第6話 闇の刺客たち
天山市の闇の一室、あの謎の場所に今日も危険な奴らが顔をそろえていた。
ブラッククラウドのボスは、メンバーの迅速な動きを知ってほくそ笑んだ。
「やはり、25パーセントという報奨金が、とても魅力だったみたいだね。君たちが一人行くだけでも、大変な事なのに、もう、こんなに多くのメンバーが動き出している。」
ガランとした倉庫のような部屋の中は静まり返っていた。
「ただ、万が一のことがあるかもしれないので確認しておこう。君たちの携帯にも、パソコンにも、この組織の通話記録や、メールの痕跡は入っていない。我々の連絡方法はここで集まって直接話し合うことだけだ。そして、ここを出たら、赤の他人だ。だから、たとえ、一人がへまをしても、誰も助けないし、連絡もしない。他のメンバーが疑われないように考えて行動してくれ。いいね。」
「はい。」
「さて、今日のメインの議題だ。吉田、頼む。」
すると、吉田がプリントをくばった。
そのプリントを覗き込んだみんなの口から、驚きの声が上がった…。
「ええ、これは…。」
「ここまで進んでいたとは…。」
「いいんですよねボス。このイベントをスタートさせて…。」
そのプリントには、「仮装人類投資計画。」とあった。ボスは、早口でその概要をしゃべり始めた。
「今、日本には行方不明になったまま家族と音信不通と言うやからがたくさんいる。その数が多い市町村を調べ、、ある実験をおこなった。事実上行方不明で使われていない戸籍をあるルートから仕入れる。もちろん捜索届もなく、家族とも絶縁状態の戸籍だ。そして、いないはずの人間にあるはずのない架空の名前をつけて架空の人間をでっち上げる。今から数年前、この試みが始まり、今現在も仮装人間がこの世に生きているのだよ。私もそんなことが可能かと思っていたが、実際全くばれないし、消息不明の人間であるらしいということをにおわせるだけで、行政もお手上げだということがわかってきた。実は、この仮想人間たちは、二年前から、ネットの闇の部分で暗躍し、いろいろな実在しているような痕跡をネットや、日常空間に残してある。そんな男たちが数人集まり、架空のもうけ話を企てる。元金保証で低金利だが、投資先の実績が揚がればボーナス金利が付くといううたい文句だ。われわれの団体は、その趣旨に賛同したNPO法人として雑多な仕事を引き受ける。東南アジアの山の中に有機栽培コーヒー園をたちあげ、儲かっても儲からなくても、最初の二年間は、金利やボーナス金利をきちんとはらう、そこで二度目の募集を行う。うちの金子の概算だと150億以上は固いだろう。だが、3年目に入った時、仮想人間たちは大金を持ってドロンする。われわれは被害者として被害届を出すが、実際は、持ち逃げされたはずの鐘は、すべてこちらでプールしておき、後で、全員で山分けとなる。警察は実在しない犯人たちを追いかけ、日本国中を探し回るわけだ。どうだい、愉快じゃないか。」
するとひとりの男が手を挙げた。
「すばらしい計画だと思いますが、実際に2年間農園を運営するとなると、初期投資は、いくら東南アジアの山の中だといえ、かなりかかるのではないのですか?」
「ああ、実はもう出来上がっているちゃんとした農園を安く買いたたくことで、裏の取引がほぼ成立している。それに、資金はある。グレイ様がついにゴーサインをだした。いよいよ俺たちの時代が来る。フハハハハハ。」
ボスの声が高らかに響き渡った。ブラッククラウドはは、いよいよ本格的に動き出したのだ。
その日の夜、ルーン秋月はいつもの通り、もう一つの資料と小道具を用意していた。石造りの古風なビルは夜間ライトアップされ、さらに独特の雰囲気を醸し出していた。占いの館ミロスは夜の部となり、一部の職員は帰宅し、お客の受け付けも終わって中はガラガラとなる。でも何人かの人気占い師はもう少し残って遠距離占いなどの仕事を片付けるのだ。人気占い師のルーン秋月も残業を届けて残っていた。都合がいいことに、ここの占いの小部屋はお客の情報が漏れないように完全な密室となっていて、中で何をしても声も漏れず、ばれることもない。ルーン秋月は、おもむろにもう一台の携帯を取り出し、声の周波数帯を変える特殊な変声機を取りつけた。机の上には何人もの百パーセントコンプリートデータがプリントアウトされて載っていた。一番新しいプリントにはまさかの白峰流石が顔写真付きで載っている。そこには住所氏名年齢メールアドレスから、電話番号、趣味、男性のタイプ、最近の悩み事に及ぶまで、ありとあらゆる個人情報が載っているではないか?いったい、いつのまに、どうやって?ベールに隠された闇の占い師の招待が今、明らかになる。
