第4話 魔法のソース
その頃、天山市のとある場所で、闇の組織、ブラッククラウドが集まり始めていた。彼らはそれぞれが職を持ち、普段は全く普通の市民として暮らしている。正体がわからないように、携帯もメールも、記録が残る者は原則使わない。今日も、天山市のとある薄暗い一室に仲間が集まり始めた。
「諸君、全員そろったようだな。今配った資料は必ず持ち帰るように。そして、議題はまず、例の警察の捜査の件からだ。」
元々は大学生や同年代の若者たちが集まって、夜の街で無鉄砲なことや非合法な金儲けをするストリートギャング団だった。それが一度逮捕者が出るような事件をお越し、解散。それがさらに月日が過ぎて、再結成された。ストリートギャング団だったころの鉄のおきては今はもうない。いわゆる大人の付き合いだ。でも、今ははるかに金儲けがうまくなり、それぞれが麻薬売買などの裏の仕事でかなりおいしい思いをするようになった。結束はかえって以前より強くなり、だれも裏切るような奴はいない。
「さて、今日はしょっぱなから、資料に載っていない議題から始める。吉田、頼む。」
すると、吉田と呼ばれた男が、例の柴田の逮捕に至るまでの経過を説明。もう少しでこのそしきが嗅ぎつけられそうになったので、その前に麻薬所持の犯罪者に仕立ててやったという説明がされた。
「操作は白紙に戻り、その後を引き継いだ白峰とかいう刑事はパソコンに疎く、したがって全く問題外だったのですが、まさかの連絡係の杉崎が捕まり、さらに突然、別の件に絡んできました。」
「別の件?」
「ついさっき、通行人を装って、かしまし商店街を操作していたようです。」
メンバーの中にざわめきが広がった。
「かしまし商店街だって!」
「本当か?白峰は例の件を知っているのか?」
吉田が続けた。
「どこまで知っているのかはわかりません、しかし、それは危険な事かもしれません。」
一人の女が発言した。
「ボス、早めに手を撃ちましょう。ここでつぶしておけば、なにもきづかれない。」
すると、ボスがそばでノートパソコンを持っている一人の男に確認した。
「そうだな、金子、頼んでおいた白峰の件はどうなってる?」
すると金子は、人間とは思えない素早さでキーボードをたたくとにやっと笑った。
「彼女のプライベートデータは…おお、85パーセントだ。こりゃ、もうすぐコンプリートですね。早ければ明日にでもターゲットにアップできますよ。」
すると、それを聞いていたボスが静かに言った。
「方法は難でも構わない、白峰を操作不能にした者に、今月の売り上げの25パーセントを賞金として与える。これでどうだい。だれか引き受けてくれるかい。」
みんな一瞬静まり返った。25パーセントと言うのは破格の金額だった。ざっと計算しても数百万円は下らない。いや、今月の売り上げによってはそれ以上か…。
みんな静かにうなずいた。そして、メンバーの中から5人が手を上げた。
「ほう、ごにんもか。まあ、刺客が5人もいれば、消えるのもじかんの問題だな。順番は誰からでも、同時でも構わない。成功した者だけに報酬が出るだろう。」
今、闇の牙が放たれた。流石、危うし…。
ちょうどそのころ、流石とウタポンは意外な人物に案内され、夕方の込み始めたカシマシ商店街を歩いていた。花一のマスターに事件の概要を聞き、看板を切断された公園もじっくり見てきた。しかし、犯人の目的がまったくわからない。なぜ、この商店街がゆるきゃらグルメバトルに出るのを止めよううとするのだろう。歩きなれたカシマシ商店街のつもりだったが、恥から恥まで確かめようと思ったのだ。そこで、ウタポンと合流できたのを幸いに、地元に住んでいる貧乏芸人の芥川漱石に案内を頼んだのだ。
「お忙しいところを、どうもすみません、芥川さん。」
「本当ですわ。こんな有名な方に案内していただいてよろしいのでしょうか?」
芥川漱石は一時文学ネタという変わったジャンルで一斉を風靡したピン芸人であった。最近は仕事も少なく、貧乏生活にもどっている。もしゃもしゃ頭にはかま姿の、舞台衣装のまま、芥川は笑って言った。
「いや、ここんとこ、ひまでひまで。それにちょうど夕飯時も近付いたのでちょうどよかった。いつもわたくし目は、この時間になると必ず商店街を歩くのが週間なんですよ。」
そういうと、芥川は懐からマイつまようじを撮りだして、容易を始めた。何でも地方に営業に行ったときに名人に彫ってもらっためいひんなのだという。普通の幼児より、かなり長く、艶さえ感じさせる一品だ。
「これを、どうぞ。」
流石とウタポンも新品のつまようじをもらい、身支度を整えた。なぜ、つまようじ?
