第11話 表と裏

そのころ、人影の絶えたマナビーゲームネットでは、菊川小夜子が一人で灰田のパソコンを懸命に捜査していた。夜始まるメンテナンスのために、午後からは社員は一時休業となり、先ほどまでしつこく粘っていた灰田社長とメンテナンス班のエンジニアも、夜に備えて食事に出ていた。緊急時に備えて私が残ると無理押しして、菊川が一人社に残った。

「やっぱり、ネットが完全に切断されないと例のシステムには侵入できないわね。みんなが帰るまで二時間ないわね。ここでできることをやりきるだけだわ。」

菊川は、まず、どこから打ったのかわからないように偽装して、いくつかのクレームメールをマナビーゲームネット宛に送信した。そして、霊のシステムにメンテナンス以外で定期的にログインしている社員がいるかどうか、最新の注意を払って探り始めた。なかなかうまくいかない。二重、三重にセキュリティがかけられている。壁にかけてある時計の音が気になる。いつドアがガラッと開いて、みんなが帰って来るかわからない。

しかも、不正にログインしているのが、もしも社長だったら、灰ださんだったらどうしよう。あんなに信頼しているのに、こんなに大事に思っているのに…。どんな時でも、決して愚痴を言ったり、大声を出したりせず、あの笑顔とともに、みんなを引っ張ってきた彼の名前が、もし出てきたら。その時、小さな電子音がして、画面の中に新しいウィンドウが開いた。例のシステムへの不正侵入の記録だ。

「やった、。」

菊川は、読む時間も惜しんで、急いでそのデータを自分のパソコンに転送すると、すぐに何もなかったように慎重に画面を閉じ、持ってきていた自分の椅子ごと自分の席に戻った。灰田の座席が体温で温まっていたら怪しまれてしまうからだ。そして、気づかれないかもう一度考えてから一息ついた。するとそれを待っていたかのように、ドアが開き、食事に行っていた灰田社長と数人のメンテナンス班の社員が帰ってきた。

危なかった。

「おかえりなさい。社長、今すぐ熱いコーヒーを入れますから…。」

灰田はいつもの笑顔で、やさしく微笑んだ。

「助かるよ。じゃあ、悪いけど、特別に濃い奴を入れてもらおうかな。今夜は徹夜になるかもしれないからね。」

「かしこまりました。」

菊川は、部屋の隅に置いてある、コーヒーサーバーにいつもより、大目にコーヒーの粉を入れ、人数分のコーヒーカップを用意した。…手が震えていた。灰田社長のことだから、自分のパソコンが何者かに捜査されたのがわかるかもしれない。

「菊川君。」

灰田社長がパソコンを触りながら、不意に声を上げた。

「はい、な、何か?」

一瞬心臓が飛び出すほど菊川はどきっとした。

「いやなに、今日は、ブラックでお願いしようかと思ってね。」

「はい、かしこまりました。」

メンテナンス班の社員は、創業時からの技術屋の面々だが、菊川もあまり口をきいたことが無い。技術屋で外回りの多い彼らは、この本社のそばに部品倉庫兼サービスステーションを別に持っていて、底に出勤することが多い体。いつも、外回りであちこちの会社の技術指導やネットマネーのメンテナンスに当たっている。何でも、全員社長も入れたフットサルチームに入っているとかで、みんな身長も高めでマッチョばかりだ。悪い人たちではなさそうだが、菊川がコーヒーを入れても、ありがとうを言うわけでもなく、どこか威圧感を感じる。菊川はこのメンバーが、どうも苦手だ。

そして、一通り終わると、菊川は、すぐに自分の席について、次の作戦に出た。もともと、菊川はメンテナンス班に入っていないのでネットを切断する時間には会社にはいられない。そこで自分の担当しているクレーム処理に重要な案件を仕込んでおいて、夜遅くまで会社に残る作戦だ。

「社長、先ほどまたクレームのメールがとどいたようなんですけれど、いかがいたしましょう。」

「ちょっと、まってくれ、今確認するから。…ありゃりゃ、こりゃあめんどくさいことになったなあ

しかも一件じゃないよ。まいったなあ。」

すると菊川は、畳み掛けるようにすぐに答えた。

「クレーム処理は私の担当ですから、おまかせください。できる限り対応します。」

「いやあ、いつもいつもすまないねえ、菊川君。今度また大山会長に行って、時間外手当に上乗せしてもらうからさあ。」

「ありがとうございます。期待しちゃおうかな。」

菊川は少し気分が落ち着いて、自分もコーヒーを一口飲んだ。そして、自分のパソコンで、ひそかに先ほどのデータを開いた。そして上から下まで急いで目を通すと、すぐに画面を閉じた。そこには、メンテナンスと関係なく、週一回のペースで不正アクセスの記録があった。柴田刑事の行っていたことは本当だったのか。その可能性はグーンと高まった。でも、そのアクセスはふだんみかけないアクセスキーが使われていた。誰だろう、このキーを使うのは?少なくとも、灰田ではなかった。少し安心した。菊川は、すぐにその正体を突き止めて唖然とした…。

「…え、どういうこと。大山会長ですって?」

菊川でさえ、一度も会ったことのない、オーナー会長の大山のキーが週一で並んでいたのだった。


スタジアムに涼しい風が吹いてきた。さっきまでにぎわっていた各団体のブースは片付けられ、夕焼けの残り灯が消えて暗くなってくると、舞台前にたくさんの観客が集まりだした。いよいよ第二部が始まる。