「このコンプリートデータにあった、最近誰かに尾行されている気がするって悩みが役に立ったわね。あの刑事さんから霊能者の紹介の依頼してきたので、このタナトス・リーの連絡先を送っておいたのに、まだ連絡が来ないわねえ。全部で五人の仲間が先を争って仕掛けているっていうのに、速く連絡くれないと先を越されちまうわ。」
その時、夜用の携帯が着信音を立てる。だが期待した刑事カラではなかった。
「…はい。タナトス・リーです。ふーん、上野さん?はい、秋月先生からうかがってます。ふむふむ、すべてうまく行っていると思ったら、ひとつだけうまくいかない?わかりました。今、霊視を行ってみましょう。」
いつの間にかルーン秋月から、なぞの中国人タナトス・リーに変身だ。声の周波数帯も携帯番号も変わり、しゃべり方まであやしい日本語になっていて、誰にもわからない。霊視をやりますと言って、実際には、例の個人情報のプリントを探し、上から下まで目を通し何を言おうか考えている…。
「そういえばあなたは夜に鳴ると部屋のどこかから妙なおとがするっていってましたよねえ、あなたには波動がシンクロしている浮遊霊が撮りついています。でもいいですか、あなたが向上心を持って、将来の夢に向かって取り組めば、浮遊霊は居心地が悪くなって、やがて離れて行きます。」、
すぐに高いツボを買えとか、金を振り込めなどとあやしいことは言わない。
「あなたの将来の夢はなんですか?そう、英語がしゃべれるようになりたい。ではまず、あなたのラッキーナンバーは5ですから、5万円用意してください。それで学校なり、通信教材を買うなりして努力しましょう。そうすれば、浮遊霊も去って行きます。」
自分が悪者になるようなことは絶対に言わない。脇が堅そうなお客にはここまで言って終わりにして、成功報酬なり、次の相談料をねらう。脇がゆるそうな客には、現金を口座から出させたうえで、ブレードのメンバーに頼み、銀行から出たところで襲わせてすべて強奪する。やつらはプロで、まずつかまらないし、自分には火の粉はかからない。
たくさんの客の中には、霊がついているというだけでパニックになり、いくらでも金を払うという客がたまに出て来る。その時は骨の髄までしゃぶりつくす。外国の奇跡の泉の水に霊力を加えたという商品があるのだ。ただの外国産のミネラルウォーターを一本十万から数十万で売りつける。信じるも信じないのも、そちら次第。これが、いい金になるのだ。高級な香だと言って、合成麻薬を送る手もある。柴田をはめたのと同じ手だ。
「でも、おかしいわね。白峰流石からはまだ電話が入らない。うう、大金をつかむチャンスなのに。」
流石には、強力な合成麻薬入りのお香セットを安く売りつけ、部屋中に麻薬成分が充満したところを通報し、逮捕させるスペシャルトラップが用意してあるのだ。
「早く来い、早く来い…。」
こちらから電話で仕掛けるのでなく、相手をあの手この手で不安にさせ、電話してきたところに話術で不安をさらにあおり深みにはめる、そして相手が本当に不安になり、どうしようもないところまで行ったとミルや、今度はあなたを助けたいと言って物を売りつける。これが99%以上の成功率を誇る、タナトス・リーのアリジゴク殺法なのだ…。タナトス・リーは、しびれをきらし、ルーン秋月の携帯を取り出すと、あなたの背後の影が心配です、早く霊能者のアドバイスを受けてくださいと言うメールをさらにリアルな表現もいれて再び送った。
「まあ、これで、99パーセントは電話がくるわね…フフフ。」
その頃、もう一人の刺客も牙を研いでいた。あの昼のキャンペーンガール、その名はラッキー・荒木だ。そろそろ30の声を聞こう加という荒木だが、背が高く、抜群のプロポーションで、とても若く見える。普段は市内のあやしいエステに勤務していてチョコチョコエステ詐欺でおいしい思いをしている。お金持ちのマダムに肌が憑かれていると嘘を言って、二束三文の美顔クリームや美顔器を高く売りつけるのだ。
