第36話 愚痴られる
佐々木さんと山本さんを車に積み込んでから数分が経過した。そして現在、僕と健一郎は佐々木さんと山本さんに怒られ(文句を言われ)ている。
「どこか行くならちゃんと言ってから、言ってください!」
「いきなり、声をかけて来ないでください!びっくりするじゃないですか!」
「持ち上げて移動しないでください!」
という感じで佐々木さんと山本さんが交互に言っている。ちなみに、僕たちが返事をしようにもすぐに言ってくるので返事すらできていない。
とりあえず、彼女たちが言っていることをもとに僕たちがいなくなってから戻ってくるまでの間の出来事をまとめると
僕と健一郎がいなくなったことに気が付く→僕たちに連絡を取ろうとしたがスマホを2人とも車に置いてきたことに気が付く→車に取りに戻ろうと来た道を見てみると月明りしかなく、足元が良く見えない状態で行くのは怖いと感じる→取りに戻って連絡するしかないと覚悟を決めて車に向かって歩き始める→歩き始めて数歩のところでガサガサと何かが動く気配を感じる→そちらを見るが何もいない→再び移動をし始める→また別の方向からガサガサと何かが動く気配を感じる→怖くなって固まっていたタイミングで僕が横から声をかける→びっくりして逃げようとするがすぐに健一郎に捕まる→そのまま車に積み込まれた
となるらしい。ちなみに僕と健一郎の接近には一切気が付かなかったらしい。
そして、どうやらとても怖かったが怖かったと言いたくないのでひたすらびっくりしたということにして僕たちに文句を言って来ている最中である。さてと、どうしたら彼女たちの機嫌はなおるのかな?岩本なら遼太にくっつけておけば勝手になおったけど、さすがに抱きしめるわけにもいかないしな…。
『どうする?』
『知らん』
『そう言わずに何かない?』
『ない』
仕方がないので僕と健一郎は目で会話をしながら文句を聞いていた。おそらくここで「怖かったんだね。」とか、「暗い中放置してごめんなさい。」と言えば火に油を注ぐようなものだしな…どうしようかな?こういう時今まで身近にいて関りが深かった年齢の近い女子が岩本だけだったのでどうしていいのかが分からない。
「「聞いていますか?」」
健一郎とどうしようかと目で会話をしながら解決策を考えていると佐々木さんと山本さんに聞かれてしまった。やばい、半分聞き流しながら解決策を考えいたのがばれたかな?ここは素直に聞いていないというとさらに文句を言われる気がするので
「うん、聞いているよ。」
と答えながら佐々木さんと山本さんからは見えないところで健一郎の膝を叩いた。
「ああ、聞いている。」
健一郎は僕よりも考えることに集中していたようで聞かれたことにすら気が付いていなかったが、僕が叩いたことで気が付いて答えてくれた。
「それならいいですが、……」
と言いながら再びしゃべり始めた。
このままだといずれ2人して聞き流しているのがばれそうだ。もう既に1度疑われているので次はない気がする。さて、どうしたものかな?と思いながら外を見ると先ほどまでなかった黒い塊が目に入った。
「うん?」
「田口さん、何ですか?」
佐々木さんが何か言っている最中に声が出たこともあり少々怒っている声で聞かれた。
「とりあえず、健一郎。車をゆっくりと移動させてくれない?できる限り右後方に」
「お、おう。いいけどあまりバックはできないぞ。すぐ後ろは急斜面でだから下がりすぎると落ちる。」
「分かってる。だから、できる限りでいいから。」
「分かった。」
健一郎はすぐにエンジンをかけると少しずつ車を下げ始めた。
そして、ヘッドライトが黒い塊を照らした。
「健一郎、ストップ。前、前!」
「え、前?」
健一郎が僕の掛け声を聞いてすぐ前を見て固まった。
「たぶん、佐々木さんと山本さんが言っていた。ガサガサの正体はあれじゃない?」
「だろうな。」
僕たちの視線の先には非常に大きなイノシシと小さなウリ坊がいた。
「あれ、どこか行ってくれるかな?」
「とりあえず、エンジンを切って刺激しないようにして待つしかないんじゃない?」
「そうだな。」
そういいながら健一郎は車のエンジンを切った。
僕は佐々木さんと山本さんを見ながら
「2人ともよくあれに遭遇しなかったね。いや、遭遇はしていたのかな?とにかく、無事でよかったね。子育て中の野生動物は子供を守ろうと必要以上に攻撃してくることがあるらしいけど、絶対あのサイズのイノシシの攻撃されたらかすり傷では済まないよね。」
といった。すると2人そろって静かになった。
僕のすぐ横で健一郎がボソッと
「車でもあれにぶつかられたらただじゃすまないだろうな。」
と言っていたが聞かなかったことにした。
イノシシたちは5分もすれば山奥へと消えていった。
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