第10話 ゆるキャラグルメバトル

その日、天気は朝から曇りだった。最近とんでもなく暑い日が続いたので、その点ではよかったが。どうも、曇り空の不透明さが、天山市全体に重くのしかかっているように思えた。曽根崎は、こんな面倒なことになるとは考えもしていなかった。数日前、市役所の中に或る大会実行委員会から電話があった。突然審査員のオファーがあり、引き受けるはめになったのだ。

「すいません、審査員が、市議会委員や天山しのいろいろな団体の代表ばかりで、グルメの専門家がいないと問題になったんです。それで、公平に審査のできる味の専門家と言うことで、もちろん市内に在住の著名な方と言うことでぜひ、お願いしたいのですが。」

そんな電話だった。しかもその日の午後になってわかったのだが、アイドル料理研究家として人気抜群のウタポンの所にも同じオファーがあって、やはり引き受けたのだという。

そして、当日、グルメバトルは、涼しくなり始める夕方からだが、曽根崎はその二時間前から会場入りをシテイタ。

まだ暑い日差しの中をアリーナに出ると審査員席が用意されており、しかもよく見ると、曽根崎は、ウタポンと隣同士だった。

それだけだったらうれしいのだが、マスコミの席がすぐ後ろで、いつの間にか曽根崎の真後ろに清水レイナが陣取ってしまったのだ。曽根崎はあくまで取材を兼ねながら、きちんと審査をおこなうつもりだが、まあちょっと隣のウタポンと会話でもかわそうものなら、後ろの席から邪魔が入るのである。

「それでは、審査員の皆様、場所の確認が終わりましたら、控室で一度打ち合わせがあります。移動をお願いします。」

会場が狩りにクーラーの効いた会議室に案内される。

「ええっとでは、すいません、審査委員長の曽根崎編集長から、各種団体の料理やゆるキャラのコンセプト屋重要なポイントについて説明をお願いします。」

え、説明?審査委員長?聞いてないよ。ひどいなあ。と思いながら、曽根崎は大人の対応で、格団体のコンセプトと料理やゆるきゃらの楽しい説明をスラスラト始めた。市議会議員や、まったく素人の団体のリーダーたちも笑顔でうんうんうなづいている。

「なるほど、芸人ギルドは、まったくバラバラな店の集合なので、それでどの店にもお金がはいるというハッピー小判君でまとめたのか。その反対に自分たちのグルメをそのままスパイスマンのデザインにしてしまったのがカレーソサエティなんだ。いやあ曽根崎編集長の説明はわかりやすいですね。」

「なるほど、天山市伝統文化保存会と朝露農園は、地産地消の精神でほぼ全品天山市の農産物でできているわけだね。あと肉屋連合や芸人ギルドのトンカツ料理も天山市の者を多くさんつかっているんだ。応援したくなるね。」

突然むちゃぶりされた曽根崎の解説だったが、大評判のうちに幕をとじた。気が付いてみると、審査委員長だ。これはうかつなことはできないぞ。

だいたい、何もしていないのにウタポンと並んで席に帰って来ただけで。清水はふくれっ面で、足をドンドンならしてブーイングだ。さらにそれを見ると、ウタポンも対抗してわざと話しかけて来るから緊張は高まるばかり。色々と苦労が絶えない。

スタジアムの正面には大きな舞台といつもの大画面。そのすぐ前に小さなアリーナ席があり、審査員やマスコミ、来賓などの席がある。そして、アリーナのほとんどはグルメスペースだ。6つの団体が出展する、6つのグルメこーなーとたくさんのベンチやテーブルが用意されている。お客は安い入場りょおうをはらって食べ放題。お土産が、持ち帰りたいお客は、追加でお金を支払えばいくらでも低料金で可能となる。

