜と一緒にバランスを取って食べれば、美容と健康にいい、ヘルシーな食べ物だ。くらえ、ミートフォース!」

五人のパワーを集めた剣の先から強烈なレーザーライトが光り輝き、メタボキングの頭に命中。苦しむメタボキング

「うう、苦しい、体が、体がかってに動く。」

「いやあん、体にエネルギーが満ちて、やる気が起きて、体が止まらない!これが、肉の本当の力なの?」

女王がエネルギッシュに歌いだす。舞台が明るくなり、ニクレンジャーと小学生以外、古代の兵士も、ミートダンサーズも、女王もメタボキングも踊り出す。

プロのダンサーの指導か、激しく、楽しい凄い踊りだ。あの3m以上ある石像も、ちゃんと踊っているから凄い迫力だ。

「グォー!」

「どうしましたメタキング様。」

なんとメタボキングの体にたくさんついていた醜い脂肪やセルライトのこぶのようなものが、体からいっぺんに墜ち、メタボキングは、かっこいいメタキングに変身した。

「あれ、久しぶりに運動したら、体が昔の俺にもどったぞ。やっぱ、運動不足?」

メタキングはニクレンジャ―に謝る。ニクレンジャ―たちは、仮面を取り素顔に戻って、小学生と握手する。だが、その時、会場全体からざわめきが起こった。

「デェー、五人とも、同じで見分けがつかない!」

その嘆息、おなかの出具合、丸顔と頭毛の薄さ、そして優し祖王なその表情、遠くからでは見分けがつかない。小学生の解説が冴える。

「説明しよう。ニクレンジャ―は一郎から五郎までの、栗祖綱五人兄弟だったのだ。くわしくは肉屋連合のウェブで。」

「えー、う、うそ!」

一郎から五郎までの五人兄弟だとわかっても…すごいインパクトだ!

レッドが最期のセリフをしみじみと語った。

「つらい時、悲しい時、肉を食べれば元気が出る。元気が出れば、乗り越えて行ける。乗り越えて行こう、肉とともに。われらはいつも肉とともに、ニクレンジャーだ。」

そして、静かに幕は下りた。なんか大がかりでスペクタル巨変と言うか、ダンスもハードですんごい盛り上がりだったし、なんというか、肉にかける強い思いが伝わって来た。

「そうか、さっき肉屋連合のグルメコーナーで食べた肉の串刺しミートフォースとサラダカップには、こんな思いがこめられていたんだな。」

肉だって、食べ方を工夫すればヘルシー食品化…。きっと肉好きは、いつも健康に悪いとか言われるから、サラダカップをつけて、さらにこの劇をやって、肉好きたちを応援しているんだな。最近ある脱炭水化物ダイエットとかは、チャンとたっぷり肉をたべるもんな…。

曽根崎は肉を愛する男たちの熱い思いを感じたのだった。

「では、そろそろ時間です。かしまし商店街のみなさん、よろしいですか?」

「は、はーい。」

みんなげっそり元気がなかった。たとえセリフが覚えられなくともセットのお店の台の上に台本をおいて見ながらやるはずだったのに、台本が無くなり、逆にパニックになってしまっている。まだそれでも女性軍は年齢に関係なく、駄菓子屋のおばあちゃんも、コロンチのおばちゃんも、あと、働き者の豆腐やのと予算もだいたい何とかなりそうだった。主役の八百屋のめぐみさんと、エコつまさん役の本屋の若旦那は、脚本たんとうだったから、当たり前だがセリフもばっちり入っている。だが、もう、残りの男性陣は壊滅状態。みんな、大きな流れはわかっている者の、自分のセリフは情けないッたらありゃしない。でも、考えてみれば、今のニクレンジャ―だって、太ったおやじたちは、立っているだけで相手はやられちゃうし、ミートフォースだって、みんながダンスしている間は剣を持っているだけ、それなりに苦労しているみたいだ。

