第2話 かしまし商店街の憂鬱

「はい、お待ちしておりました。なにせ小さな会社なんでごちゃごちゃしてますが、どうぞお入りください。」

その日、流石と丸亀は、駅前のオフィスビルの五階にあるネットゲームの会社を訪れていた。マナビーゲームネットの社長の灰田は、メガネをかけたやさしいお兄さんと言う感じでとても応対が良かった。

マナビーゲームネットのキャラクター、マナティーのマナブ君のイラストがドアに描かれ、マナブ君のフィギアも受付で笑って迎えてくれる。

狭い室内に10台ほどおかれたパソコンに向かって社員が仕事をシテイタ。

「警察から刑事さんたちが、話を聞きに来た。みんなも協力してくれ。」

社員が一斉に顔を上げる。全員パソコンで目をやられないようにメガネをしていたので、メガネ顔がずらーっと並び、流石は一瞬どきっとした。

「なるほど、被害者のプライベート情報がいつの間にかすべて筒抜けに…。それは技術的に…。おーい、菊川君、ちょっと来てくれ。」

すると、若いできそうな女の人がこちらにやってきた。パソコン用のメガネを取って挨拶してくる。なかなかの美人だ。理数系の才媛だ。

「システムデザイナーの菊川小夜子です。よろしくお願いします。それでは隣のシステムモニタールームでまずくわしい説明をします。」

ああ、もうなんだかわからない横文字が出てきた。うう、柴田よ、早く戻って来てくれ。

灰だと菊川に案内されて、隣の小部屋に入って行く。

このやさしいおにいさん風の灰田は雇われ社長で、実質のオーナーの大山会長が上にいるのだという。肺だのアイデアに資金をだし、ここまで育ってきたベンチャー企業なのだそうだ。

「大山会長は、会社にめったに姿もあらわさない。楽な仕事ですよ。こっちはやとわれの身分なんで、毎日ひーこら言ってます。」

灰だ社長は苦笑いしながらみんなを案内した。

隣の小部屋にはいくつもパソコン画面が並んでいて、マナビーネットの運営しているサイトや、売上、クレーム処理などが一度に確認できるようになっている。社長の灰田が口火を切る。

「ではまず、この会社の概要からお話します。ここ、マナビーゲームネットは、楽しくゲームで遊びながら、子供から大人まで学べるアミューズメントサイトを目指して運営しております。低料金で誰でも学べるゲームが認められて、昨年の優良サイトグランプリで銀賞を頂いております。」

なるほど、壁に金ぴかの症状が貼ってある。たくさんの画面には、美しいグラフィックのパズルゲームや、問題を解きながら悪の大王を追いかけるrpg、英会話のタイピングアクションゲームなどがリアルタイムに映っている。どれも、美しい位楽しい画面で、堅苦しい勉強の雰囲気は全くない。

続けて菊川の画面の説明が始まる。

「今現在特にご好評をいただいているのは、ミニ知識がつく、iqアップパズルゲームのばべるのパズル、すべての学年と教科に対応した小学生ヒーローゲーム、学ぶんじゃーですね。」

学ぶんじゃーとは、「敗北こそ、最大の学び差。」そう言って負けても負けても立ち上がる不屈の男学ぶレッド、自虐ネタが大人気のマナブルー、なんでもコツコツと頑張るカレー大好きマナブイエローがメインキャラのゲームだ。漢字や四文字熟語、英単語や簡単な計算問題などが武器の上に現れる。そして、画面や敵の体に現れたり空中をうごいたりする答えを選んで攻撃する。正解すると、簡単な問題ではキックやパンチ、難しい問題や連続正解だと必殺技やスペシャルウェポンが火を噴くと言う簡単なゲームだ。

「うちのゲームは短時間で多量の簡単な問題をこなせる、繰り返しが多く身に着く、密度が高いと評判なんです。そして、学力が憑いたら、悪の皇帝の所に攻撃に行きます。体力がなくなっても、マナブイエローで克服カレーという、簡単基本問題ををすれば体力復活、難しい計算にトライして正解すればパワーアップして、バズーカや巨大ロボも出現。うまく倒せないと、ブルーが自虐ネタで弱点を教えてくれたり、長官が親切なアドバイスをくれます。悪の工程をやっつけるまで、何度も訓練ゲームをトライできます。もちろん、学年や教科、実力に合わせてゲームの難易度が代わり、無理なく楽しめるようになっています。」

