第9話 復活
それから数日後、チーム白峰の若きエース、柴田が復活した。武闘派のファントム、結婚詐欺の三高、ルーン秋月に続き、ラッキー荒木が逮捕され、柴田を陥れたことが明白になったのだ。久しぶりに天山署に姿を見せた柴田ははつらつとしていた。
「流石ですね。先輩が必ず助けてくれると思っていました。生き返った心地です。でも、町内会の署名にサインしたことではめられたなんてうかつでした。普段からもっとしっかりしないとだめですね。」
「うふふ、よかった、柴田が戻って来てくれて。これでいよいよ事件解決だわ。」
丸亀も喜んで、ここまでの報告書をきれいにファイルして、にこにこしながら柴田に渡した。
「いやあ、せっかく君がいいヒントをくれたのに、結果を出せなかった。本当にすまない。これが、ねっとのサイトの調査資料、こっちが杉崎智也の裏の仕事や行動についての記録、そして、これが、流石君がお縄にした詐欺師たちのプロフィールや犯行記録だ。ただ、詐欺師たちは自分の犯行以外は、完全に黙秘状態で、裏側の組織の子とはまだかけらも出てきていない。どうやら暗黙の掟があるみたいだ。」
柴田はそのファイルにざっと目を通すと、驚きの声を上げた。
「うわ、凄いですね、調査記録が比較できるように分類別にまとめなおしてある。さすが、丸さん、仕事がパーフェクトだ。」
久しぶりに復活してやる気マンマンの柴田は、さっそくきれいにまとめられたその報告書
をじっくりと読み始めた。
「そういえば、銀行の振り込め詐欺Gメンの人から、連絡が無いなあ。」
すっかり元気になった流石が思い出したようにつぶやいた。謎の詐欺グループのメンバーを、一人でも難しいのに、4人も警察送りにしちゃったことで、すっかり勢いづいている。つらかったことはもう、すっかりどこかに忘れている。柴田が復活してくれたのでなおさらだ。
「なんかもう、事件の全面解決まで、あと一歩っていう気がするのよね。もう一つ、どっかから手掛かりが来ないかしら。個人情報の件も結局、分かってないし。」
その時だった。柴田が急に何かを思いついたようだ。
「ちょっと、みんなここをみて下さい。あの時は不思議に思わなかったけれど、丸さんが、きちんと比較できるようにデータを並べてくれたおかげで、思いつきました。」
「え、どこかのネットの会社が、やっぱりおかしなことをしていたの?」
「たぶん、どこの会社も悪くないでしょう。でもその隙間をうまくついて、やられたのかもしれません。でも、今のままだと証拠もないし、こっちが捜査に乗り出したことがわかったら、証拠をすべて消される恐れがある。」
そして、柴田は、自分の推理を機関銃のようにしゃべり始めた。感心する丸亀。
「そうか、そんな方法があったか。私たちは全く気が付かなかった。それなら、個人情報が、知らない間に盗まれる可能性がある。」
「さすが、柴田ね。そうこなくちゃあ。」
「いやあ、本当に丸さんのまとめのおかげですよ。」
だが、丸亀は難しそうな顔をした。
「でも、そうなると柴田君の言うとおり、証拠をどうしたらいいのか、わしらではどうにもわからないなあ。しかも本当に敵に気付かれたら、終わり化もしれない。」
みんなでしばらく黙って、考え込んだ。流石がぽつりと言った。
「あのやさしい菊川小夜子さんも、こんなことは教えてくれないよなあ。」
すると、柴田がそこに食いついた。
「その人って、報告書に会ったパソコンの専門家の人ですよね。いや、行けるんじゃないですか。うん、当たって砕けろ。その線で言ってみましょう。どうですかね?」
丸亀もうなずいた。
「彼女なら…、あるいは…いけるかもしれない。よし、段取りをくんでみよう。」
柴田が帰って来ると、やっぱり勢いが違う。チーム白峰は動き出した。
さっそくその日、流石は以前名刺を置いて行った振り込め詐欺gメンの京極に連絡を取った。万が一また詐欺師だと困るので、勤め先の銀行に直接電話を入れ、呼出しってもらった。すると、落ち着いた真面目そうな男が出た。流石の部屋に名刺を入れて行った京極に間違いはないという。京極と覇、本人の希望でその日の夕方、霊の喫茶店ブレイクで落ち合うことになった。
時間ピッタリに来たGメン京極は、スーツ姿に黒縁メガネの落ち着いた感じの銀行員だった。ブレイクのマスター特選のブレンドコーヒーが貴賓の高い香りを振りまく。