後半は店は片付けられてPrショーとゆるキャラ第運動会だ。

ショーの内容やゆるキャラはまだ秘密の所が多く、大会の終了後に大売り出しだそうだ。

まずはみんな、グルメスペースに自分たちの料理コーナーをつくる作業に追われている。

設置が早かったのは、移動店舗の小型トラック3台を用意したカレー

ソサエティだ。さすが理論派、しかも三台目は飲み物のフルーツラッシーを売るという。

大がかりだったのは芸人ギルド。舞台の大道具さんを連れてきて、江戸時代風の簡易店舗を組み立てている。

あとは簡易テントハウスの店にそれぞれの工夫を凝らしている。

一件だけ、明らかに違う雰囲気なのは、遠くから見てもファッショナブルな色彩で、近付けばかわいいアイテムで埋め尽くされた朝露農園共同体だ。

大きな実演コーナーが張り出しているのはかしまし商店街だ。だが、ここではもう、事件がおきていたのだ。

チーム白峰は朝早くからスタジアムのあちこちを点検し、店の設営が始まったと聞いて、さっそくやってきた。何より心配なのは、脅迫状が入っていたかしまし商店街だ。昨夜9時ごろ電話をしたときは何でもなかったが、どうだろう。

歩いていると、誰かが手を振って、こちらに歩いて来る。パトロールの腕章をした、あのちっこい目でおっとりしたカピバラのおやっさんだ。青少年育成連絡会のメンバーたちだ。今日もボランティアで、会場を回っているのだという。

「それが、聞くところによると、かしまし商店街でなにか会ったらしいですよ。」

カピバラのおやっさんが、心配そうにつぶやいた。なんだろう、いったい何が起きたのだろう。

「あれ、ちゃんと店もできているみたいだけれど…。」

流石たちが訪れた時、ちょうどあのぬいぐるみのクマのような中華料理の山ちゃんが出てきた。焼き餃子の実演だ。

だがどうしたのだろう。みんな山ちゃんを心配そうに見ている。火を入れて、さっと手作り餃子を並べ、焼き目のついたところで、いつも通り特製の中華スープをざっと加えてふたをする。大きなジュウっという音が食欲をそそる。

ところが焼き上がっても、いつもの

「ほうら、おいしいよ。愛情も一緒に包んであるよ。」

という決まり文句が聞こえない。あれっと思うと、あのやさしい山ちゃんが、フラッとして横倒しに倒れた。

真夏の日差しの中で、熱中症か?「

「救急車は呼ばないでくれ。すこしばかり、眠れば治るんだから…。」

駆けつける商店街のみんな。カピバラのおやっさんたちも、流石もあわてて駆けつけた。

花一のマスターがぽつりとつぶやいた。

「山ちゃんは一人で、すべてをしょいこんだんだ。」

実はかしまし商店街では、みんなで話し合った結果、揚げ物はもちろんオサシミだろうと、サラダだろうと、何にかけてもおいしい駄菓子屋のおばあちゃんの魔法のソースがメインに選ばれた。そして、いろんなものに振り掛けてみて、代表の食材を選ぶことになった。菌さで選ばれたのは山ちゃんの餃子だった。ネーミングも、ズバリ『かしましソース餃子』と決まった。ところが、秘密にしておいたはずなのに、それがどこからか漏れたのだ。

きのうの夕方、手作り餃子の具をすべて作り上げ、一日寝かせて今日の朝いちばんで皮で包んで本番で焼くはずだった。ところが真夜中に、誰かが中華用利点に忍び込み、餃子の命である具が、すべて入れ物ごとひっくり返され、すべてダメになってしまったのだ。でも、責任を感じた山ちゃんは、夜中にすべて一人で作業を開始した。自分の実の子どものように愛情をかけて作り上げた餃子の具をすべて丁寧に拾い上げ、涙を流しながらすべて捨てた。そして、何千人分と言う具をもう一度作り直し、一睡もせずに川で包、フラフラになりながらここまで運んできたのだという。