「ほう、わしらにはわからんが、よく作りこんであるようだ。」

感心する丸亀。すると社長の灰田が意味ありげにつぶやいた。

「問題の難易度やゲームバランスが難しく、わが社だけの秘訣がありましてね。学習する人の実力を分析して、それよりぎりぎり少し難しい問題をコンピュータが作るんです。だからちょっと頑張れば、誰でも達成感が得られるようにしてあるんです。できない人にはヒントや裏技でフォローする。その辺を丁寧に作ってあるんですよ。」

他にも、にんなに自慢できる今日のうんちく物知りゲームがオヤジ世代に人気だし、

本物そっくりに作られたニューヨークやロンドンなどの外国の街並みを歩き、買い物や観光、現地の人とのふれあいを楽しむうちに英会話が憶えられるvr英会話が大人気だ。同じ街を歩いても、目的や英会話レベルを上げると、どんどん違うストーリーが出現し、映画の主人公に鳴ったような気分さえ味わえる。今回の被害者たちは、この英語コーナーによく来ていたようだ。

「しかも、どれをどれだけ遊んでも、一日百円ぽっきりですから、知識も筑紫、良心的だと思いますけれど。」

なるほど、どのゲームもちょっと教育的なタイプで、知識やスキル、語学能力などがつくし、なにより値段がやすい。遊び放題で一日百円だが、一つのコーナーに絞ると、例えば英会話コーナーだけなら、一突き800円ほどに割引がある。これは格安だ。

「支払いは提供しているコンビニでポイントカードを買い、ネット通貨マナを手に入れてもらえます。1マナが百円です。すると支払った分だけ自分の登録番号に課金され、それで個人情報が知られることもなく決済できます。」

実は二人の被害者のよく使用していた共通のサイトにマナビーゲームネットがあったので、話を聞きにきたのだ。でも、まあ、ここは優良サイトのようだし、犯罪とは関わりがなさそうだ。

一通り見学が終わると、灰田はみんなを隣の会長室に案内した。

「大山会長は、ほとんど顔を見せないので、許可をもらって、時々使わせてもらっているんです。

なるほど、会長室と言うだけあって、ゆったりとして立派な調度品やソファがあり、見事な胡蝶蘭の鉢が咲き誇っている。そしてその奥に大山会長専用のブラックのパソコンがどどーんと鎮座している。

そこにブレンドコーヒーを持って、菊川がさっと入ってくる。

「では、くわしく事件のお話をうかがいます。」

まず、流石が、今度の事件のことを説明し、被害者がよくネットで利用していたサイトの一覧表を渡した。このマナビーーネットもその中に在った。プライベート情報が、知らぬ間に犯罪者の手に渡るカラクリについて聞いてみた。

「ソーシャルネットの中から盗んだとか、ファイル交換ソフトやハッキングとかの可能性は?」

「さすが、菊川さんはお詳しいですね。それが、鑑識のネット犯罪の専門家に見てもらったんだけれど、二人はネットに個人情報はほとんど出してないし、ウイルスや違法なソフトにしても、痕跡が全くないと…。それで、足で操作して回っているんです。」