「まったく、曽根崎編集長ったら、あちこちでウタポンさんと話をシテイタでしょう。もう、私、ずーっとチェックしてたんですからね。プンプン!」

「…。…。」

曽根崎は聞こえなかったふりをした。ウタポンは、そんな曽根崎を見て、おかしくって一人で笑いをこらえていた。

「ちょっと、編集長、聞いてますか?」

清水レイナの顔がまた、ギャオスみたいになってきた。

「お、清水、ついに幕が開くぞ。PRショーの第一弾天山市伝統保存会の舞台だ。しっかり、写真撮ってくれよ!あ、舞台を取る時はストロボ現金だそうだ。忘れるなよ。」

「ラジャー。」

粘っていた清水も、幕が動き出すと、さっと舞台の前に出てカメラを構えた。しばらくは静かになる。あの休む間もなく走り回っていた桜島実行委員長が、やっと落ち着いて自分の席に腰を下ろした。そして会場全体を最後に見渡して、ゴーサインを出した。会場が暗くなり、一瞬静まり返った。ウタポンは、その大きな瞳を開いて、うっとりするように舞台を眺めた。

「たーまや―!」

開園の合図を知らせる花火が揚がり、アリーナ席からも、スタジアムからも声援と拍手がわき上がる。幕が上がると、月夜のような青い光に照らされ、舞台には大きな三段の雛壇が浮かび上がる。底にあの浴衣姿のお蒸散たちが行儀よく座っている。いったいなにをするんだろう?そこに幻想的な琴の音がかかる。その時だった。

「はーっ!」

ナデシコたちが声をそろえて片手を前に差し出した時、きらめく照明の中に、無数の水柱が輝く。ナデシコたちの声と美しい琴の音に合わせて、指先から涼しげな内輪の先から、雛壇のあちこちから水が吹き出し、めくるめく照明によって、七色に輝くのだ。

「ま、まさかの、日本古来の水芸か?」

曽根崎が驚いた。やがてナデシコたちの美しい舞いがおごそかに始まる。しなやかな動きと澄んだ掛け声、琴の調べ、次々と色を変える照明と水の柱、よく訓練された涼やかなパフォーマンスが繰り広げられていく。しかしクライマックスはもっとすごかった。

舞台が一瞬暗くなったかと思うと、ナデシコたちが色とりどりの布を取り出し、自分たちの姿を隠す。すると、三段の大きな雛壇は、でこぼこしたスクリーンとなり、底にプロジェクションマッピングで映像が移しだされる。

階段は最初雄大な革の流れとなり、やがて荘厳な滝に姿を変えさらにさかのぼってせせらぎとなる。後ろの壁も、広井青空から、険しい山、さらに原生林の中へと見事に変わって行く。ナデシコの持つ布はその都度離れたり、合わさったりして、、ある時は白い波頭に、ある時は大きな岩に、ある時は古木に姿を変えて、観客を驚かす。しかも琴の音と見事にシンクロしていく。やがて、あちこちで、光がゆらゆらと飛び交い、舞台いっぱいに蛍の灯火が揺れる。会場からため息が漏れる。その時雛壇の上から、大きな光の球が降りてきて、その球の中から、かわいらしいゆるキャラ、せせらぎホタルちゃんが現れる。

「かっわいーい!」

ぜんぜん虫っぽさがなく、赤い帽子に黒い服の女の子みたいだけど、ちゃんとお尻が光っている。

最期は舞台が明るくなり、たくさんのナデシコたちと、せせらぎホタルちゃんが出てきて、フィナーレだ。天山市の大きな蕎麦畑や、湧水とワサビ田の映像が流れ、ソバや焼き天そばの映像も出て来る。

「きれいな水で育った、おいしいおそばを食べてね!」

アイらしいせせらぎホタルちゃんの声がして、幕となる。ものすごい拍手が沸き起こる。

審査員たちは、あまりのできの良さに、みんな顔を見合わせた。なんと、天山大学の全面協力を得て、水芸の仕掛けから、水をきらめかせる照明の技術、プロジェクションマッピングまで、最先端の技術を使って、ここまでがんばったのだという。

第一弾からレベルが高く、会場も盛り上がってしまったので、それを見ていた他の団体も顔色を変えた。

次の順番のカレーソサエティのみんなは、さすがにあわてだした。でもリーダーの加藤は、まったく落ち着いてこういった。

「向こうは、向こう、こっちはこっちさ。我々のベストをやればいいのさ。」

リーダーの地震にみんなの目も輝いてきた。

「それでは次はカレーソサエティのPRショーです。お願いします。」

舞台があく、暗い舞台にミラーボールの輝きとスポットの光が揺れる。加藤が派手な司会者のジャケットを着て、蝶ネクタイをつけ、宣言する。

「クイズ、カレーグランプリ!」

ぱっと部隊が明るくなり、軽妙な音楽に載って、ずらっと並んだ五人の回答者が姿を現す。まったくテレビで見るような大人向けのクイズ番組だ。

「では、回答者の紹介です。一般公募の中から選ばれた天山市の市民の皆さんです、」

「週に十回以上はカレーを食べる一番の田部です。」

「天山市のカレー店はすべて常連、二番の水島です。」

「創作オリジナルカレーは50種類あります三番高橋です。」

「趣味は海外旅行、世界中のカレーを食べ歩きました。四番の沖田です。」

「カレー専用の冷蔵庫を持っています。五番の織田です。」

太った田辺のおじさんやオタクな水島のおにいさん、料理好きな高橋のおばちゃん、みんなやる気満々だ。不気味なのは迷彩服を着た無口なアウトドア派の沖田の兄貴、まったく正体不明なのは髪をカレー色に染め、イエローカラーの派手なメガネをかけた織田さんだ。。どれも、どこから集まったのかユニークなカレー好きだ。