「その前の夜だって、山ちゃんは仕入れに遠くまで出かけてほとんど寝てないんだ。だから、山ちゃんは、二日間、一睡もせずに働きっぱなしなんだ。みんなに心配かけちゃいけないって、何から何までみんな一人でがんばって…。「もうすべてのグザイが皮に包まれて出来上がってここに運ばれて来たんだ。

青少年育成連絡会のカピバラのおやっさんが言った。

「山ちゃんは、平気だと言っていますけれど、大事をとって、お医者に診てもらいましょう。彼は予想以上にフラフラです。。」

山ちゃんには悪かったが、少しして救急車が呼ばれ、病院に連れて行かれた。

手配や移動を手伝ってっ暮れたカピバラ梶原さんたちは、また来ますとパトロールに出かけた。

流石が、沈み込んだかしまし商店街のみんなに聞いてみた。

「もう、餃子の実演は…。」

すると花一のマスターが答えた。

「山ちゃんは、やさしすぎたんだ。でも俺だって、山ちゃんと何十年の付き合いだ。奴の餃子の実演は数えきれないくらい見ているさ。オレが、山ちゃんには及ばないにしても、魂と心意気でやきあげてやるよ。いいだろうみんな。」

みんな、涙ぐみながらうなずいた。

(ほら、マスターにばっかりいい顔はさせられないよ。」

「みんなで、山ちゃんが居なくなった分、頑張りぬくよ。)

さらに元気そうな二人のおばちゃんが、気合を入れてとびだした。一人はコロンチのおばちゃんだけど、もう一人は見たことあるような、でもだれだかわからない…。誰だ?

「ええ?」

それはなんと気合を入れて化粧をして活動的な服に着替えた駄菓子屋のおばあちゃんではないか?どう見てもきびきびうごくその姿は、2、30才は若く見える、まるで魔法使いみたいだ。

「それにしても、なんてひどいことをする奴ら名の?ゆるせない、絶対許せないんだから。」

流石が怒りに燃えた。柴田があとを続けた。

「でも、これで危機を乗り切ったとしても、奴らの目的はあなた方の優勝を阻止することですから、これからも気を抜けません。私たちがずーっとついてフォローしますので、何かあったらすぐご連絡ください。」

丸さんは、首をひねっていた。

「内部の者しかわからないはずの料理の情報が、どこから漏れたんだ…。早く突き止めないと、大ごとになるぞ…。」

なにより不気味なのが、犯人もいまだにわからない、第一、何でこんな商店街の邪魔をするのかさえ全く分からない。

そして、あっという間に時は過ぎる、開会式が始まろうとしていた。


まだまだ暑い午後二時半、アリーナ席が審査員や来賓、マスコミなどでぎっしり埋まり、スタンドに人があふれた。花火が揚がり、ファンファーレが鳴った。いよいよ開幕だ。

「ええ、本日は暑い中お集まりいただいてありがとうございます。郊外のベッドタウンでありながら、住宅や商業施設だけでなく、ハイキングコースや観光農園、最近は大学やiT産業も寝室氏、多様な顔を持つにいたった天山市。その未来明るくするための大きなイベントがついに幕を開けます…。」

まず演壇に上がった市長が熱く語った。

次に、各団体の代表とともに大会実行委員帳が姿を現した。

委員長は市役所の観光課の名物課長で桜島雄三というなかなかのアイデアマンだ。小太りでメガネの、愛嬌のある男だが、火山みたいなエネルギーの塊のような情熱家だ。

これから涼しくなる夕方にかけて行われるのが、創作グルメバトル。次に暗くなった時にゆるキャラとグルメのPRショーが大舞台で行われる。

そして三つ目がアリーナ席を取っ払い、ナイター照明で大がかりに行われる、ゆるキャラの第運動会だ。ただし、運動会と言っても勝てば言い訳でなく、あいらしいパフォーマンスが主な得点となる。

そして、最後、料理部門、ショー部門、ゆるきゃら部門の投票が行われ、各部門賞や総合優勝が決まり、総合優勝は天山市の観光の顔となるのだ。一通り説明が済むと、あの名物課長が叫んだ。