箱ごと消えた台本はまだ見つからない。倒れた餃子の山ちゃんの代わりにセリフを言うことになったたこ焼き屋のまるちゃんは、凍り付いている。は

でも、ここでやめてしまったら、すべてのここまでの苦労が水の泡だ。優勝して、三ツ星会館を譲り受け、地域の品物の販売センターにしようという大きな夢もある。

キッチン花一のマスターが声をかけた。

「みんな、頑張れば熱意が伝わる。アドリブでもなんでも、最後までやり抜こう。」

「オー!」

まだ、声は小さかった。みんながやっとやる気になった時、大道具のガンさんに、ボランティアのパトロール員が駆け寄って来た。

「裏の駐車場にあやしい段ボール箱が置いてあるっていうんだけれど…。」

「それだ、それにちげえねえ。刑事さん、まだこの辺にいるはずだ。刑事さん!」

舞台裏で大騒ぎになっていたころ、静かに幕は開き始めた。


舞台は中幕が引いてあり、背景は見えない。下手の方にちらっとかしまし商店街の看板が見える。舞台中央には古びた大きなベンチがある。ここはどうやら児童公園らしい。上手からハンカチで汗をぬぐいながら、、トランクを引きずり、途方に暮れている若い女が出て来る。恵みさんだ。それを追いかけるように、スーツ姿のサングラスの男が近づいて来る。竜さんだ。

「恵み、今からでも遅くない。お前だったらいくらでもやり直しできる。いつでも事務所に帰ってこい。」

「社長、ありがとうございます。でも、もう、私、自信がなくなってしまって…。」

「わかった。じゃあ、いつでも連絡待っているから…。」

サングラスの男は、そっと去って行った。

「ああ、どうしようかな。ああは言ったものの、モデルを目指して街を出て、逃げ帰って来たなんて昔の友達に会す顔もないし…。なんか、商店街の我が家に戻るのもはずかしいし…。あれ、そういえば、今朝おかしな夢を見たわ。」

舞台暗くなり、不思議な音楽。スポットライトの方を見れば、下手に仙人のような杖を持った髭の爺さんが立っている。

「わしは、神じゃ。娘よ、今日もしころんだら、最初につかんだものを決して放すでない。よいな。」

本当は、つかんだものがお前の人生を変えるとか、もっともっと長いセリフだったが、この辺が銀さんの限界、神様はすぐ消えた。

「最初につかんだものを放すなって?そんなわけのわからない話無いわよね。おっとっと!

言い終わった途端、石につまずいて見事に転ぶ恵。

「いててて、自分ながらばっかみたい。情けないわ。あれ、これ、何だろう。」

舞台暗くなり、スポットの当たる中、恵みはゆっくり手のひらを開く。大画面に手のひらがアップで映る。

「なんだこれ?つまようじ?本当につかんじゃった。これが私の人生を変えるかもしれない?まあ、そんなことありえないわよね。まあ、でもこの一本、記念に大事に撮っておこうかな…。」

恵みは、ハンカチで包んで、爪楊枝をしまう。

「あれ、でもこの辺って、結構爪楊枝が落ちてる。なんでかな?あ、そうか、ここからかしまし商店街だから、試食コーナーの爪楊枝だわ。まったく、ここの辺にポイ捨てじゃあ、困るわよね。」