「そして、輪がクイズショーのマスコット、スパイスマン君でーす。」

すると、司会者の後ろから現れたのは肉まんを三つ重ねた形に目や口、手足がついたゆるキャラだ。野菜カレーマン、インドカレーマン、ビーフカレーマンの合体したゆるキャラ、スパイスマンだ。頭の上には彼ら椅子の形の帽子が載っていて、体が動くだけで、底からスパイスが噴き出すという。着ぐるみの中には本当にスパイスが仕込んでアリ、近づくだけで、スパイシー、いい香りだ。正解した人に、一問につき一個カレーマンを配るという。

さらに、正解者が一人だけだった場合、カレーおかわりチャンスがあるという。

「では、さっそく第一門、カレー粉が発明されたのはどこの国でしょう。」

1;イギリス

2;インド

3;古代ローマ帝国

「では、政界は大画面をみて下さい。」

すると、大画面に美しい世界地図が映り、インドからイギリスに大きな矢印が動いていく。

「大航海時代、世界中から集められたスパイスで、かれーのもとがインドで生まれました。でも最初インドで作られていた料理は、その都度何種類ものスパイスを調合して作る者で手間がかかりました。そこで、19世紀、インドを植民地にしていたイギリスで、最初からスパイスを調合しておいて簡単に作れるように工夫されて発明されたのがカレー粉です。正解はイギリスでした。」

画面には、クミン、ターメリック、クローブ、コリアンダー、レッドペッパーなどの色々な香料がブレンドされてカレー粉になる図が解説されている。

さすがだ、最初の問題は全員正解。スパイスマンからカレーマンが配られる。

そして、クイズがどんどん進んでいく。

第二問;東南アジアでパクチーと呼ばれているカレーの香料は?

正解;コリアンダー

これまた全員正解だ。簡単すぎたか?

第三問;食べると、6時間血流が良くなり、ボケの予防にもなるというスパイスの女王と呼ばれている香料は?

正解;カルダモン

きたあ、ついに異変が起きる。正解は高橋のおばちゃんのみ。

「おや、やはり認知症に効果のあるくるくみんを含んだターメリックを書いた人が多かったようですね。たしかにそっちも効能があります。でも、スパイスの女王といえばやはりカルダモンですよね。」

さらに高橋のおばちゃんはカレーおかわりチャンスでおかわり問題に挑戦だ。

おかわりもんだい;カレーにつきものの福神漬けに入っている、健康にいいと言われている大きな豆の仲間はなに?

正解;刀豆(なたまめ)

健康にいいと刀豆茶を飲んでいるおばちゃん、これも楽々クリア。完全に頭一つ抜け出た。

第四問;一度に多量に撮ると、けいれんや肝臓障害を起こす香料は?

正解ナツメグ

海外組の沖田や謎の冷蔵庫男織田が正解。しかも、ここで興奮した高橋のおばちゃんが、無意識のうちに正解でもらったカレーマンを食ってしまった!これは規定違反で、一転原点だ。だれが有償化わからなくなってきた。

第五問;スパイスの王様、黒コショウと白コショウの違いは?

正解;収穫時期

これは少し難しかったか。カレーを週に十食以上食べる田辺さんが一人正解。さあ、逆転目指しておかわりチャンスだ。

おかわり井問題;海軍カレーで有名な、戦艦ミカサもある港町の名前は?

正解;横須賀

おーっと、なかなか答えの出ない田辺さん。時間ギリギリで答えた答えは横浜…ああ撃沈だ。あ、隣のオタク水島、この答えわかっていたようで、くやしがる、悔しがる。

第六問;いんどでは食べられない、日本では大人気のかれーは?

正解ビーフカレー、インドでは牛は神聖な動物だから食べません。

再び全員正解!まだまだ分からないぞ。

出題はポンポンとテンポよく進み、その都度、大画面にわかりやすい解説やイラストが出る。しかもカレーをおいしくする料理のコツやスパイスの効能なども入り、見ているだけでためになる。

解答者の席を見れば、オリジナルカレー50の高橋のおばちゃんと、海外旅行が趣味のアウトドア野郎沖田がトップで並んでいる。でも、まだ逆転のチャンスもある。なかなかの盛り上がりだ。