「それでは、ただいまより、第一部、グルメバトルを始めます。ヨーイ、スタート!」

ファンファーレがなり、人々がアリーナに繰り出した。

流石たちは、かしまし商店街に交代で一人ずつつ警備に来て、残りは会場全体をパトロールするという体制をとった。

「では、審査員のみなさん、審査員長が案内しますので、店をお回りください。行列に並ぶ必要はなく、格店舗に味見用の試食が用意されています。」

曽根崎はまた驚いた。審査委員長が案内?今度はガイドをやれっていうのか。さすがに文句を言おうとしたら、あの名物課長、大会の委員長の桜島雄三が顔色を変えて駆け寄って来た。

「ごめんなさい。私の責任です。すいません。さぞ驚いたでしょう。」

桜島は、突然頭を深く下げ、土下座状態だ。

「いったいどういうことなのでしょう。」

もともと市議会委員のお偉方が審査委員長をやることになっていたのだが、自分よりくわしいタウン誌の編集長が来ると聞いて、昨日の夜、突然辞退、編集長に変わってほしいと申し出たのだという。だが、縦割りで、文字通りのお役所仕事なため、実行委員会にそれが知らされたのは、ついさっきで、引き継もなにもないまま始まってしまったのだという。

「本当に申し訳ない。すみませんでした。」

「はあ、そういうことだったんですか。わかりました、では今、正式に審査委員長を引き受けます。あとはおまかせください。」

すると、桜島は曽根崎の手をしっかりみぎり改めてお礼をのべた。

「ありがとうございます。今度の大会は、半分は市役所の職員なんで、どうも行き届かないところが出ているようでご迷惑をおかけします。でも、命かけて取り組んでいる職員もたくさんいるので、応援してください。」

桜島雄三はあつかった。曽根崎はその手を強く握り返した。

そんな二人を、ウタポンは後ろから尊敬の視線で見ていた。

「では、天山市伝統文化保存会のブースから行きましょうか。」

そこはこの真夏のスタジアムで、一件だけ涼やかな風が吹いているようなたたずまいの空間だった。大きなテントは葭簀で覆われ、中には山から採ってきた天然水がサラサラと小さな水路に沿って流れ、そのわきで冷えた麦茶を配っていた。その壁面には湧水で育った、天山市の天然蛍の写真が飾ってあった。そして何よりも、風鈴のネガ響く店内には、浴衣姿のお蒸散がたくさん動き回っていた。そばの天山大学の農学部の学生さんたちだ。

グルメは「焼き天そば」だ。キノコや野菜のてんぷらにそばつゆをかけて軽く炒め、鉄板で香り高く火を通した十割蕎麦とつゆとあえるのだ。甘く柔らかくなった天ぷらと、天然のワサビの風味の香りがのった蕎麦のめんが絡まり、どこか懐かしく、しみるようにうまい。それが緑色の刻みネギや金ゴマと一緒になり、可愛い椀におしゃれに収まり、浴衣のナデシコたちに運ばれてくる。市議会議員の先生たちはたまらんという表情だ。

かしまし商店街のブースは、商店街がそのまま会場にきたようなにぎやかさだ。正面には実演コーナーが張り出し、キッチン花一のマスターやおばちゃん二人組が、威勢よくどんどん餃子を目の前で焼き、魔法のソースをかけ笑顔で売りさばいていく。

ほっかほか焼き立ての餃子に、甘さ控えめで酸味のきいたフルーティーなソースがベストマッチングだ。もともと大人気のおいしい餃子が、完全にパワーアップしている。しかも横には試食コーナーがあり、魚屋の銀さん、八百屋の恵みさん、たこ焼き屋の丸ちゃんをはじめ、たくさんのおなじみの顔がズラリと並んで料理の実演だ。そこには小皿に入れたたこ焼きやコロンチ、刺し身やサラダなどのおいしそうな名物と魔法のソースが置いてあり、前を歩くだけでどんどんソースをかけて試食させてくれる。このソースが刺身にかけても、サラダのドレッシングとしても、もちろんタコ焼きや揚げ物にもピッタリで、色々な試食ができて、大人気だ。