「ええっと、天山市には、他にも駅前商店街を始めいくつか商店街があるけど、ほかとくらべて何か特徴があるんですか。」
流石の質問に、毛をもしゃもしゃと書きながら芥川が答える。
「ここも、何回もシャッター商店街の危機に襲われ、激安競争をしたり、逆に高い商品で勝負したりいろいろしたらしいけど、うまくいかなかったみたいなんだよね。それで商店街のみんなで話し合ったのは、お金が無くてもすぐにできる子と、お客さんに喜ばれることからはじめよう、笑顔と真心の接待だってね。みんなで、笑顔や挨拶の練習から始めて、丁寧な接待や料理のレシピを教えたり、実演、試食までお客さんがよろこぶことをなんでもやろうって頑張ったんだ。少しずつお客さんが増えてきたところで、今度は新鮮な食材を独自のルートで仕入れたり、味の研究や新商品の開発に力をいれてね。親切で新鮮、おいしい商店街だと評判になったそうだ。そのおかげで、何より、おいしい実演や試食コーナーが圧倒的に多い。これに尽きる。」
なるほど、そのせいでこの男はここをひいきにしているのか。
「今日は、何曜日だったかな…、あ、そうそう、魚屋と中華料理のサービスデーだ。なんでもわからないことがあれば、聞いてください。さあ、参るぞ。」
下駄をカランコロン言わせて歩き出す、芥川の目つきが変わった。さっそくマイ爪楊枝を片手に魚屋に入る。
「らっしゃい!お、にいちゃんいいところにきたねえ。今日はカツオのたたきがいいよ。どうぞ味見してくんねえ。」
「うむ、参るぞ。」
まるで真剣勝負のような気合で、芥川のマイ爪楊枝が宙を舞い、カツオが一切れ口の中に消えて行った。
「こ、これは、上品な脂ののり、何より鮮度が最高じゃ。うぬう、まいった一本とられた。カツオは鮮度がなによりじゃ。うまい、うますぎる。」
するとその芥川をじいっと見ていた買い物に来たおばちゃんがすかさず叫んだ。
「ちょっと、カツオのたたきちょうだいよ。4人分作ってくれる?」
「あいよ。ほいほいっと、さあ、持って行きな。そこのお蒸散たちも試食同大。」
「わあーい!ああ、おいしーい。」
「ふふ、魚屋の銀さん、また腕を上げ寄ったな。」
芥川は真っ白なティッシュでさっとマイつまようじを拭くとまた、下駄を鳴らして歩き始める。
「最近は魚をさばけない主婦が増えてるんで、銀さんは、神業の速さで目の前でさばいてくれるからうまいんだ。主婦の料理の腕に合わせた調理法もさっと教えてくれるしね。」
こんな調子で、いろいろなかしまし商店街のミニ知識を教えてくれる。手作りのお豆腐屋さんの、と予さんもすごい。国内産大豆の買い付けから、昔ながらの製法で豆腐や油揚げを作り、そして、豆乳ドリンクや、ハーブ豆腐などの新製品開発まで一人でこなす働き者だ。
「うわー、濃くておいしい、こんなの初めて!」
流石とウタポンは、特製の豆乳を飲ませてもらって感動!芥川の話では、国内産大豆を特別なうすで轢き、オカラの成分も百パーセント溶け込んでいるという濃い投入だ。