「それではいよいよ、最終問題です。シェフのみなさんどうぞ!」

すると、舞台の真ん中に、ワゴンを押しながら三人のシェフが現れた。

「では、、最初にそれぞれのシェフのご自慢のかれーの説明をどうぞ。」

大画面にそれぞれの店や厨房でのカレー作りが映る

一人目はヘルシー野菜カレーのネイチャースパイス。コクのある鶏がらスープで、たっぷりの野菜を煮た、山車と野菜のうまみのカレーだ。

紹介が終わると、シェフが、ゆるキャラのスパイスマンの頭に一番野菜カレーの大きなステッカーを貼る。


二人目は本格インドカレーのチャンドラ・ペギラだ。今日持ってきたのはひき肉たっぷりのスパイシーなキーマカレーだ。

今度はスパイスマンのおなかに二番キーマカレーのステッカーを貼る。


三つ目は、デミグラスソースで煮込んだ洋食カレーの店、天山県。

柔らかく煮込んだ牛肉がおいしいビーフカレーだ。

そして、最後はスパイスマンのおしりに三番ビーフカレーのステッカーを貼る。

そう、スパイスマンは、もともとこの三つのカレーが合体してできてるんだ。どれもおいしそうだな。なんかスパイスマンを見ているだけで、おなかが減ってくる。

まずは、試食コーナー、五人の回答者は、うっとりして、どのカレーもそれぞれに最高にうまいと絶賛した。

「それでは、問題です。辛さを同じにして、幼稚園児50人に食べてもらいました。一番園児に評判が良かったのはどのカレーでしょう。」

なるほど、これは難問だ。みんな、腕を組み、首を傾げ悩み始めた。

「子どもは、野菜の好き嫌いが多いから、野菜カレーはないかな。でも家庭のカレーの味に一番近いのはやっぱり野菜カレーなんだよな。」

「辛さが同じだとなると、ハンバーグ好きの子どもはひき肉のキーマカレーが案外好きなんじゃないかな。」

「いいや、味は大人向きだが、やっぱり、大きな肉の入っているビーフカレーでしょう。」

さあ、どのカレーが園児たちに受けたのだろうか?

「では、政界のVTRをどうぞ。」

大画面に映ったのは、市内のコギツネ幼稚園。お昼の時間に、大ホールに三人のシェフとゆるキャラスパイスマンが入って行き、カレーの話をする。みんなカレーが大好き、着ぐるみ大人気、にこにこして話を聞く。そしていよいよ食事の時間だ。みんな行儀よく並んで、小皿に分けた3つのカレーを食べてみる。

あっちからも、こっちからも歓声が上がる。

「おいしい!」

「おかわり!」

「おうちのカレーよりおいしい。」

男の子はやっぱり肉の枯れ、女の子はヘルシー野菜カレーがやや人気か?でもどのカレーもみんなおいしかったようで、どこを見ても、笑顔、笑顔、中には5杯もおかわりする園児もいた。

「さて、一番人気だったかれーは?スパイスマンが発表してくれます。」

スパイスマンが発表?ぜんぜんしゃべらないスパイスマンが口を利くのか。すると会場が暗くなり、真ん中に進み出たゆるキャラスパイスマンにスポットライトが当たった。するとスパイスマンは大きな赤いまるじるしを取り出し、頭、腹、お知りに貼られたステッカーにその丸印をかざした。上からした、下から上に丸印をそっと動かす。小太鼓の音が響く。最後にスパイスマンは自分のおなかに丸印を貼った。

一番人気だったのは、一票差で意外にもひき肉のキーマカレーであった。だが、もう、結果はどうでもよかった。子供たちは一人残らず大満足。その笑顔の中心にカレーがあった。カレーは幸せを生む食べ物なんだ。回答者も、観客もみんなそう思った。

「それでは、得点を集計しましょう。優勝は、まさかの大逆転、カレー専門の冷蔵庫を持つ五番の織田さんでした。今日もカレーを食べましょう。それではみなさんさようなら!」

司会の加藤が手を振って幕。拍手喝采、緊迫したクイズの跡に、ほのぼのとした感動。

曽根崎がつぶやいた。

「うう、加藤にやられたよ。猛烈にカレーがくいてえー!」

ウタポンも、ほかのみんなもおなじだった。とってもとってもカレーが食べたくなった。これはPRショーとしては大成功なのかもしれない。清水をふと見ると、さっきカレーコーナーで買っておいたお土産用の『プチマン3』をむしゃむしゃ食べていた。つまり、あの三種類のカレーを全部だ。ず、ずるい。

「あれ、編集長も食べます?まだ何個もありますよ。」

いつもなら、いらないというところだが今は言えなかった。加藤のせいだぞ。

「わ、悪いねえ、じゃあ一個だけ。」

「はい、どうぞ。」

ところが、いざ食べようとすると、隣の席で、ウタポンの大きな瞳がじーっとみている。つい半分こして渡す曽根崎。

「ちょっと、なんで二人で半分ずつ分けるの?ムキー!」

清水の足が後ろから椅子をけってくる。でもカレーまんがおいしいから、腹も立たない。

そのころ、舞台裏で一番困っていたのは、かしまし商店街のみんなだった。この直前に読んで、台本のセリフが覚えきれていないのだ。

「どうしました?何かお困りですか?」

心配して、パトロールのカピバラのおやっさんたちがやってきた。

「いやなに、みんなセリフの物覚えが悪くてね。」

花一のマスターが、情けなさそうに答えた。

「はは、出番はまだですよ。焦らないで、ギリギリまで台本を読んでいれば、何とかなるでしょう。あ、そうだ、みなさんお店のセットのところでセリフが多いんですよね。お店のセットの台の上に台本置いておけばいいじゃないですか。どうせ舞台の下からは見えませんよ。」

カピバラさんのやさしい言葉にみんなも少し落ち着いた。

「そうだな、お店の台の上で台本広げておけばいい。何とかなる。みんな頑張ろう。舞台の奥に台本の箱を置いておくよ。もうすぐ出番だから、着替えや小道具の確認だぞ。」

みんな台本の箱に手をのせ、気合を入れた。

「エイ・エイ・オー!」

みんなしばらく舞台の用意にまわり、、直前になったら大道具のガンさんが台本の箱を舞台のそでまで運んでおくことになった。

セリフがおぼえられなくて、特に困っていたのは、魚屋の銀さんだった。彼は途中で出て来る運命の神の役で、セリフは二か所しかないが、そのセリフがやたら長いのだ。

「ガンさん、どうしよう、おれの出番の時、お店のセットじゃないから、台本も置いておけないよ。」

一つ目のセリフも危ないが、二つ目のセリフになると、もう最初から止まってしまう。

見かねた大道具ンのおでん屋のガンさんが申し出た。

「しょうがねえ、銀さん、どうせ神様の役だ。エコーを効かせてゆっくりしゃべるんだろ。二つ目のセリフだけどさ、俺がマイクで陰で台本読むから、口パクでやってみないか。」