「それじゃあ、新種のウイルスか、新しい犯罪ソフトが開発されたのかしら…。」

「私たちも素人なので、困っているんです。」

すると、社長の灰田が菊川小夜子に声をかけた。

「それが解決されないようだと、どちらの被害者もうちのユーザーだったから、よくない噂が立つとこまるねえ。」

「そうですね。どうしましょう、社長。」

「どうだろう、刑事さん。うちの菊川をお手伝いさせるのは?いつでも電話を頂ければ、捜査協力に彼女を出しますよ。」

流石の目がきらっと輝いた。やはり柴田がいなくて、コンピュータ関係がどうにもならないのだ。

「いやあ、助かります。それじゃあ、さっそくこのいくつかのサイトの捜索をしたいんですが、ご存じの会社はありますか?」

流石が被害者のよく利用していたサイトの一覧表を見せると、菊川は、一つの占いサイトを指差した。

「この占いの館ミロスというサイトは、うちと付き合いがあり、場所もすぐそばなんです。よかったら、ご案内しますよ。すぐですから。」

「本当ですか。じゃあ、よろしくお願いします。」

白峰たちは、菊川に案内されて、近くの古いビルへと向かって行った。


その同じ日、グルメ雑誌の編集長、曽根崎は、部下の清水レイナを連れて天山市の街中を歩き回っていた。

「曽根崎編集長!」

「なんだい?」

曽根崎が振り返った途端、清水レイナが一眼レフのシャッターを切った。レイナは昨日買ったばかりの最新機能の一眼レフが自慢でしょうがないのだ。

「あれー、逆光なのにいい男、超クールに撮れてるわ。」

「おい、取材できたんだ。無駄なものは撮るなよ。」

「すみません。おわびに私の顔写真のアップを上げますから。」

「いらないっつうの。」

するとレイナはにこにこしながら猫なで声で答える。

「もう、編集長ったら、シャイなんだから!。」

相変わらずこの調子だ。この部下は何かをはき違えている。というか、さいきんますますひどくなっている。カメラの腕もメキメキ上がり、仕事が早くなってきてほめたのがおか

しなことに鳴ったみたいだ。

ここ数日、例のゆるきゃらグルメバトルの取材が始まり、もう二か所回ってきた。

天山伝統文化保存会というのは、山の中の湧水を使って、ワサビを育て、斜面でそばを育て、手打ちにこだわる蕎麦屋の団体だった。蛍も飛び交うというこの自然を生かし、現地の取れたてのキノコや有機野菜を使った天ぷらも最高。しかも蕎麦屋「湧泉」の大将の話では、グルメ料理も他にはない、とっておきの料理を考案中だそうだ。しかも、当日はソバ畑のそばに或る、天山大学のキャンパスから、農学部の若者たちがたくさん応援にきてくれるという。なかなかあなどれない団体だ。

朝露農園も言って驚いた。農業ギャルたちのオーガニックパークに変貌していたのだ。ここはもともと自然農法で無農薬野菜を作っていた貧乏農園だったが、ボランティアの農業ギャル、美人モデルたちの努力でさらに進化を遂げていた。自然食のレストラン、縁側亭の他に、ふるい農機具小屋を立て直し、新しい店ができていた。ここで採れた無農薬野菜や自家製茶、近くの牧場の乳製品を加工して売り出すおしゃれなお土産ショップ「ツーユー」だなんと新しいコンセプトのカラフルな作業服と農機具まで並んでいる。最近はハイキングの帰りに大勢の観光客が寄るようになり、観光名所にもなっている。斬新なゆるきゃらと、女性をターゲットに絞ったヘルシー料理を考案中だそうだ。しかも当日は有名モデルが多数参加するファッションショーを派手にやるという。こっちも強敵だ。

まだ本番の日まで日にちがあるので、どこもゆるきゃらの製作途中だったり、料理の閃光中だったりしていた。

「さて、いよいよかしまし商店街だ。頼むぞ、清水!」

「はい、編集長。」

目の前には、古くからある懐かしい商店街が見えてきた。かしまし商店街と書かれた古びた看板を見上げながら進む。道も狭くて、あまり自動車も入ってこない。建物はほとんどが二階建てで、高い建物や雑居ビルはない。何度も訪れたシャッター商店街の危機を、みんなの団結とアイデアで乗り越えてきた、昔からの商店街だ。

只今お昼の二時半、昼ごはんの買い物もすっかり澄み、夕方の混雑もまだ遠い時間帯だ。商店街の外れにある三ツ星会館と言う古い公民館に、商店街の知恵袋が集まっていた。

「ええっと、三ツ星会館の一階ですよね、あ、やってるやってる。」

グルメキッチン花一(はなはじめ)のマスター、駄菓子屋のおばちゃん、魚屋の銀さん、おでん屋のガンさん、和菓子屋の竜さんと言ったところが中心になっているようだ。だが、曽根崎が入って行くまで、なんだかみんな黙って頭を抱えているように見えた。でもガラッと戸を開けて挨拶をすると、みんななんにもなかったように曽根崎たちを迎え入れてくれた。