恵みはキョロキョロして、近くから放棄と塵取りを見つけてきて掃除を始める。ちゃんとゴミを撮って、放棄や塵取りも片付ける。

底にコロンチのおばさんが出てきた。

「あれ、はいてくれたのかい?ありがとうよ。そうだ、汗かいたでしょ。これ持っていってよ。」

冷えたスポーツドリンクをくれる。

「ありがとうございます。あれ、爪楊枝がスポーツドリンクになっちゃった。」

ところがその時、日傘を差してきたおばあさんが突然上手の方でうずくまる。

「あ、たいへん。おばあちゃん、どうしたの、何かあったの?」

「カンカン照りの中を歩いてきたら、体がだるくて動けなくなっちまって…。」

「たいへん、熱中症だわ。おばあちゃん、このスポーツドリンク飲んでみて。」

「地獄に仏と覇あんたのことだね。ああ、冷たい。おいしい。ふう、生き返った。ああ、もう、大丈夫、歩けますよ。」

おばあちゃんは少し元気になってヨロヨロと立ち上がる。駄菓子屋のおばあちゃんの女優顔負けの名演技だ。

「ありがとう。こんな物しかないけれど、はいノドアメ、もらってくれる?」

「ありがとうございます。あれ、スポーツドリンクがノドアメになっちゃった。」

すると今度は下手の方で、痰のからんだ爺さんの咳が止まらなくなる。

「どうなさったんですか?平気ですか?あ、いいものがある。このノドアメどうぞ。」

「いいや、すまんのう。代わりにこれ、持って行ってくれ。」

今度はソーダ味のアイスバーだ。ところが、今度は上手から歩いてきた親子ずれの小さい子供が泣き出した。

「熱いよ、喉が渇いたよ!」

「もうすぐ、お内尾。我慢しなさい。」

「熱いよー、喉が渇いたよ。」

「困ったわね…。」

恵みは、もらったばかりのアイスバーを惜しげもなく母子に渡した。小さな子は喜んで、すっかり静かになって歩いて行った。

「あれ、しまった。揚げるばっかりで何ももらわなかった。神様、ごめん。」

恵みはひどくがっかりして、トランクをひきずって、近くのベンチに座り込んだ。

「いいや、君は揚げることによって、もっと尊いものを手にしているんだよ。」

どこかで不思議な声がした…。

さて、ここまでで前半終了。もうすぐ銀さんの長いセリフも、少雨天蓋のみんなの出るラストも迫ってきた。舞台裏では汗だくで荒い息遣いのおでん屋ガンさんが戻ってきた。

「畜生、まぎらわしいことしやがって。違う箱だった。でも外に出てわかった。出口に警備の人がいるから、外をあんな箱持って歩いていたら目立つ。きっとこの建物のそばに隠して逃げたにちがいねえ。あ、刑事さん、頼まれてくれ。」

流石がかけつけた。

「実は次の銀さんのセリフだけ、ページを破いてもらってあるんだ。次の神様の長いセリフになったら、そこのマイクで読んでくれ。奴は長いセリフがダメなんだ。」

「わかった、まかせて。なにか伝えておくことある?」

「失敗してもいいんだよ。いつものとおりにやればいい。ダメもとで頑張れば、道は開けるってね。」

箱が無いことを自分の責任だと思っているガンさんは最期にみんなに少しでも台本を見てもらおうともう一度探しに出かけた。

恵さんはベンチで大きくため息をついた。

「どこかで不思議な声が聞こえたような…。あれ、急に涼しい風が吹いてきた。きもちいい!」

すると涼やかな風と共に不思議な音が聞こえ、ベンチの裏側から、ひょっこりと細長い爪楊枝のゆるキャラ、エコつまさんが現れ、恵みの隣に座り込む。人生に挫折した娘の横に座る巨大な爪楊枝、なんともシュールな感じだ。

ふと顔をあわせ驚く恵み。

「シー、僕の姿は君以外には見えないから安心して。さっきは僕を拾ってくれてありがとう。ぼくは爪楊枝の精、エコつまさんと申します。ちょっとお礼だけ言いに来たのさ。さっきは本当にありがとう、うれしかったよ。」

恵が元気が無いので、エコつまさんが話を聞くと、恵みが話し出す。モデルを目指して家を出て、そこそこ仕事も来るようになっていたのだが、インフルエンザをこじらせて、十日ほど仕事を休んだのが原因だという。

「やっと体調が良くなってきて、無理して事務所に出てみたら、愕然としちゃった。私の出るはずだったイベントとかもう、若い子がみんな代役でやっていて私の仕事なんてどこにもないの。私じゃなくちゃ出来ないはずの仕事までもう、全部うまってて、今頃何で出てきたのっていう顔で見られてさ。私にしか出来ない仕事なんてどこにも無い、自分は役立たず、誰にも必要とされていないんだって思い知ったの…。」