無駄なくスマートに運営しているのは、曽根崎の親友加藤のやっているカレーソサエティ―だ。きゅおうれつなスパイスの香りに誘われて、ついつい足を運ぶと、移動店舗の三大のトラックの前にはおしゃれな綱が張られている。大きく入り口と出口の看板がある。

入り口に行くと、最初にメニューのコーナーの前を通り、野菜カレー、スパイスカレー、ビーフカレーの三食のリッチカレー肉マン。さらに3つの味が一度に味わえるミニカレーマンセット、さらに各種フルーティーラッシーが選べる。全部でも注文できるが、お勧めはミニカレーマンセットとパインラッシーのセットだ。それを最初のコーナーで注文し、作っている厨房の前を通って出口に行くとオリジナルの容器にいれたセットがもうすぐにできていて、さっと渡してくれる。早くて手軽で、いらいらもないし、なんといっても、その容器がかわいい。プチマン3は、細長い紙袋の中に一口サイズのカレーマンが縦に3つ入っているのだが、袋にはカレーマンにかわいい顔のついたゆるキャラスパイスマンのシンプルなイラストが入り、女子や子供に大人気だ。

そして、もちろんカレーマンの中身も、ラッシーも、究極の味そのままだ。人が流れるように進んでいき、どんどん売れまくっている。

逆に人がたまってちょっと迷惑だったのは、芸人ギルドの大江戸ブースだ。

あの大道具さんが作っていたのは、簡易舞台だったのだ。

グルメは、この間の小判と大判を皿に小さく食べやすくして平たいおにぎりとセットにした新商品だ。おにぎりの上に大判、小判を乗せて特製ソースをかけて食べてもまた格別にうまい。スナック感覚で本格的なトンカツを味わえるプチ千両箱だ。

箱の中には、お奉行や難波屋の四コマ漫画も入っている。そのままでも面白いが10種類そろえるとちゃんとつながったストオーリーになるのがミソだ。

しかも、プチ千両箱を求めて、人が殺到すると、すぐ後ろの大江戸舞台で、お笑い芸人の時代劇コントが始まるのだ。

ラインナップはこんな具合だ。

人気グループモータービンの「コント;巌流島あるある百連発」

コント集団カシオペアと漫才コンビアリジゴクの「水戸黄門姫君のヒ・ミ・ツ」

人気女芸人のぽんたりきやキャラメロンたちがコラボする「大奥;女地獄メタボの舞い」などが突然始まり、突然終わったりするのだ。テレビではめったに見れない時代劇風のコントで、しかも毎回やるたびにストーリーがかわったりして、芸人マニアも大挙して詰めかけているようだ。一度などは武蔵対水戸黄門などと言うコントまで始まった。

芸人につられてつい店に来てプチ千両箱を買ってしまったら、何なんだこの意外なおおいしさ、という人が続出だ。

もう一つどうも人が店を離れないと言えば、朝露農園のブースだ。

女子力アップ家庭菜園と言うコーナーがあり、農業ギャルの人気モデルたちが、完全無農薬野菜の作り方を書いたパンフレットを配っていた。目の前には、取り立ての野菜の山、

「へえ、私たちにも無農薬野菜が作れるんですか?」

質問するギャルにモデルのお姉さんたちや農園主の紫門夕子が優しく答える。

「このパンフレットの通りにすれば、あなたでも大丈夫。ベランダでたくさん収穫できるわ。?」

さらにモデルたちのデザインしたいろいろな農業グッズや作品が飾ってあるのだ。

カラフルでかわいい軍手やファッショナブルで実用的な強力日よけグッズ、軽くて使いやすいレディース農機具はお年寄りにも大人気だ。そして、壁のあちこちに草木染やわら細工、かわいい竹細工など、農業ギャルたちのアート作品がいくつもいくつも飾られていて、見ているだけで飽きない。おしゃれな生活雑貨店みたいだ。そしてもちろんグルメも農園風だ。大きな笹の葉にくるまれた中から、白いスティック状のものが現れる。それはベジユバーと呼ばれる機能性自然食品だ。自社農園で作った湯葉で、無農薬野菜料理を包んだ