「へへ、うちはね、もちろんソース餃子というグルメの代表はあるんだがね。何に欠けてもおいしいという、秘伝のソースをうまく使うことにしたんだ。。それを使って、商店街のいくつもの色々な料理をおいしくアピールする作戦なわけさ。」

キッチン花一のマスターが説明してくれた。さすが団結力の高い商店街だ。ここは、料理の選定もゆるキャラの着ぐるみづくりも、大方終わり、今はprショーの舞台のアイデアを話し合っている。他よりずっと早い。

「あら、これが、ゆるキャラの、エコつまさん?なんで、つまようじがキャラになったのかしら。かっわいい!」、

清水が自慢の一眼レフで撮りまくる。肌色の細長いつまようじに可愛い目と口、細い手足が生えたシンプルな着ぐるみだ。

「頭の先っぽが細長いから、身長日本一のゆるきゃらに立候補しようかと話し合っているんですよ。」

細長い上の方はスポンジだから、移動するときは、簡単に曲るのだという。

ところが、一通り説明を受けても、どこにも問題がなさそうなのに、みんなの表情は硬い。嫌な予感を感じた曽根崎が帰り際にマスターにこっそり聞いた。

「…というわけで、どうしても気になるんですが。お力になれるかどうかわかりませんが、もしも、お困りのことがあれば、打ち明けていただけないでしょうか。」

すると、花一のマスターはしばらく腕を組み、眉毛を上下させてから、ボソッとつぶやいた。

「きづかれちゃあしょうがない。曽根崎さんと覇長いつきあいだもんなあ。お宅のグルメ記事で、うちの商店街も何回もすくわれてる、恩人だしなあ。」

「やっぱり、なにかあったんですね。おい、清水、ここから先は取材対象から外すぞ。しばらく、記録するな。」

「ラジャー、編集長!」

商店街のみんなが顔を上げて、曽根崎を見た。花一のマスターは、商店街の実行委員長宛に届いた茶色の封筒を出した。

「…これはおどしではない。かしまし商店街はゆるキャラグルメバトルに出場するな。すれば、たいへんなことになるだろう。うそだと思ったら、明日の朝公園に行ってみろ。もちろん警察などにいえば、その先はどうなっても知らない。」

どこにでもありそうなプリンターで出力した文字だった。

「それで今朝、公園に言ったんですか?」

「ううむ…。」

マスターはすると一枚の金属の板を出した。かしまし児童公園と書いてある金属の板ガスバーナーか何かで無残にも真っ二つにになっている。

「…こ、これはいったいどうやって…。」

曽根崎もしばらく言葉を失った。犯人の招待も、真の狙いも全く分からない。よりによって、こんな善良な商店街の人たちお脅すなんて…、許せない。

「…こうしたらどうでしょう、取材中に偶然この事実に気付いたこの曽根崎が、自分の意志で警察に知らせた。これならマスターたちが警察に言ったわけじゃないからきっとうまく行きますよ。運よく、私は、ある意味最強の掲示さんを知っている。大騒ぎにならないように、こっそり捜査してもらいましょう。どうでしょう。」

するとみんなの顔に少しだけ明るさがよみがえった。曽根崎は、マスターから封筒を受け取り、看板の切断面を大写しにして、細かい打ち合わせをさっとした。清水レイナがそっと言った。

「編集長、すいません。まだ商店街の皆さんの集合写真を撮っていません。」

そうだ、今までの所では、ワサビ田の前や、自然農法の畑の前で撮影したっけ。

「すみません、皆さん外に出てもらっていいですか。恒例の集合写真を撮りますよ。」

そろそろ夕方が近付いて人が出てきた商店街をバックに三ツ星会館の前に並ぶみんな。

するとっ三ツ星会館に別のグループがもう、集まり始めていた。三ツ星会館の二回を使っている青少年育成連絡会の人たちだという。なかなか地元の雰囲気だ。

あーら、マスター、みんなで何の写真を撮ってるの?