そしてある時はスポーツジムのインストラクターに変身し、あやしいマシンを売りつけたり、自然食品アドバイザーだと偽って、食品ではなく、合成麻薬を売りつけたりしていた。化粧品から麻薬まで、なんでもありの行動派詐欺だった。
この行動派で変装名人の女は、流石が通りかかる前後5分ほどの間だけ、キャンペーンを行っていたのだ。折りたたみの机やキャンペーン道具をバンに載せ、移動販売を偽装して現地に着く。経験上、違法駐車も5分以内なら大事にならないと知っているラッキー荒木は、まるで許可をもらって一日中キャンペーンをやっているという風を装い、店を広げるのだ。
ターゲットの歩いている時を狙い、自動車で先回りし、車を停めてテーブルを出し、グッズやポスターをはるまで30秒、流石を騙して二等の国内旅行のパンフレットを渡して3分、今日は5分経たないで撤収だ。
「刑事って言ってたけど、なんか優柔不断そうな感じで、わたしを少しも疑わなかった。チョロイもんね。」
あとは、このラッキー荒木考案のマジック書類に書き込んでもらうだけだ。思えば、白峰の相棒、柴田もこの手で落とした。あの時は、町内会の署名運動を装って、直接柴田のマンションに行ったっけ。保育所を増やそうというだれでも協力したくなるような署名運動だ。近所のおばちゃん風の地味なジャージ着てださいメガネかけて、正面から堂々と乗り込んだ。柴田は、いつも忙しくて近所づきあいしてないから、この地区の班長の岡田ですと嘘を言っても、まったく疑わなかった。
仕掛けは簡単。回覧板の板にはさんだ二枚の署名の紙に住所氏名と印鑑をお願いするのだが、なぜか三枚目がその下に隠れているのだ、
「あ、急いでいるんで忘れてた、この紙にもサインとハンコだけお願いします。」
と、言いながら三枚目をお願いするだけなのだ。だが、三枚目の紙は最初の二枚の署名用紙に隠れていて上の方が見えない。実はここに麻薬の注文書と口外しないという誓約書があり、そこに住所・氏名を書き、捺印するという簡単な仕掛けだ。簡単すぎて誰も疑わずこちらが急いでいるのならと、何も確かめず署名してくれる。疑うような人がいたら三枚目は無理に書かせずさっと逃げる。でもまだ、疑った人は一人もいない。柴田もいつ、署名をして印鑑まで押したのか記憶がなかった。三枚目の紙を一度も水に署名の続きで書いたつもりなのだから無理もない。
しかも回覧板の板に挟んだ紙に印鑑を押そうとすると安定しないので、つい反対の手で紙を押さえてしまう、この時に百パーセント指紋が付くわけだ。特に手の込んだ仕掛けもないが、本人のサインに加えて印鑑も指紋もあれば、これは麻薬G面も見逃せなくなる。
白峰流石の場合は旅行手続きなので、ラッキー荒木は、それらしい書類を偽造し、今日、直接自宅に持って行ったわけだ。書類を置いて帰ると、三枚目がばれる恐れがあるので、その場で帰ってきたわけだ。
「でも、あの女刑事、優柔不断そうだから、後で変更って言い出すかもね。一応用意しておこうかしら。」
ラッキー荒木は同じ書類を後二部用意して最後のつめを行った。もちろんここにも、コンプリートの流石の個人情報がプリントアウトされて置いてある。
「ええっと、彼女の趣味はグルメ、食べ歩きか。じゃあ、グルメクーポン券かなんかで、部下の柴田と同じ麻薬を送ってあげるわ。刑事の先輩、後輩で同じ麻薬をやっていたということでさらにどつぼにはまること請け合いね。」
天山市の駅の南側に静かな住宅街があり、その中におしゃれなシェアハウスがある。ここには三人の男子がおしゃれに暮らしている。三人ともそこそこいい大学に行っていて、何より三人とも背が高くかっこいい。夜になると一人の男がそっとこのシェアハウスを訪れ、何か相談し始める。
「ええ、はい、こんなにうまく行くとは思いませんでしたよ。どの手で行こうかと思ったんですが、コンプリート個人情報に、忘れ物や落し物の多いほうだと書いてあったので、例の手を使って訪問先で、持ち物のポーチを抜いてもらったんです。それをすぐに受け取って近くの交番に届けて、…。趣味や話題がピッタリ合うと喜んでいましたよ。もちろんデータをよく読んで、ピッタリになるように合わせたんですけどね。ええ、とんとん拍子でうまく行って、明日は彼女の家に行く約束を取りました。それで、じっくり深みにはめて、大金を取るのか、それとも…。」