ベジタブル+湯葉+スティックバーで、ベジユバーとネーミングしたそうだ。

いつでもどこでも野菜をたっぷりとれる手軽なスティックバーだ。味はチリ味とイタリアン、どちらも十種類以上の野菜がとれて、ドキッとするおいしさだ。飲み物も農園で栽培したテンザンハーブティーがおしゃれで大人気だ。たくさんの若い女性と農業好きのおばちゃんたちなど、人影が絶えなかった。

ウタポンが、曽根崎を見上げながら、静かに言った。

「もう、五か所見てきたけれど、どの店も個性的でよく工夫されているわね。感心しちゃった。」

「まだまだ驚いちゃいられないよ。どこもまだゆるキャラ出してないし、PRショーは、この料理コーナーとは、まったくネタを変えて用意してあるからね。」

「へえー、すごいわ。楽しみね。」

その通り、肉屋連合は、あれだけ展開していたニクレンジャ―をほとんど店に出してこない。大きな豚、牛、鶏などのユーモラスなイラスト以外は、恐ろしくシンプルな店内に、本格的な5カ所の厨房が設置されているだけだ。五種類の料理をその場で作っている。すんばらしい肉の香りが辺りに広がる。

サイコロステーキ、一口唐揚げ、ジンギスカン、酢豚の肉、焼きウインナーだ。あの5つの店のそれぞれの自慢料理だ。そしてなんと、その五種類の作りたてのホカホカを、一本の竹串で突き通したのが、ここの売り物ミートフォースだ。極上の肉料理が、串一本で何種類も堪能できる、肉好きにはこたえられない商品だ。

しかも肉串一本につき、特製ドレッシングのついたてんこもりさらだかっぷ

もついて来る。栄養面にも配慮されている。

ジュウジュウと肉を焼く音、会場に広がって行く何種類もの肉の香り、そしてアッツアツの肉の塊五種類が一本にまとまって出来て行くその手際の良さ、何も小細工をしなくても、あっちからもこっちからも、コロコロ太った肉好きが押し寄せて行く。誰に言われるでもなく、本能的に、引き寄せられるように…!そして最後には肉隙が肉団子のように押し合いになり、争うように取り合いになるほどだった。肉争いの末、やっとミートフォースを手に入れた、二人の柔道部員が、感激して何か大声で話している。

「いろんな肉が集まっているけど、酢豚の豚肉って、マニアなかせだよねえ。うちで食う時は、ぼーっとしてたら、弟たちに肉だけ。食べられちまうからな。」

「本当だよ。しかもこっちのジンギスカン、肉連一号店の、あの有名な味付けだぜ!本当に癖もないし、柔らかい誌、風味抜群、もう、最高だぜ。」

「それに、このてんこもりサラダがさっぱりしていて実にいいコンビネーションだ。健康にもいいけれど、さっぱりするとまた肉がくいたくなるねえ。」

二人は、肉の塊にシャブリつきながら泣いていた。本当の肉好き泣かせのミートフォースであった。

「とりあえず、何事もなく、次のコーナーに行けそうね。」

流石が、ちょっとだけ安心した。あの熱血実行委員長の桜島さんは、会場の最前線を走り回り、少しでも落ち度が無いよう、安全にことが運ぶように、眼を光らせ、大声をかけていた。まあ、会場にも警備員が大勢いるし、その上交代で刑事たちが目を光らせ、さらに、カピバラのおやっさんたち、ボランティアのパトロール員もいる。犯人もそうは簡単に動けないだろう。しかし、犯人たちの毒牙は、もうすでに次のステージに向けて動き出していたのであった…。

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