「有りがたい。頼むよ、ガンさん。」

銀さんは大きく胸をなでおろした。そして、二つ目のセリフのある場面のページを、こっそりやぶくと、ガンさんにわたした。でも、この申し入れが、後で大騒動となる。

舞台裏では、朝露共同体の用意がやっとおわるところだった。

「あれ、あんたたち、農業青年部だよね。なに、すっかり垢抜けしちゃって。おどろいたわ。」

のぞきこんだ流石は身のこなしがまったく変わってしまった農業青年たちを見て、思わず叫んだ。何でも青年部の源さんの話では、姿勢と歩き方の癖を直すだけで、まるで違って見えるのだという。モデルたちと一緒に、ウォーキングの特訓から、はじめたらしい。

牧場で乳製品を作っている農業青年部リーダーの源さんが笑っていた。

「ウォーキングの跡は、ダンスの練習がきつかったなあ。でもだんだんうまくなると、どんどん面白くなってきてね…。おい、みんな、最後にもう一度ステップの確認をしようや!」

「おう!」

なんでも御手本となるウォーキングや踊りのビデオをモデルたちに事前に作ってもらい、それを渡して後は、自由に任せたのだと言う。

朝露農園の農園主紫門夕子も、それをみて微笑んだ。

「自然農法と一緒、へんに農薬や肥料を使わず、みんなの一人一人のやる気にかけたの。いい意味で干渉せず、自由に任せたわけ。みんな自分たちのやる気と生命力でここまでやり抜いたってかんじかなあ。」

モデルのリーダー、人気モデルの力石萌の声が響いた。

「よーし、幾よ。みんなで心を合わせて、始めるよ。」

「はい!」

いよいよ次のステージが始まる。大会実行委員長の桜島さんが最終確認に走ってきた。最終のオーケーが出た。いよいよだ。

「次は、朝露農園共同体のステージです。どうぞ!」

幕が開くと、舞台には大きな長い通路が設けられ、完全にファッションショーの状態だ。面白いのは、カメラを持ったマスコミ役や、観客役までたくさんいて、ショーを盛り上げている点だ。大画面には大都会の夜に、ライトアップされた摩天楼がそびえ立つ。

ノリのいい音楽が流れ、ストロボが瞬き、数人のモデルが華やかに現れる。

「おおっ!」

有名モデルの登場にどよめきと歓声が沸き起こる。

普通のおしゃれ義だ。カジュアルだったり、フォーマルだったり、ラケットを持ったアスリートのスタイルだったり、メガネの光るキャリアウーマンだったりする。音楽に合わせて、楽しそうにふるまったり、スポーツの振り付けをしたり、メガネを押さえて、事務仕事など、コミカルな振り付けがなんとも楽しい。

ところがそんな時、ファッションショーが一変する。

そこに急に魔法のような音が響く、光が点滅し、音楽が突然止まり、モデルも、観客も、マスコミも全員一斉にストップモーション。ピクリとも動かない。

するとそこに、森の要請か、エルフかと思わせる、緑色の茎や大きな葉、そして大輪の花に飾られた不思議なコスチュームのゆるキャラ、レディー・菜々(ナナ)がすーっと現れて語り始める。小顔で八頭身の珍しいゆるきゃらだ

「遊んだり、スポーツしたり、あるいはオフィス、あるいは競れも二、いろいろな顔、いろいろなスタイル。それなら、農業のファッションがあってもいいんじゃない?私たちは提案します、機能とデザインのハイブリットファッション、女性のための新しい農業のための亜久里ファッションを。」

レディー・菜々は、そのままMC席に、すると再び魔法のような音が響き、みんなは何が起きたのか、あっちやこっちをキョロキョロ。すると殺気と違うスローな音楽がかかり、大画面の画像もカラフルでおしゃれな、プランターの野菜に変わった

「パート1、家庭菜園。」

まずは、普段着にエプロン姿の三人のモデルが現れる。みんな肩まである長い手袋をしている。長い手袋は、花柄、野菜柄、流水柄など、とてもおしゃれだ。すると、さっと服の特徴の解説が入り、ポイントが画面に大写しになる。すぐに着脱できるゆったりした美しい手袋は、防水性の上、エプロンの肩ひもに面ファスナーで止められるようになっていて機能的。これならネイルも手あれも袖の汚れもきにならない。やはり防水性のかわいらしいエプロンは、機能的なポケットがたくさんあり、さらにキャベツが1個入るほどのカンガルーポケットまでついている。

長い手袋はエレガントな感じで、土いじりをするようには見えないのに実用的なのがミソだ。ここで軽快な乗りのいい音楽にさっと切り替わる。

次は、なんだか、スポーティーな感じの三人組だ。一人はなんと車輪の付いたスケートボードを持って、頭にはおしゃれなヘルメット、両肘、両ひざにはカラフルなサポーターがついている。これだとなんと、体をかがめて膝をついたりしてもへっちゃら。サーフボードに重い植木鉢や土などを乗せて移動することもできる。

お次は昔の飛行機の操縦士を思わせる帽子や革のベスト、革の手袋の、こだわり派のシティ風だ。凄いのは土いじりの最中も普通に音楽が聞けるスピーカー尽きの帽子と、おしゃれなブレスレッドだ。左には、スマフォや携帯を入れられるソフトホルダーがついている。すっぽり入るので土屋水をかぶっても心配ない。右手には、6番目の「指」がついている。この指を前に伸ばせば、ソフトホルダーの上からスマフォを操作できる。