食べては、ミニ知識、食べてはミニ知識みたいなペースで進んでいく。それにしても、マイ爪楊枝を持って歩くと、かしまし商店街の試食コーナーの多さに驚く、揚げ物や、お惣菜はもちろん、餃子屋、焼きそばのような料理、果物やオデンだねに至るまで、十数件食べ歩けるのだ。
そして試食コーナーにつきものなのが、料理の実演コーナーだ。中華料理屋の前や、お好み焼き屋の前にもサービスデーには屋台みたいに実演コーナーが並び、いい匂いが辺りに流れる。
流石は特に熊野ぬいぐるみみたいな優しいおじさん、中華料理の山ちゃんのやっている餃子が気に入ったらしい。大きなフライパンにたくさんの手作り餃子が並び、焼き目が付くと特製中華スープが注がれて鉄のふたが乗せられる。ジューッという大きな音。少ししてふたを開ければフワッと蒸し上がった餃子がおいしそうだ。そして、あの熊のような山ちゃんが目を細めてこういうのだ。
「ほうら、おいしいよ。愛情も一緒に包んであるよ。」
試食のあと、流石は何パックも買っていた。さらに隣の実演コーナーも凄かった。
タコ焼きを一つひとつひっくり返して丸くしていくスピードのはやいこと、早いこと。自分の体も真ん丸なタコ焼きの丸ちゃんの、神業のようなツバメ返しだ。
芥川がどんどん試食するので、流石たちも当然のように食べまくる。次は、例の惣菜コーナーのおばちゃんのコロンチの列に並び、そのてぎわの良さに目を見張る。
おでんの具の専門店「兄弟船」では、プロも毎日買いに来るという名物のつみれやはんぺんを買い込む。ここの有名店主のガンさんは、色黒でギョロ目の元気そうなおじさんだが、まあ、とにかくよくしゃべる、しゃべる。
「いやあ、昔は江戸前でね鮫が結構とれて、フカヒレとして中国に売っていたんだよ。そのフカヒレを採った後の鮫肉を無駄にならないように作ったのが江戸のハンペンさ。今はなかなか作る人もいないんだが、ちょうど新鮮な鮫の肉が入ってね、うちで手作りしたんだ。なんたってうちは、製造から販売からおでんの仕込み方の指導まで視点だからよ。」
おでんセットを買う流石。珍しい鮫のはんぺんを買い込むウタポン。
商店街一の情報通だと耳にして、一応公園のことを聞いてみる。
「うちのお伝ネットワークは、深夜の情報も確かだよ。え、公園だって?おかしいな、怪しい人影ねえ?そんな噂はきいちゃいない。でもあの青少年育成連絡会の人たちは、しょっちゅう、このあたりの深夜パトロールはしているみたいだよ。うん、それは間違いない。あの人たちに聞いてみたらどうかな。」
「そうですか。その青少年育成連絡会の人たちってどこに行けば会えるんですか?」
「この商店街のはずれにある三ツ星会館の二階で今日あたりもあつまってるんじゃないかな。会長のカピバラのおやっさんがきっとていねいに教えてくれるよ。」
「カピバラのおやっさん?おもしろそう。ありがとう、ガンさん、また教えてね。」
歩き出すと、やけに鞄が重い。気が付けば、流石はけっこう、いろんなものを買い込んで、全部一人で食べる気なのだろうか?