ところが、そこで感動的な音楽がかかり、エコつまさんが彼女を励ます。

諭すようにやさしく語りかけるエコつまさん、中に入っている本屋の若旦那は、なかなかの演技派だ。

「君の仕事を無理やり取り上げたわけじゃない。君に安心して病気を治してほしいから、みんな、代役を引き受けたんだ。」

「こんな小さな爪楊枝だってみんなの役に立っている。」

「みんなで支え合って生きているんだ。世界中に、何の役にも立たないにんげんなんて一人もいやしない。」

「神様は、君に何か品物を揚げたかったんじゃない。今、君の手に残ったものはなんだ?君は自分から進んで、みんなの役に立ったじゃないか。ここで出会った人全員が、君に感謝しているさ。」

「祖、そういうことだったの?わたしでも、みんなの役に立っていたの?」

だんだん、心を開いていく恵み。そこに殺気の親子連れのお母さんだけがやってくる

お母さんは礼を言って、アイスクリームを置いていく。

「ほうらね。そのアイスクリームは心がこもっているから、きっとおいしいよ。」

「うん、お、おいしい!」

最期にエコつまさんは、金色の爪楊枝を恵みに渡す。

「マイはしやマイカップと同じ、試食用のマイ爪楊枝だ。ちっぽけだけど、大事に使えば、ゴミを出さないで長く使える。大事に使ってくれ。じゃあね。」


ついに、中盤が終わってしまった。みんなガンさんを待っていたが、もうスタンバイだ。途方にくれた銀さんは下手のそでに隠れて出番を待った。

舞台が暗くなり、下手にスポットが当たる。ガンさんは間に合わなかった。こんな時に台本を持って行くなんてなんて奴らだ。どうしよう、もう頭が真っ白で何も思い浮かばない。

舞台の裏ではエコーのよく聞いたマイクをしっかり握りしめ流石が台本の切れ端を握りしめ、今、まさに読もうとしていた。

…あれ、セリフを読むんだっけ、みんなに伝えたいことを読むんだっけ…忘れた…。

そして、流石はこの期に及んで、メモしておいたガンさんからの伝言をそのまま読んでしまったのだ!


舞台が一瞬暗くなり、エコ妻さんはいつの間にか消えていた。すると下手のスポットライトに神様が現れた。

「神様、私はどうしたらいいのでしょうか?」

神様は大きくうなずいた。そして、会場全てに響くような声でこう言ったのだ。

「失敗してもいいんだよ。いつもの通りにやればいい。ダメもとで頑張れば、道は開ける。」

「え?」

全く違うセリフでも、心にしみた。一番ズーンと来たのは、セリフが全く入っていない男どもだった。

本当は、金の爪楊枝の導きに従っていけば、今度こそ黄金が手に入るかもしれないとか、幽鬼を出して商店街で探してみようとか、お父さんやお母さんは君の帰りを待っているとか、長いセリフのはずだった。会場は一瞬シーンとしてしまった。あれ、またやっちまったな。やべぇ…流石は間違えたことにやっと、気づいた。だが、その時、スタンバイしていた花一のマスターが、声をかけた。

「刑事さん、ナイス、今のセリフをもう一度大きく、ゆっくり行ってくれ。」

流石は大きく深呼吸し、さっきのセリフをゆっくりと心をこめて繰り返した。

「失敗してもいいんだよ。いつもの通りにやればいい。ダメもとで頑張れば、道は開ける。」

神様はおおきくうなずいて、ゆっくり去って行った。

そこで、中幕がさっと上がり照明がつく。隠れていた中幕の後ろにはかしまし商店街の店がズラリと並んで、背景になっていた。

本当はここで恵が一件ずつ店を回り、歓迎の言葉をもらったり、試食を金のようじで食べたり、それをテンポよく流れるようにやらなければならないのだが。もう、みんなはセリフなどはすっかり飛んで、しかも台の上に台本はもちろんなかった。だが、でもなぜか、生き生きとしていた。そうだ、いつもの通りの商店街をやればいいんだ。