土いじり中も音楽もアプリもオーケーだ。

三人目はホッケー選手のような大きなひざ当てとスポーツTシャツ、そして細くしなやかなスティックを持っている。

これはつる植物やグリーンカーテンの世話ようだ。あの派手なれがーすはそのまま膝を付けて座り込んでも、座布団のように長時間足を守る。長いスティックは、長いマジックハンドにも高枝切ハサミにもなる。

高いところの果物だって収穫できる。どれもスポーティーでかっこいいけれど、とても実用的なのだ。

「パート2、広い畑に出よう。」

音楽が盛り上がり、大画面の風景が美しい畑に変わって行く。

さあ、お次は上下のつなぎにおそろいの帽子の五人組が登場だ。みんなそれぞれ手にトマトやピーマン、セロリやニンジン南下を持って、ポーズを取りながら出て来る。伸びチジミする布地で、全身帽子も含めて紫外線99パーセントカットの加工がしてある。しかも実はつなぎに見えて、脱ぎ着のしやすい上下セパレートでおなかや背中もでることはないし、脱ぐのも楽でいい所どりだ。カラフルな軍手、かわいいズック、一人一人オリジナルのアースカラーで、眼にも鮮やかで人数がそろうととても楽しい。

次は、カウボーイ風の三人組。長居ブーツ姿のアシナガファッションだ。

幅広のテンガロンハットは、強力な紫外線避け、ブーツは泥やぬかるみに強く、田植えだってできる実用品だ。大きくてかっこいいガンマンベルトには拳銃ではなく、鎌やハサミなどのよく使う道具をしっかり入れられる。

三人ともブーツの色に合わせて、コーディネートを変えて、見ていてあきない。

次は真夏の熱中症対策ファッションだ。一人は体中を白い布で覆った中東風。一人は顔まで布で覆った忍者ルック、最後の一人は銀色のパンツルックだが、背中側の裾が長い、貴婦人のようなファッションだ。どれもユニークだが、特に貴婦人風は、銀色の絹のような素材で頭や首を優雅に隠し、全身が、宝石のように光り輝いているので、妖精の女王様みたいだ。それぞれに中東風は、簡単に上から羽織るだけ、忍者風は身軽で動きやすい、貴婦人風は熱にも紫外線にもめっぽう強いなどの特徴がある。どれも、背中などに保冷剤を入れることができたりする。意外と風通しの良い貴婦人風は、おしゃれな紫外線カットゴーグルまでついていて万全だ。

どれも洗練されたデザインで、女子が着ると斬新でかっこいい。

「さあ、収穫祭よ!」

最初は静かでみずみずしい音楽がかかり、大画面に広大な自然農法の畑が映る。自然農法だから、野菜の下に雑草や咲き誇る花がしっとりと息づく。そして、昆虫やそれをついばみにくる小鳥、あれ、畑の中に鳥の巣まで見える。

その畑の中に、ににぎやかな音楽とともにあのアースカラーの農業ギャルたちが籠を持って入って行く、みずみずしい朝露をはらんだ野菜が次々に収穫されていく。はっと気が付くと、大きなかごに色とりどりの野菜を入れて、農業ギャルたちが、みんなで舞台の真ん中に運び込んでくる。

朝つみの新鮮な籠のやさいが画面いっぱいに映る。会場から思わずため息が漏れる。そこで舞台のあちこちでクラッカーがはじけ、紙吹雪が舞う。さあ、音楽が盛り上がる。

最期はロング手袋から、スポーツ風、カウボーイ風、つなぎ軍団、から日よけ軍団まで、全員が登場、舞台の前面に飛び出て、弾むようなダンスを踊り出す。すると、ゆるキャラ、レディー・菜々が中央に躍り出て、英語で歌を歌い、踊りだす。すると花吹雪が舞い、照明がきらめき、なんとマスコミや観客役までエネルギッシュに踊り出す。

音楽が一度泊まった時、グーっと誰かのおなかが鳴る。すると、ゆるキャラのレディー・菜々が、魔法の杖と魔法の布を取り出しあの大きな野菜籠の上に布をかぶせ、魔法の言葉を唱える。

「あれ、どうなったの?」

煙が立ち上り、あら不思議、先ほどまで山盛りだった野菜が消え、代わりにあの有機野菜を湯葉でくるんだスティック食品のベジユバーが現れる。

あの自然農法の無農薬野菜が、こんなにコンパクトに変身しちゃった?

するとレディー・菜々は、籠のなかから、笹の葉でくるんだ機能性食品ベジユバーをさっと撮りだす。

「おなかがすいたら、ベジユバー!都会生活に手軽に撮れる、無農薬有機野菜。いつでもどこでもベジユバーよ。」

するとなんと舞台の上のモデルも、マスコミも、観客も一斉にポケットからベジユバーを取り出すではないか。もぐもぐ、和気藹藹で一時のブレイクタイムだ。おいしそうなだけでなく、携帯性の良さをPRする。そこに最後の音楽がかかり、全員でポーズとってフィナーレだ。

出来のいいミュージカルでも見ているような、テンポのいいステージだった。

実際の人気モデルが多数出演して、しかも歌も踊りもあり、本当に鼻やかなステージだった。みんなうっとりだ。舞台が終わってからわかったのだが、あのマスコミ役で踊っていたのは、農業青年部のボランティアだった。よくも、あそこまでダンスをマスターしたものだ。