「あれ、芥川さん、こんにちは。」
落ち着いたインテリ風の本屋の若旦那が声をかける。だが、芥川はちょっと顔がこわばる。実はあとでわかるのだが、芥川は本屋の若旦那を勝手に恋のライバルとして意識しているらしいのだ。
途中、曽根崎から電話が入る。
「なんでも渡したい写真があるんですって。近くにいるらしいから、かしまし商店街まで来てねって言っておいたわ。駄菓子屋で待ち合わせってことで。」
流石の言葉に、ウタポンはちょっと音符が出る。試食を食いまくり、ちょっと元気の出てきた芥川は、身なりを整えて、八百屋へと向かう。実は、八百屋の看板娘、めぐみさんにぞっこんなのだ。ところが行ってみるとどうだろう。
「へい、いらっしゃい。あれ、刑事さんにウタポンさんじゃないですか。」
すらっと背の高い看板娘のめぐみさんが自分から寄って来た。
「あれ、恵みさんって、確か朝露農園にいた
「そうです、走です、週に二回は朝露農園で農業ギャルやってます。私、曽根崎さんの書いた農業ギャルの力石先輩の記事読んで始めたんですよ。裏道グルメの例会を開いてくれたりして、もう、何回もおあいしてますよね。」…。
恵みさんにまっしぐらだった芥川を出し抜いて、女三人で楽しい会話が始まった。
芥川はそれでなくとも、本屋の若旦那と恵さんの仲が気になっているのに、なかなかしゃべりだせない。
「あ、そうだ、ウタポンさん、今度うちでも大きさや色が不ぞろいだけどおいしい規格外野菜を使って新しいことはじめようと思ってるんですよ。魚屋の銀さんみたいに目の前で無農薬野菜なんかをさっとさばいて各種ピクルスや浅漬けカップを作って売ったらどうかと思って。でも、野菜は自信あるんだけど、ピクルスの味が決まらなくて…。」
「ああ、ちょうどいい、安くて手軽なピクルスレシピがたくさんあるのよ。私に手伝わせてくれる。もちろん、ただでいいから…。」
「本当ですか?うれしい!じゃあ…。」
仲間外れにされた芥川がそのうちうなり始める。
「あの、めぐみさん、ええっと…。」
すると、恵みは何か思い出したように芥川に声をかけた。
「あら、芥川さん、何か言わなくちゃあ、いけないことがあったような…。」
「ええ」、一体なんですか?
「思い出した、竜さんが、ぜひ、店まで来てくれって言ってたわよ。」
竜さんと聞いて、芥川はちょっとおびえた顔になった。
「わかりました、すぐ、すぐ参ります。」
あわててカランコロンと走り出す芥川。流石とウタポンはめぐみさんにまたねと声をかけて、急いで芥川を追いかけた。
「あ、創作和菓子、豆ちゃんだわ。業界ではかなり知られた見せよ。こんなそばにあったんだ。いきますわよ、流石さん。」
ま、まずい。いつものんびりしているウタポンが戦闘モードに入りかけている。気合いを入れて料理を作ったりしていると、いつもののほほんとしたおじょうさまから、無敵の料理ファイターへと変わってしまうのだ。さて、豆ちゃんは小さいが清潔で明るい店で、若い着物姿のおかみさんが、きびきびと、たくさんのお客をさばいていた。そのおかみさんのすぐ後ろに、白い割烹着を着た、なぜかサングラスのこわもてのおっさんがいて、椅子に腰かけていた。
「おう、芥川、北か、今日は遅かったな。待っていたぜ。おう、お富、店は任せた、ちょっくら厨房にいってくらあ。」
「あいよ、あんた。まかしときな。」
厨房に連れ込まれる芥川、そしてその後ろをかってについていく流石とウタポン。
「只今参上、芥川漱石にございます。今日はどのような御用で。」
するとこわもての竜さんはどすの利いた声でしゃべり始めた。
「おれが、どのくらい豆を愛し、豆に命をかけて生きているか知っているか。俺は、起きても、寝ても、豆をどうやってお客さんに愛してもらうかを考えているんだ。」