買い物にやってきた近所のおばちゃんたちが声をかけてくる、急いで採らないと大変だ。

「はい皆さん、こっちを向いて。はい、チーズ!」

まあ、大人数になるほどなかなか一回では決まらない。後ろからやってきた散歩の犬が猫を見つけて急に吠えたり、誰かが目をつぶったと叫んだり、せわしない。

三枚ほど撮ってお疲れさん。おばちゃんたちが割り込んで、いつの間にか人数が増えているような…。この写真は来週発売のタウン誌に載りますよと、曽根崎が説明する。


聞く川に案内され流石と丸亀は天山駅のそばに在る、四階建ての古いビルへとたどり着いたのだった。そこは四階建ての重厚な石造りのビルで、昔は旧天山銀行だった建物だ。長い間空き家同然になっていたが、おととしリニューアルされて、おしゃれなカフェブックストアや有名レストランなどが入っている。もともとあるライオンの彫刻や大理石の柱が磨きあげられ、テラスや入り口の大理石もはりかえられ、重厚で高級な建物に鳴っている。

「へえ、ずっと気に鳴っていたんだけれど、このビルに入るのは初めてだわ。」

奥に進むと格子越しに仲が見える古くからのエレベーターに乗り込んで四階に上がる。

四階で降りるとエレベーターホールには、大理石の壁に囲まれた、ギリシア風の噴水があった。

「あら、菊川さん、いらっしゃい。灰田さんから連絡は受けているわ。さあ、刑事さんですね。こちらへどうぞ。」

髪の長い女の人に迎えられ、流石たちが案内されたところは、不思議な空間だった。

中は薄暗く、どういう仕掛け化、天上には見事な星空が輝いている。大きなふぉろあのあちこちに、それぞれ違ったおしゃれなテントのようなものが並び、ほんのりと光っている。

「一つひとつのテントが有名な先生たちの占いの小部屋になっているんです。」

なるほど、一つひとつのテントに蛍火のような文字や紋章が浮かび上がっている。不思議な音楽が流れ、まったくの異空間だ。目が慣れてくると自分を占ってもらおうと訪れたたくさんの人がフロアの隅に何人も座っているのがわかる。そこを通り抜け、奥の部屋に案内される流石たち。薄暗い小さな廊下を抜けてもう一つの部屋に入るとさっと明るくパソコンがいくつも並んでいる。パソコンのゲーム画面の前に立ち、案内の神の長い女の人が説明を始めた。

「申し遅れました。占いの館ミロスの代表、メルクリウス・りんと申します。ここはこの古風なビルを利用して造られた占いハウスでして、常時10名ほどの有名な先生方に星を占っていただいております。占いサイトを作ったのは、興味のある方にここを知っていただくためと、遠くてここに来れない人のためでございます。」

人を集めるために、人気のマナビーゲームネットと相互リンクを結び、簡単な占いゲームが楽しめるようになっています。もっと詳しく占いが知りたい人はここに来ていただくわけです。遠かったり時間が無くてここに来れない方のためには、ネットでデータを討っていただくと希望の先生に診ていただき、後で結果をお知らせすること、遠距離占いができるようになっております。

なるほど、ここはどちらかと言うと、この占いの館に人を呼ぶためにネットをやっているのか…。

すると、流石が一つの画面を指差して質問した。

「だいたいお話は分かりました。けれど、この画面のホロスコープバトルってどんなゲームなんですか。」

するとメルクリウス・リンが静かに説明してくれた。

「これはわが社の星占いゲームコーナーです。現在の空の星の並びをホロスコープという図に現し、簡単なアクションゲームで、自分の運をさらに開運するゲームです。例えば、木製の恵みがあるけれど、火星との角度が悪い場合、普通の星占いなら、自分の意見をはっきり言い積極的に行動すればラッキーなどとなりますよね。でも、このゲームでは、、火星の悪影響からあなたにいばり散らすパワハラ星人や、イジメッコアーミーなどの敵が出てきます。でも、星の導きに従って、幽鬼の剣や反撃の盾を手に入れ、それらの悪玉をやっつけると、その積極的な行動により木製の恵みをゲットできるとなるわけです。現実でも勇気をもって行動しよう、そんな開運ソフトなんです。」