しかも、ゆるキャラ?のレディー・菜々と機能性エコ食品のベジゆばーは今までに類を見ない斬新なユニークさを持っており、みんなにどう評価されるのか、とても気になるところだ

曽根崎は色々な方向から、細かく審査しているのだが、さすがに考えあぐねているようだ。

「いやあ、これで、グランプリを出せと言うのは、きついぞ。どうするかなあ。」

みんな、一生懸命だ。あの素朴な農業青年部の人たちまで、あんな洗練された踊りをみせてくれて。本当にどこからも熱意を感じる。そしてついに、あの芸人ギルドのステージとなった。

幕がゆっくり上がると、また時代劇かという期待は大きく裏切られ、底はマッドサイエンティストの研究室、シュールな、わけのわからない実験装置がならんでいる。。お奉行に似た博士がいる。そこにダークサイダーの総統Z様が戦闘員とやってくる。

「ギリギリ博士、ついにできましたか、まったく新しい恐怖の発電装置が!」

「フヒャヒャヒャ、ついに完成したのだ。人々の嘆きや苦しみで発電する新しい発明、

嘆きの部屋を!まずは、実際に見てもらおう!」

すると舞台の下手に人間が入れるくらいの大きな箱がはこばれてくる。上手にはドアと、女装した芸人のアリちゃんが現れる。

「よし、お前を逃がしてやる、そこのドアから逃げるがよい!」

「やったー!」

ところが、ドアに飛び込んだとたん、アリちゃんは、消えてしまう。

「博士、いったい、何がおきたんですか?」

「あれは、いやな場所にむりやり転送する、無理やりドアだ。今あ奴はこの小さな箱の中に転送された。内部カメラで見てみよう。」

うすぐらい小さな箱の中でかわいそうなアリちゃんが、泣きっ面でもがいている。

「なんだよ、逃がしてくれるんじゃ、なかったのかよ?」

「この小さな箱の中には振動や、感情、によって発電する最新の機能が入っている。その目をしかと開けてみるがよい。発電メーターがどんどん上がって行くのを。」

大画面には、アリちゃんのもがき苦しむ内部の映像が、映る。

「ああーん、暗いよ、狭いよ、怖いよ、出してよ。」

アリちゃんが中で壁を叩き、跳ね回り、わめき散らすほどに、発電メーターがどんどん上がって行く。

「酢、凄い、どんどん発電していく。博士、やりましたね。」

「フヒャヒャヒャ、わめけ、怒鳴れ、嘆き悲しむがいい。それが我々のエネルギーとなるのだ。どうだね総統Zよ。」

「凄いです、博士。よし、これを街のあちこちに取り付けて、街を恐怖で覆い尽くしてやる。そして、その電力パワーで、悪魔神イビラス様を光臨させるのだ。では、戦闘員たちよ、街のどこにどのように取り付ければ効果的か、リサーチせよ。頼んだぞ!」

「ラジャー!」

「あれー、おれ、どうなっちゃうの?」

アリちゃんのわめく声と一緒に、暗転。

すると、大画面に芸人ギルドのメンバーの色々な店が映る。戦闘員の一人が舞台の中央に出てきて叫ぶ。

「女流お笑い漫才のポンタリキさん、嘆きの部屋に人をたくさん送り込むためには、どうしたらいいですか?」

「ナゲキの部屋?それがお前らの店か?やはり、客を呼び、しかもリピーターとしてまた来てもらうためにはのう、工夫が必要じゃ。」

「嘆きの部屋に、リピーターですか?」

「わしらの店を見よ。」

すると、大画面に、太鼓の音に合わせ、ポンタリキの二人が、マグロ解体ショーの派手なパフォーマンスを自分たちの店「津軽海峡」で行う様子が映る。凄い盛り上がりで、食べに来たお客も大喜びだ。

「ポイントは、音楽とパフォーマンスだ。うまく行けば、リピーターもどんどん押し寄せるぞ!」

「ラジャー!」

さっと暗転、次の戦闘員がまた出てきて叫ぶ。

「缶詰専門店作って大儲けをしたという、円熟漫才の春こい・こがれ師匠、嘆きの部屋に、どんどん人を送り込む方法を教えてください。

するとハリセンを持った、こいと、頭に大きな缶詰を乗せた焦がれが登場。すると缶詰おじさんがしゃべるしゃべる。大画面に説明画面まで映る。

「ええか、人と同じことやっとったら、店はうまくいかんのや。わしらなんか、賞味期限があと一年で切れるという缶詰を安く仕入れる。でもなあ、缶詰は年月がたっている方が、実は味がしみてうまいんじゃ。そして、年二回、2月と8月に、災害時用の食料として、家族の3日分の缶詰を定期宅配しとる。これがえらい儲けなんや。定期的に新しい缶詰を送ってくるから、前の缶詰を食べなあかん。だから災害時の食料は期限切れにならずにいつも消費され、新しい。エコやで。しかも3日間はおかあさんが料理を作る必要もないし、災害の訓練にもなる。こっちにも定期的に金がはいる。しかもアンケート撮って、人気の缶詰から送るから、おいしいって大評判や。どや、凄いやろ、あんたらも、儲けようと思ったら、まず人と違うことやれ!そして味で勝負や。ほれ、気合入れてやらんかい!」