「は、はい。ようく、わかっております。」
「しかし、最近の特に子供の豆離れはなんだ。アンコ嫌いの、豆料理の嫌いな子供のなんと多いことか。そこで子供に食べてもらおうとずーっと考えて作った試作品だ。食って、うまいかどうか、俺に教えろ。子供のための捜索和菓子、これだ!」
「こ、これは…。」
それは三種類のどら焼だった。黒い竜、赤い竜、金色の竜の絵があるどら焼だ。
「全部、豆をたっぷり使ったドラゴンのどら焼だ。略して豆ちゃんのドラドラ焼」
まずはブラックドラゴンから。子、これはビターチョコレートつぶあん?新し過ぎる。でもうまい。粒あんのつぶし具合がしっとりして、絶妙で食べやすい。
次はレッドドラゴン、うむケチャップ風味?でもうまい。スパイシーなチリビーンンズだ。豚肉も入ってボリュームもたっぷり。
最期はゴールドドラゴン;本格的な、豆とひき肉のカリーだ。激辛でスパイシー。インド人もビックリだ。
むさぼるように食べる芥川。そしてなぜか、一緒に食べ始める流石とウタポン。
「竜さん、うまい、うまいっすよ、和菓子とは思えないけど、豆がどんどん食べられますよ。」
すると竜さんの目がキラリト光った。
「ふむ、後ろのお蒸散、何か言いたそうだね。」
すると、戦闘モードに入ったウタポンがしゃべり始めた。
「国内産の最上級の豆をこれ以上ないふくよかさで調理し、豆の風味を最大限に生かしつつ、誰でも気軽に食べられるように味や形を工夫したのは見事だわ。特に、子供の嫌いな、豆のぼそぼそした食感がほとんどきにならない。水分の量の調整と豆の練り上げ方が、絶妙だわ。ただ、仕上がりは大人向け。これでは子供は喜ばない。ビターチョコは子供には苦い誌、特に豆とひき肉のカリーはからすぎる。本当に子どもに食べてほしければ、もっと甘さや辛さを工夫しなければ」
あわてる芥川。
「そんなことナイスよ。ウタポンさん、なんてこと言うんです。豆ちゃんのドラドラ焼うまいすよ。竜さん!」
すると、竜さんは突然立ち上がり、つかつかとこちらに歩いてきた。
「ヒャー!」
おびえる芥川、でも、竜さんはウタポンの前でとまると深々と頭を下げた。
「…ありがとよ。この芥川って芸人も、おごったところが少しもなく、舌は確かなんだが、気が弱くっていけねえ。なかなかおれの気に障るようなことはしゃべっちゃくれねえんだ。お蒸散、あんたの言ったことは、どれもまちがいねえ。図星だよ。今、行ってくれたことを心に、また修行に励むさ。また、木が向いたらきてくんねえ。」
「いいえ、こちらこそ初対面で失礼なことを言ってごめんなさい。でも、豆への愛は確かにがっちり受け止めました。」
「そうかい、そうかい。俺は豆ちゃんの竜だ。あんたは?」
「有栖川うた、ウタポンと呼んでください。」
やがて三人は、あの美人お上に送られて店をあとにした。こぎれいな店の奥には額が飾られ「そこには豆愛」と大きな文字で書かれていた。
流石は芥川のおかげで、かしまし商店街の奥の方までいろいろ見られたような気がして、本当に良かったと思った。ちいさな店ばかりだけど、どの店も命を懸けて一生懸命生きている、それが本当に伝わってきた木が下。
待ち合わせの駄菓子屋の前に着く。昭和の時代からぽつんと取り残されたような木造の古い店構えだ。意外に広井店内はちょっと薄暗く、結構近所の子どもたちも訪れていた。
「うわー、懐かしいものが、たくさんある。」
昔ながらの梅ジャムや黄粉餅、ソースせんべい、遊ぶものでも縄跳びや虫取り網、カラーボールにメンコやおはじき、いろいろ楽しいものばかりだ。でも、よく見ると、ここの地域限定盤スナックや季節限定アイスバー、おもちゃも、ハイパーヨーヨーやメガ水鉄砲なんて最新の製品もズラリとラインアップだ。