なんだか、わかったようなわからないような感じだ。

「刑事さん、ためしにやってごらんになりますか。」

「はい、なんでも試してみないとね。」

「ああ、白峰君、時間がないからやめた方が居…。」

流石のパソコンに関する恐ろしい才能について最近少しわかってきた丸亀が止めたがもう遅かった。

「ええっと、どうすればいいのかな。あれ、動かない?なんで?」

最初のゲームの入り方を間違え、建て直そうと、無意識のうちにあちこちのキーを叩いているうちに、画面はあっという間にフリーズした。

「あらら、刑事さん、こんなことは今まで一度もなかったんですが…。」

焦るメルクリウス・りん。するとさっと前に出たのは頼りになる、菊川小夜子だった。

「すいません私が代わりにやって見せますので、刑事さん、こちらのモニターをどうぞ、ご覧下さい。」

菊川小夜子はとても優しく、手際もよかった。

「たとえば刑事さんのここ一か月ほどの運勢を占ってゲームをやってみましょう。。生年月日をここに撃ってみてください。ああ、このデータは、一回一回で消えてしまいますのでご心配なさらないでください。ありがとうございます。ええっとほらホロスコープが出ましたね。あら、刑事さんはここしばらく、火星と彗星と金星の角度が悪いんです。さっきとは逆に、何事も慎重に行動しないと、トラブッたり、だまされたりしがちです。ほら、出てきましたよ。セッカチゾンビです、全滅させれば一呼吸サプリが手に入ります。さらに強い、悪の貴公子、オセジークフリートや丸もうけ大王をやっつければ、検挙玉や、絆ジュエルなどの商品が出ます。つまり、今月はだまされやすいので、何かあっても一呼吸してよく考え、おせじやもうけ話に乗らずに、謙虚に対応、怪しかったらすぐに絆のパワー、友人や家族に相談すれば海運するということがわかるわけです。各種悪玉の種類は、その時の星によって変わり、全部で百種類以上ありますよ。」

さすが、菊川、説明がうまい。

「なるほど、楽しみながらその日や、その月の運勢がわかり、坑道の指針が自然にわかるわけだ。」

丸亀もうなずきながら感心している。

「へえ、セッカチゾンビって、めちゃ弱いけど、異常にせかせかしていて動きが面白い。オセジークフリートは、イケメンの上に、あなたの美しさは罪だとか、あなたに命を捧げるとか言ってくれて、倒しにくいわ。丸もうけ大王は、笑顔で、もうかりまっせ、おいしい話があるんでっせ、あんただけ特別や、なんて関西弁で迫ってっ来るのがおもしろい。」

菊川がほほ笑んだ。

「でも、気を許したら、バーカ、うそだよって怒鳴られてあっと言う間に逆襲攻撃、、ゲームオーバーですよ。」

「ありがとう小夜子さん、やはり、専門家は違うわね。説明もうちの社員よりうまい輪。」

メルクリウス・りんがほほ笑んだ。

「じゃあ、済みませんが、も追う一つの遠距離占いについて教えてください。」

流石が頼むと、それも結局体験することになった。

「個人情報が悪用されないように、名前は撃ち込まないでください。生まれた人時刻、あとは生まれた国と都市の名前を打ち込めば結構です。あとは悩み事やうらなってほしいことを80文字以内で書いていただければ終わりです。支払いはネット通貨で払うようになっています。」

「なるほど…。」

ここも使うのは個人情報がいらないネット通貨だし、、住所やメールアドレス、氏名などは結局わからないまますべて終わる仕組みになっている。

ここでもなさそうだ…?

その時、急に後ろのドアが開いて紫色のベールで顔を格下一人の女性が入ってきた。

「ああ、やっと予約の分が終わったわ。ちょっとティーブレイク、いいかしら…。」、

「どうぞ、どうぞ。今控室に用意させます。ああ、ご紹介するわ。この肩はね、個々の占い師ランキングでいつもベストスリーに入っているイギリスで修行なされたルーン秋月先生よ。先生、こちらは例の刑事さんです。」