すると、春が、特大のハリセンで戦闘員を思いっきりしばく。

「ほれ、気合入れて行かんかい!」

「ラジャー!」

キャラメロンのケーキやポップンハートでは、

もちろん、味も大事だけれど、もっとかわいい名前にチェンジよ!「嘆きの部屋なんて店名はダメ、ピポ!」

アラカベマリの「笑って楽しい料理教室」では、

「暗くて、狭いのは裁定よ。明るく広く、衛生的に、トイレは特にね。」

トンカツの千両箱では、難波屋が

「お金をケチったらだめだ。大きな声を出すのなら防音工事は必要じゃな。え、味で勝負しろと言われた?では、うちで人気のトンカツ千両箱を安く卸してやろう。おにぎりセットがうまいぞ。」

など色々アドバイスを受けながら、ちゃっかり芸人ギルドのそれぞれのお店紹介もやってしまう。

そしてまた最初の総統のシーンに戻る。

「わが優秀な戦闘員たちの働きによって、優秀な改造プランができたようじゃ。おい、ナゲキの部屋の改造プランはまだか。」

すると下手から、二人の戦闘員がやってくる。入場でわざとらしくこけたり、資料を火繰り返したり最初から笑いを取っている。

この二人、どうやら人気コンビのモータービンらしく、客席が気付いてざわついている。

「はいあちこちから、いろいろなアドバイスをもらいましたが、全部実現するのは難しいかと。」

「馬鹿者、みんな心をこめてご指導くださったのだ。すべて採用だ。いいか、ここをこうして、こうやって、ほら、これでどうかな。」

「えええ、そうか、そんな方法があったか。」

「流石総統Z様。わめき声が漏れないように防音工事、部屋は明るく広く清潔で、特にトイレはきれいに、踊りやダンスパフォーマンスを生かしてリピーターを増やし、人のやらない方法で、味で勝負、大きな声を出させ、どんどん部屋を振動させる。わかりました。総統のおっしゃるとおりに!」

「これで、街は恐怖に覆われ、悪魔神イビアス様がご光臨だ。わっははははは!」

一瞬部隊が暗くなり、大画面に悪魔神イビアスが映り、不気味に笑い、静かに消えて行く…。

やがて、舞台の中央に一人立つ総統Z。そこんに戦闘員がやってくる。

「相当、大変です。総統の言うとおりに改造して、あちこちに店を出したら、どんどん若い女子たちが詰めかけ、大繁盛、しかも震動も声の大きさも予想の十倍以上で、凄い発電量です。かなり余分に発電してますが、いかがいたしましょう。」

「そんなもの、地域に安く売ってしまえ!ワハハハハ。」

ところが、そこに戦闘員一号が上手から飛び出す。

「ちょっとまった!」

「なんじゃ、一号よ。」

「発電した電気を地域に安く売れって、それじゃあ地域の人が喜んじゃうじゃないですか。地域に貢献して、どうするんですか?我々は悪の秘密結社ですよ。」

「す、すまん、一号。」

「冗談じゃないですよ。大体嘆きの部屋に人が押しかけてるって言うから、どれだけ恐怖が高まったかと思って今、見てきたんですよ。そしたらどうです!」

「なんかまずかったか?」

大画面に、無理やりドアに入って行く女子高生たちの様子が見たままに映し出される。

「嘆きの部屋のシステムはそのままだけれども、部屋が明るく広く清潔になって、トイレはきれいだし、カラオケやダンス音楽が流れっぱなし、おいしいものが飲み食いで来て、大声出しても跳ね回ってもやりたい放題。店の名前がポップンダンスこれじゃあ、低料金でサービス満点のダンススタジオじゃないですか。

「だが、その、発電効率が…。」

「発電するはずですよ、小学生から社会人までのダンスチームや、ダンス好きがガンガンやってきて、広井スタジオで楽しく踊りまくってますよ。踊りの後はすっごくうまいトンカツ千両箱や人気のサイダー、ダークサイダー飲んでにっこにこ。どこが嘆きの部屋ですか?」

楽しそうに踊る女子高生や、おいしそうにトンカツ千両箱を食べる様子が大画面に映る。

「うう、す、すまん。」

「さらに、発電量が多すぎるからって地域に貢献してどうすんですか。あなたはまた志を忘れてしまった。我々は悪の秘密結社じゃなかったんですか?」

「だが、まて一号。いま異次元から多量の波動エネルギーがやって来ておる。悪魔神イビアス様がついに光臨してくる。間違いない、世界を黒く塗りつぶしてくれる。」

「イビアス様が?それは本当ですか。ついに我々の目的が!」

「」まちがいない、多量の波動エネルギーとともに、何かが近づいて来る。わはははは!

舞台の照明が激しく点滅しし、大きな音とともに何かが近づいて来る。劇的な音楽がかかり、ついにそいつは上手からスポットライトに照らされて出現する。

どよめく会場。

「ハッピッピー、笑う門には福来たる。ラッキー、ハッピー福の神、ハッピー小判君だよ。」

思いっきりこける一号。それは悪魔神どころか、ハッピを着た小判のゆるキャラ、ハッピー小判君だった。

「だめだ、こりゃ。…相当、しばらく旅にださせてもらいます。」

「あーん、一号、待ってくれ。」

二人が居なくなると、実在のダンススタジオ、ポップンダンスダークサイダーが大画面で映る。残りの戦闘員が並んで叫ぶ。

「安い、うまい、踊り放題。ダンス音楽持ち込み自由の定額制。ポップンダンスサイダーもよろしくね。」

最期は、ハッピー小判君を中心に、芸人勢揃いで、女子高生のダンスグループも舞台に飛び出し、踊り放題。華やかなフィナーレで幕となる・

よくあるベタな喜劇だったが、それだけに安定した人気で鉄板という感じだ。

残すはかしまし商店街と肉屋連合だけだ。期待とドキドキをさらに加速させながら、夜はあたりを包み込む。

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