「おや、有名人の芥川漱石さんじゃないですか。おお、流石もウタポンも案内してもらっていたのか。」
待ち合わせをしていた曽根崎が、みんなを見つけて声をかけた。だが、次の瞬間だった。
曽根崎を独り占めしたいという清水レイナの怨念が、火花となって飛び散った。
「…ギャース!グルルルルル…ギャース!」
曽根崎と仲のよいウタポンに怪音波が飛ぶ。
「ムー、ムー!」
その怪音波をものともせず、じりじりとうなりながらウタポンが迫る。駄菓子屋は一転、怪獣大決戦のようになってしまった。
「おやおや、剣かはよくないねえ。ほらほら、こっちへおいでよ。」
店の奥から優しいおばあちゃんの声がした。
しぶしぶ清水とウタポンが近付くと、着物とエプロン姿のおばあちゃんが近くにあったえびせんべいを撮りだした。おばあちゃんはその大きなせんべいをちょうど真っ二つに割ると、ソースの小瓶を撮りだした。
「はいはい、これおばあちゃんの魔法のソースをかけてあげるから、もう喧嘩はダメ。仲直りするんだよ。」
おばあちゃんは魔法のソースをさっとかけると二人にソースせんべいを渡した。こどもじゃないのに魔法のソースだなんて…。二人は仕方なくそのせんべいをかじった。
「う、うそ?」
それは昔のソースせんべいの味ではなかった。エビが香ばしく薫中に、フルーティーなコクのあるまろやかなソースがからまり、得も言われぬおいしさだった。なんで?どうして?まさしく、魔法のように二人は笑顔になり、ケンカはどこかに吹き飛んだ。
「おや、なんだい、おばあちゃん。はじめてみるよ。肉レンジャークジってなんだい?」
「ははは、うちの商店街のライバルだからどうしようかと思ったけれど、面白そうだから置いてみたのさ。騙されたと思ってやってみな。」
区切りのある箱に穴を開ける方式のクジだが、肉屋連合ニクレンジャ―のイラストで埋め尽くされている。ニクレンジャ―は、雪だるまのように丸々と太った五人組のヒーロー戦隊だ。商品が妙だ。はずれだと、ビーフジャーキーのミニ袋、よくなるにつれて、ハムカツ、ニクレンジャーウインナ、ベビーサラミ、レンジャーサラミ、そして一等がジャイアントビーフジャーキーだ。商品はこれでもか、これでもかとみな、肉だ。
みんなでためしにやってみた。
「あら、ハムカツですって。お煎餅みたいに袋に入ってるハムカツなんて初めてですわ。あれ?脂っぽくなくて、けっこういけるかも…。」
「ちぇ、外れのコブクロだわ。ええ、でもうまい!」
流石が驚く。高級なジャーキーとそん色ない。駄菓子の値段でこの品質化?ベビーサラミを当てた曽根崎はみんなに一個ずつ配る。
「食べた後の苦みやしょっぱさが全くない。スパイシーでうまい。こりゃ馬鹿に出来ないぞ。こんなものを作って、着々と自分たちの勝利をものにしようとしているのか!肉屋連合おそるべし。」
曽根崎は忘れないうちにあの三枚の写真を流石に渡した。
「ああそうだ、おばあちゃん、この二人を今案内してるんだけれど、商店街でぜひ見せておいた方がいいところはあるかな?」
「そうさね。ゆるきゃらグルメバトルが近いから、三ツ星会館はきちんと見せて、ちゃんんと話をしてあげるといいよ。」
「じゃあ、行きましょうか。三ツ星会館へ。」
流石たちは曽根崎たちに別れを言って三ツ星会館へと歩いて行った。
「失礼します。天山署の白峰流石と申します。ええっと青少年育成連絡会の皆さまですよね。」
三ツ星会館の二回では腕にパトロールの腕章をした人々が集まって地元の会合が開かれていた。