「いや、この店初めてだけど、コーヒーがおいしそうですね。あ、マスター、私、ブラック派なんで、ミルクもシュガーもつけないでいいですから。」
流石たちは名刺を交換し、さっそく事件の話を始めた。
「ほう、つかまった詐欺師たちは、自分の犯行以外は、一切何も知らない、完全黙秘で透しているのですか。それは困りましたね。」
京極は几帳面にメモを取りながら話を聞いていた。分厚く、いくつも付箋が貼ってある黒い手帳で、ちらっと見ると細かい文字がびっしりと書き込まれている。
「そうなんですよ。捕まえてしまえばあとは芋づる式にどんどん組織の解明ができるかと思ったら、彼らの携帯に痕跡の一つものこっていない。何かよほど秘密にしなければならない理由でもあるようですね。」
白峰流石が逮捕された詐欺師たちの手口を紹介すると、Gメン京極は何回もうなずいた。
「やはり、個人情報の流失と、あの詐欺師グループはつながりがありますね。まちがいあ
りません。」
すると、Gメン京極は手帳とは別にメモ用紙を一枚用意し、そこに正確な日付と彼女たちの被害状況の詳細を差さっと書き出した。
「Gメンの記録なんで、そのままお見せすることはできないんですが、これに目を通してください。今お放しいただいた5人の詐欺と思われる記録がありますねえ。いかがですか?」
その記録を見ると、彼女たちの被害状況が手に取るようにわかった。
実はあの女子大学生は、かなりタナトス・リーことルーン秋月に入れ込んでいて、よく当たるとか、運のよくなる水を買っているとかいっていたようだ。そして、olの方は、ラッキー荒木のエステ詐欺でしぼりとられた上、三高の知り合いの血痕詐欺師にやられたらしい。3対3の合コンで知り合ったということだったが、そのメンバーの中に三高がいたことが間違いないようだった。
そういえば、女子大学生の部屋には外国産のミネラルウォーターがあった…。白峰流石の脳裏にはくっきりとあの日のテーブルの上がよみがえってきた。
「彼女たちがうちの銀行で多額の現金を下ろそうとしていたので、私が相談に乗って、それを停めさせたんです。そしてすぐ相手側に交渉し、いくらかお金を取り戻すことに成功したのですが、彼らの組織はその後にも彼女たちに付きまとっていたようなんです。」
「その後で、ですか?」
「奴らの詐欺集団の中には、もっとずるがしこい奴がいるんでしょうね。しばらくして、彼女たちの口座がある日、ほぼ同時に空っぽになったのを不自然に思って、私が連絡をしたときは、もう彼女たちは音信不通でした。」
たぶん完全に搾り取られたところに、警察に行かないようあの配達員が口封じに訪れたのだろう。その後彼女たちは自殺に追い込まれ、事件は闇に閉ざされたのだ。
もっととんでもない奴が、詐欺師の中にいる…。では、そいつはなぜ、同じように流石を狙わなかったのか?それともなにか理由があるのか?とにかくこれで、逮捕された詐欺師たちと被害者の関係は間違いないだろう。
「そういえば、これは日時がはっきりしないのですが、最後の頃、バイクに乗ったフルフェイスヘルメットの男に追いかけられたと、二人とも言っていたことがありました。その時は何もなかったのですが、二人ともとてもおびえていたことを憶えています。」
「京極さん、貴重な情報をどうもありがとうございます。」
「いえいえ、どちらもうちの銀行の大事なお客様でしたから。これからも何かありましたら、すぐお知らせします。」
「ありがとうございます。」
頼りがいのあるGメン京極の助けを得て、捜査はまた一歩進んだのだった。
継の日の午後、天山署のサイバー犯罪室に菊川小夜子が訪れた。今日は、警察に呼ばれたということで、パリッとしたスーツ姿で、気合がはいっている。ここにはサイバー犯罪のさまざまな記録や、最新のネットにつながるパソコンや、タブレット、スマフォなどが配置され、各種分析装置もおかれている。
「初めまして、私が理数系の担当の柴田です。先輩たちが本当にお世話になったすばらしい方だとお聞きしております。」
「いいえ、皆さんが本当に熱心なので、少しでもお役に立てたらと思っただけです。マナビーゲームネットの菊川小夜子と申します。よろしくお願いします。」
柴田と流石、丸亀の三人に加え、鑑識のパソコン担当の高円寺も一緒だ。