いなくなった山ちゃんの代わりに、あのタコ焼き屋の丸ちゃんがさっと餃子を差し出す。

「あれ、恵みちゃん、お帰り、久しぶりだから、サービスしちゃうよ。」

「ああ、なつかしい、山ちゃんの餃子だ。え?食べていいの?」

「もちろんさ。恵みちゃん、憶えてる?魔法のソースだよ。かけてみな、おいしいよ。」

「おいしい。そうだ、私、この餃子がずーっと食べたかったんだ。ああ、魔法のソースとよく合うわ…。。」

もう、セリフはメチャクチャだが、なんだかちゃんとお客に伝わっている。


「今度はタコヤキだ、ほら見てくれ、ツバメ返しだ、たこ焼きがうまいよ!」、

「おかえり、元気そうじゃない?ほら、試食、おあがりよ。」

「はい、こっちこっち、名物のコロンチよ、あったかいよ、おいしいよ。」

「恵みちゃん、すっかり美人さんになっちゃって、うらやましいねえ。」

「はい、手作りの昔ながらの豆腐だよ、油揚げも特製だ!」

商店街のみんなはもう、セリフと関係なく、いつもの調子で掛け声をかけ、恵みに挨拶し、楽しく微笑みかけた。全部アドリブに変わった。メチャクチャと言えばめちゃくちゃだが、本当のかしまし商店街の姿が、活気がそこにあった。撮ってつけたようなセリフより、何倍よかったかもしれない。恵はもう、金の爪楊枝を持って、あちこち食べ歩き、みんなと親しく会話し、流れるように商店街を進んでいく。

途中、さっきのおじいさんや、おばあさん、子ども連れのお母さんも通りがかり、みんな微笑みあって歩いていく。あんなに入るのが怖かった商店街が、勇気を出して飛び込んだらなんとあったかい場所か。八百屋を切り盛りしていた恵のお母さんも、泣いて

喜んでくれた。

そしてフィナーレ、エコ妻さんや、神様も出てきて舞台は和気あいあい。優雅な音楽が流れ、恵みのメッセージが会場に響く。

「こんなちっぽけな爪楊枝でも、金の爪楊枝に変わる。」

「世界は何も変わっていなかった。勝手に落ち込んでいたのは自分だけ。」

「みんなで、支え合って生きているんだ。自分だって何かの役に立てるんだ。」

「幸せは、いつ、どこからでも始められる。それに気づけば、もちろん、今、ここからでも。」

「私、事務所にやっぱり連絡しようかな。でも、ここでやり直して、みんなと生きて行くのもわるくない。ほんのちっぽけな存在でも、金にかわるんだ。」

静かに幕。

恵さんの実話に基づく、PRショーはどうなるかと思っていたが、なんか、ほのぼのとした感じで成功のうちに終わった。舞台裏ではみんなが、集まって、声を掛け合っていた。

「あの二回目の神様のセリフは、まさに神の声だった。みんなあれで救われた。刑事さんありがとう。」

「違うのよ。あれは、責任感じて、台本捜して駆け回っていた、ガンさんの伝言だったの。」

「え、ガンさんの?そうだったのか。ところでガンさんはどこ?」

すると大道具の影から、ぼろきれのようにへとへとになったガンさんが出てきた。

「みんな、すまん。おれがうっかりしていたせいで。」

すると駄菓子屋のおばあちゃんが言った。

「何言ってんだよ。セリフ覚えの悪いみんなのために、そんな汗だくになって走り回って、どこが悪いんだよ。いいかい、あんたのおかげで、劇は大成功さ。ねえ、恵さん。」

「そうよ、ガンさんの伝言で、みんな最後までやり抜いたんだから…。」

「うう、ありがとよ、おれは、おれは…。」

男泣きのガンさんだったが、その時急に大きな声を出した。

「ちょっと待ってくれ。マスター、これ、どういうこと台?」

舞台と楽屋をつなぐ通路の脇に、布をかぶせた箱が見えた。ガンさんとマスターで布を取り去ると、なんと台本の入った箱がそこに会ったではないか。こんなそばに…。

「畜生、あやしい男が、何かを持って搬出口からにげたっていうから、無効ばっかり探していた…。」

灯台元暗し。ガンさんはへなへなと座り込んだ。

だが、その布や箱を調べた流石は、何かに気づき、眼を丸くしていた。

「犯人は内部にいる。そう思っていたけれど、こういうことだったとは…。もしかしたら、犯人が分かったかもしれない…。きっと証拠をつかんで、次こそとっつかまえてやる…。」

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