「ああ、刑事さんですね。先ほど花一のマスターから連絡をいただきました。わざわざこんなところまでご苦労様です。あ、ちょっとこの二階は薄暗いんですが、エコのために電気を必要な半分しかつけていないんですよ。お気になさらずに。
快調の梶原さんが、明るく迎えてくれた。エコのために電気を半分?なるほど真面目そうな人たちばかりだ。
「あれ、もしかしてあなたがカピバラのおやっさん?」
流石は会長の梶原さんを見て目を丸くして大きな声をだした。大柄な梶原さんだが、ポチャッと太っていて目が小さくて、あの世界最大のネズミ、カピバラに雰囲気そっくりだ。
「ははは、ばれましたか。体は大きめですがネズミのように気が弱いってんでカジハラじゃなくて、カピバラだって言われてるんですよ。ハハハ。」
カピバラのおやっさんはそういって笑ったが、笑うと完全に目が無くなってしまう。
「それで、ご用件は?」
「実は、最近、このあたりで怪しい人影やおかしな出来事がなかったかと思いまして、地元でパトロール活動などもしている方々に効くのが一番早いかと思いまして。」
するとカピバラ梶原がホワイトボードを指差し、説明を始めた。
「ちょうどよかった、ただいま夏のパトロール中で、昨夜もこの商店街を回っていたんですよ。この季節は、温かいもので夜遅くまで打ち上げ花火をしてはしゃいだり、酒を飲んで騒いだりが毎年あるんですよ。」
ホワイトボードの地図には、バツ印と細かいメモが何か所かかきこまれていた。
「怪しい人物の情報は特にありませんが、若者による深夜の、ひったくりや一部暴力事件も起きています。どちらも他の地域から来た若者の犯行のようで私たちも危機感を持っています。、」
すると、一人の女性が手を上げた。
「ここのところ、児童公園で、深夜、バイクに乗った数人の若者が騒いでいたという報告が何回かあります。」
「児童公園ですか。やはり、そこがあやしいのかなあ…。」
他の人たちからもポンポンと報告が続いた。
「パンパンと打ち上げ花火の音がうるさいと苦情がきていたみたいですよ。」
「私たちもいろいろ確かめたんですが、どうも、地元の若者じゃ、ないみたいですね。遠くからここに来て、ここで何をやろうとしているんだかね。」
流石はいろいろ話を聞いた後、青少年連絡会の解放をもらって下に降りてきた。三ツ星会館の一階は、ガランとして、あの背高のっぽのゆるキャラエコつまさんが、さびしそうに立っていた。
「ここはけっこう広いんですね。」
流石が聞くと芥川が、昔はスーパーだったとか、大げんかのすえつぶれたとか、文さんと言う変わり種が来て借金を返した成功談とか、市に寄贈されて公民館になったとかいろいろ話してくれた。
「それでね、もし、こんどゆるキャラグルメバトルで優勝したら、その賞金で、ここを市から譲り受け、優勝グルメ料理を売り出す、センター店にしようという計画があるんです。ここを拠点にさらに商店街に活力を与えようってわけですよ。」
何でも文さんが店をやっているときは、この商店街もお客が押し寄せ大儲けだったというのだ。献花が嫌いで話付きで、だれかれ構わず仲良しになる文さん。商店街のみんなは文さんの死をいたみ、文さんの心を愛し、その楽しかった店を愛し、また、たくさんのお客を呼んだあの安らぎの店をもう一度と思っているようだ。
「じゃあ、その文さんの志で、ここをまた楽しいお店にするんですか?へえ、すばらしいですわ。」
ウタポンの瞳が輝いた。
流石は芥川やウタポンにお礼を言って別れると、地元の交番に児童公園のパトロールを強化してもらうようにすぐ連絡し、その足で本書に帰って行った。そんな流石を物陰からそっと見ている若い女がいた。
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