第42話 1か所目2

登山道を登り始めて10分経った。案内板で書かれていた所要時間は15分位なので、そろそろ着くと思うのだけれど……多分、まだ半分も行っていないんだよね。

「大丈夫?」

僕は振り返って2人を見ながら聞いた。

「「……」」

てっきり、少し後ろにいると思っていたが2人はずいぶんと離れた場所から上半身だけが見えた状態で立っていた。

「どうしたの?」

僕が少し大きな声で聞くと

「どうやって上がったらいい?」

「足が上がらないし、腕の力では登れないです。」

2人は困った顔で言ってきた。

「えっ!」

僕は驚きながら2人のもとへ戻るとそこには2人の胸の下あたりまである段差があった。

「えっと……僕はどうやって登ったっけ?」

僕は小さいころから山の中を走り回っていたこともあって、特に考えなくてもここは踏んだら滑るとか、こういうところはこうやって行けば行けるとかが分かるためどうやったらいいのかはよく思い出せない。ただ、僕は今日手をついて登っていないのでこの段差も迂回したと思う。

きょろきょろと周囲を見たが、迂回できそうなルートは見つからなかった。おそらく、もう少し真面目に探せば見つかるのだと思うけども、時間がかかるし、めんどくさいのでやめた。

僕は一度佐々木さんと山本さんが足止めされている段差を降りると2人の後ろに立って

「迂回ルートを探すのは面倒だし、見つけても通れるか分からないから、僕が2人を順番に持ち上げるから上がって!」

そういいながら僕は後ろから佐々木さんの腰を持って持ち上げた。

「え、うわぁ!」

非常にビックリした声を上げながらも無事に佐々木さんは上に上がった。そしてすぐに山本さんの後ろに移動すると佐々木さんと同じ要領で持ち上げた。山本さんは特に声を上げることもなく無事に上に上がった。

「それじゃあ、ちょっとだけそこどいて!」

「え!」

「……」

僕が声をかけるとよくわからないといった顔をしながらも佐々木さんと山本さんは場所を開けてくれた。

僕は場所が少し開いたのを確認して少し下がった場所から助走をつけて跳びあがった。

「「え!」」

2人は非常に驚いた顔をしたが、そのすぐ後に、

「そういうことかぁ~」

「だね~」

と2人で何かを納得した。

「どうしたの?」

僕は何に納得しているのか気になり2人に聞くと2人はにこにことした顔で

「「さ~あ!」」

といった。

「あの、ところでここを優花ちゃんは通ることはできたのかな?」

山本さんが首をかしげながら言った。

「確かにそうだよね。だって、私たちよりも背低かったし……田口さんみたいな跳躍力もなさそうだしね。」

佐々木さんが僕の足を見ながら言った。

「ねえ、2人ともそこは健一郎が手を貸して登ったとは思わないの?」

そういうと2人は顔を見合わせて

「「ないです。」」

といった。

「だって、優花ちゃんから聞いている限りでは佐藤さんと野口さんは勝負になったら手を抜くことはしないと思います!さすがに目の前で困っていたら助けそうですが……ここに来るまでに2人の差が開いてて、優花ちゃんが困っている場面に佐藤さんがいない気しかしません!

逆に田口さんは助けていると思いますか?」

佐々木さんは笑顔で言ってきた。

「うん、確かに全く助けている未来が見えないね。健一郎なら僕と同じでこの段差ぐらいなら何の障害にもならないだろうし、もしこの段差が岩本にとって障害になると判断しても後から僕が来ることを予想して……いや、違うな!あいつなら僕が来ると確信してほっていくだろうな。そして、岩本は絶対に僕を待つことはしない。となると、迂回しようとするだろうから……」

僕は考えれば考えるほどにという2文字が頭に浮かんで離れなくなった。

「はあ~。仕方がない。うん、仕方がない。」

「えっと、田口さんどうかしました?」

佐々木さんが僕の服の裾をつかみながら聞いた来た。

僕は佐々木さんのことはスルーしてスマホを開いて、遼太と健一郎に『岩本は来た?』とメッセージを送った。するとすぐに2人から『来てない。』と返事が帰って来た。

「岩本はまだゴールしていないらしい。」

僕がそういうと2人は非常に驚いた顔をした。

「え!それって、つまり……」

「うん。そうだよ。というわけで、十分に周囲を注意しながら登っていこうか。」

僕がそういうと2人はキョロキョロとしながら歩きだした。

さて、何事もなく岩本がゴールしてくれたらいいんだけどね。

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