すると訪れた男はさっと手を出して待て、と言うそぶりをした。
「さすが、三高君、まさか女刑事をなびかせて、一日で約束までこぎつけるとはね。でも、今回は金が目当てじゃないんだ。」
「え、というと…。」
「社会的スキャンダルで捜査不能にする。お酒かジュースに無色無臭無味の強力麻薬を入れて飲ませる。そして彼女の部屋の数か所に、彼女が隠したように見せかけ薬を隠す。最後にサツに通知する。それだけだ。尿検査で陽性反応が出れば、もう彼女はしばらく捜査不能だろう。」
男はそういうと、薬の入った小袋をいくつか三高にそっと渡した。
「飲み物に仕掛けして、残りの袋をあっちこっちに置くだけで終わりなら、チョロイですよ。明日の夜だけで終わります。それで成功報酬がいつもの3倍なら文句ないです。」
すると残りの二人がうらやましそうに三高を見た。
「仕方ないだろう。まあ、彼女のデータだと、今回はどうしたって俺だからな。」
残りの二人とも身長の高いハンサム男だが、大木はテニスやバスケット、水泳を得意にするアスリート系だし、岡はアウトドア料理やトレッキング、キャンプなどが得意な根っからのアウトドア派だ。散歩や食べ歩きが趣味で爽やかなシティーボーイの三高は、流石のデータにピッタリだったのだ。
「彼女が何か料理作ってくれることになってるから、スパークリングワインのロゼでも買っていって、段取りしますよ。俺はもちろん、薬抜きでね。」
「頼んだぞ。」
謎の男は、静かに夜の闇に消えて行った。
その頃、さらにまたもう一人の刺客が牙を研いでいた。あの劇団ファントムの男である。彼は時々役者もやるが、いつもはメーキャップ係、それも特殊メイクである。彼の1Kのマンションにはメーキャップの大きな道具箱や色々な舞台衣装がごった煮詰め込まれている。その中には怪しい宅配員の衣装もある。そう、この男がブラッククラウドの死刑執行人と呼ばれるあの宅配員、通商ファントムなのだ。彼は劇団員の技を最大限に生かし、早着替え衣裳、人相判別にもかからない特殊メイク、姿勢矯正まで行い、わずか数秒で別人になりきるのだ。彼の着ているブルゾンに仕掛けがあり、裏返して着て、いくつか布を引っ張り出すだけで、配達員に変わる。帽子もひっくり返して、特殊メイクマスクを引っ張り出して装着すれば、目鼻の位置が大きくずれて、人相がまったく変わってしまう。仕上げに背中に仕込んだ姿勢矯正ベルトを調節すれば姿勢も歩く姿も別人のようだ。あとはメイク道具で超極薄のシリコンマスクを目立たなくさせれば完成だ。
だが、彼が最終兵器と恐れられるわけは、サバイバルナイフだ。もちろん最近こんなものを持ち歩いていたら捕まってしまう。でも実はこのナイフ、劇団で使うプラスチック製で、軽くて柔らかい。だが塚野部分が金属製でこの部分を喉に押し当てるだけで、その冷たい重厚な感触で、百パーセントの人間は動けなくなる。
彼の仕事は大金をせしめることでも、貶めることでもなく、その演技力で相手の心を折ることである。配達員のふりをして、ニコニコしながら玄関に入り、ハンコやサインをもらおうと相手に近付き、その伸びた手を関節をひねりながら引き寄せ、ポケットから取り出したナイフを瞬間的に喉に当てるのである。そして、こう言う。
「俺たちは、いつでもお前を殺せるんだ。大きな声を出したり、でしゃばった真似をすると、俺はすぐ来る。今度会った時がジ・エンドだ。」
そして、風のように去っていく。あっというまに次の変身姿にかわり、小包はぺたんと折りたたむ。そして、監視カメラを混乱させて消えて行くのだ。
特殊メイクの武闘派ファントム、ここに始動。
そして、さらにさらに、またまた次の刺客が牙を研いでいた。だがしかし、彼は何故か、他の仲間のやりかたを影から、じーっと見守っていた。実はそれが、彼のやり方だったからだ。五人目の刺客は、一番慎重で一番ずるがしこい。奴はすべてを見張りながら、自分の出番をそうっと待っていたのである。
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