「それで、今日はどのようなお手伝いを…。」
すると、柴田はパソコンの画面に、見慣れたマナビーゲームネットのある画面を映し出した。そしてあるシステムについて話を始めた。
「実は、マナビーネットさんのところで使っているこのシステムですが、そもそも運営はどこの会社がやっておられるんですか?」
「あ、はい、開発も運営もうちでやってるんです。今はうちのシステムは基本的にむりょうで、関係会社に提供しております。ユーザーが何を入力したか記録が残るネット上の金額チェックシステムもついているんで、トラブルもほとんどなく、評判がいいんですよ。」
「チェックシステム?やはり、そういうことか…。」
「え?いったいどういうお話ですか。」
すると、柴田は大きく息をして、立ち上がり、革新に触れることを言い始めた。
「ここから先は、捜査上の秘密が関係してきますので、守秘義務が伴います。ここから先のことは、会社に帰っても他言無用です。でも、それが無理なら強制しません。このままお帰りになられてもけっこうです。さて、どうしましょう。」
「わかりました、ここから先は誰にも何もいいません。お話を進めていただいてけっこうです。」
「では、私の本事件に関する仮定の話をします。あなたにとって不快な話ですが、あくまで推理なので、冷静にお聞きください。」
「はい。」
流石の菊川も、緊張して鼓動が高まっているようだ。すると、柴田はいろいろ専門用語をつかって自分の推理を説明しだした。菊川の目は大きく見開かれ、信じられないと心が動揺しているのがこちらにも伝わって来た。
「…ええ、でもチェックシステムはそのためにあるわけではもちろんありません。」
「でも、それを悪用しようとしたら、それができない子とはない。そうでしょう。そして、悪用すれば、まったく誰にも知られずに、個人情報が筒抜けになるのですよ。」
「そうですけれど、それじゃあ…。」
すると、流石が立ち上がりそっと菊川に告げた。
「ごめんなさいね、いやなことを言って。柴田が言っているのは、そうだ、という確信ではないの。その可能性もあるということなの。私もそうでないことを願っています。だから、あなた自身の手で確かめて、濡れ衣と思うなら、その疑いをすべて拭い去ってほしいんです。」
そういわれて、菊川はしばらく黙り込んだ。納得がいかなくて玉ていたわけではない。そういわれると、思い当たる節がいくつかあったのである。そのシステムについて言えば、社長と、その専門の社員以外、菊川でも決して関わることができなかった。手をふれることさえ、なぜか禁止されていた。そして、警察に協力されるたびに欠かされていた報告書だが、自分は書くのはいやではなかったが、今考えてみると、警察の捜査が筒抜けになっていたような気がする。もし、今日、いつもの通り報告書を書けば、その問題のシステムは、すぐ書き直されてしまうに違いない。でも、その一方、そんなことは決してありえない。みんな力を合わせ少しでも会社を大きく使用、社会に貢献しようと、日々がんばってきたのじゃなかったか。でも、そう思うなら、やはりうちの潔白を自分で照明して見せることが最良の手段ではないか…。
「…わかりました。まず、今日の内容については個人データのことについて、鑑識の方も立ち会っていろいろ調べたが、結局わからなかったということで報告します。」
柴田がすまなそうに頭を下げた。
「本当にどうもすみません。」
そして、菊川はスマフォのスケジュール表を覗き込んでから言葉を続けた。
「…一週間後の日曜日の夜、メンテナンスで数時間の間、ネット回線が切られ、ファイアウォールが解除され、私でもそのシステムを触ることが可能になります。もちろん、他のメンテナンス担当や社長はいるはずですから、うまく行く保障はありませんが、柴田さんの推理が当たっているかどうかを確かめることぐらいはできそうです。」
「確かめていただけますか。」
「もちろん、私は何もないと信じています。」
流石は手帳で、段取りを確認しなおしていた。
「来週の日曜日の夜ねえ。へえ、ゆるキャラグルメバトルの同じ日の夜だわ。忙しくなりそうね。」
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