するとルーン秋月は、ベールを葉寿司、急に流石の方に近付いてきた。年齢は三十代中頃だろうか、落ち着いた雰囲気の女性であった。

「実はわたくし、人相占いもやるんですけれど、刑事さん、あなたとても変わった星を持っていらっしゃるみたい。興味深い人相をしているわ。」

するとメルクリウス・りんがルーン秋月に言った。

「ちょうどよかった。この刑事さんが、ためしに長距離占いをするというんですけれど、担当なさっていただけますか?」

「あら、うれしい。ぜひそうさせていただける?責任を持って引き受けさせていただくわ。」

話はトントン拍子に進み、ルーンは万が一の時のために流石と電話番号やメールアドレスを交換すると、隣の控室に入って行った。

「ところで、私の占いの結果はいつわかるのですか?」

するとメルクリウス・りんが言った。

「三日後以降に結果がわかりますよ。きっと、ルーン秋月先生から直接メールが届くはずです。」

「やったー、いえ、ありがとうございます。」

「それでは、みなさまに星の恵みがありますように。…。」

チーム白峰は占いの館ミロスの操作を終えると、菊川にいろいろお礼を言った。

「いえいえ、何もできなくてすみません。いつでも協力しますので、声をかけてくださいね。」

「何かあったら、またよろしくお願いします。」

そういって流石は天山署に帰って行ったが、実は先ほどの星占いが結構当たっていたことに気付くのはさほど遠いことではなかったのだ。


かしまし商店街の帰り道、曽根崎と清水は近くの喫茶店ブレイクに入った。

ここは、オーディオマニアが泣いて喜ぶアンプやスピーカー、名盤のレコード屋cdが山ほどある有名な店だ。今日はセレニアス・モンクのピアノがおしゃれに流れていた。

「曽根崎編集長、お久しぶり。同大、ちょっといい豆が入ったんだ。試してみるかい。」

英国風の落ち着いた室内に、ピシッと決めたダンディーなブレイクのマスターのしわがれ声が響く。

「え、ほんとうかい。ぜひ頼むよ。ええっと清水はどうする?」

「私、おなかすいちゃったんですけど…。」

「ああ、じゃあ、スパゲティナポリタンのセットはどうかな?」

「それお願いします、Bのセットで!」

「承知いたしました。しばし、ご歓談を。」

実は数日前、清水レイナは居眠り運転の車に突っ込まれ、けがはなかったものの今まで使っていた、一眼レフが大破してしまったのだ。カメラも高価だが、メモリの中に入っていた写真データもオシャカになり、撮り直しが偉い大変だったのだ。今日撮影したデータはすぐに曽根崎のモバイルにコピーされた。

「さあ、これでオーケー、後はカメラは自分で守れよ。」

「もちろんです、編集長。」

清水レイナは自慢の新品カメラをだいじそうに抱え込んだ。

やがて、特製のコーヒーとスパゲティセットが運び込まれる。スパゲティは、手作りウインナーと香味野菜をしっかり炒め、ケチャップ、最後に上等のバターと粉チーズをからめて仕上げる、彩り鮮やかなマスター秘伝の味だ。

「スパゲティナポリタンって、こんなにおいしそうな料理だっけ。コーヒーもいい香り!それに、カップもお皿もすっごいきれい。」

「マスターの趣味で差、ヨーロッパの高級品で、中には運十万円の食器もあるってさ。マスターは、コーヒーマイスターの刺客も持っているし、ここは、自家焙煎で、コーヒー豆セラーまであるんだ。炒り盾、轢たてのコーヒーを昔からのサイフォンで入れてくれるんだよ。ううむ、上品ないい香りだ。」

清水レイナは口の周りをケチャップでべとべとにしながら、おいしいおいしいと食べまくった。

二人は簡単な打ち合わせを済ませ、店を出た。その時だった。先頭に立って歩く曽根崎、うしろをチョコチョコ歩いてついていく清水。その後ろから、バイクに乗った若者が近付いてきた。

「あ、何すんの!」

あっと言う間だった。清水レイナの肩にかけてあった一眼レフがひったくられた。

「ま、待て!」

飛びつく曽根崎。だがその若者はせせら笑うように一眼レフのベルトを振り回すと、何だ、バッグじゃないのか、つまらないとでもいうように、カメラを二度度三度と道路にたたき付け、そのまま走り去って行った。バイクはどうやら盗難車で、顔もフルフェイスヘルメットで、人相は全く分からないし、ナンバープレートは泥でわざと汚して読めないようにしてあった。

「畜生、清水、平気か、けがはないか。」

「けがはないけど…フエーン、フエーン、ひどいよ、せっかくの…。」

清水の自慢の新品カメラは、木端微塵だった。メモリは今コピーして平気だったが…。飛び散った部品の中に、清水の鳴き声が、響き渡っていた。ただのひったくりなのか…、それとも…。

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