第35話 下見
「翔真、こっちだよね。」
「うん、そうだよ。」
佐々木さんと山本さんが満天の星空に感動しているのを横目に僕と健一郎は目的の場所の下見をするために移動し始めた。
「それにしても、こんなところにホタルが見れる場所があるとわね。」
「そうだね。教授の説明ではこの先のはずだよ。」
先日、講義中の雑談として教授の1人が大学の近くにもホタルが見れる場所があると言っていた。僕もホタルは小さいころに見に行っただけで、それ以降見たことがなかったので、久しぶりに見てみたいと思い教授が言っていた場所を調べていた。その場所は現在地から5分ほど山道を歩いた場所らしい。
「佐々木さんたちを連れてくるならヘッドライトが必要だね。」
「そうだな。僕や翔真、遼太は山道も歩きなれているけど、あの2人は慣れてなさそうだからなぁ。」
僕たち達は何度も一緒に山登りに行ったこともあり、時々時間配分を間違えて真っ暗な山道をスマホのライトだけで1時間ほど歩いたこともあるし、最初から夜の山で生物採取をすることを目的として山に入って活動したこともあるので慣れているが、佐々木さんたちはあまり慣れていない印象を持っている。もしかしたら、慣れているかもしれないが、慣れてないと思って行動した方が安全だろう。
「ところで、翔真。あと、どれぐらいで着くと思う?」
「水の流れる音がしているからすぐ近くだと思うよ。」
「そっか。」
と健一郎と話しながら山道を歩いていると少し開けた場所に出た。
「ここかな?」
「そうだろうね。水がきれいだし。」
健一郎が水をすくいながら答えてくれた。
「さて、早く戻ろうか。」
「そうだね。」
健一郎に言われ滞在時間が1分にも満たなかったがすぐに来た道を引き返すことにした。マップアプリで調べた時は徒歩5分だったが、実際には10分近くかかってしまった。流石に佐々木さんたちだけでこれ以上放置するわけにはいかないだろう。本当はもう少し周囲を探索しておきたかったが仕方がない戻るとしよう。
「ところで、翔真。2人は大丈夫かな?」
「え、それは遼太たち?それとも佐々木さんたち?」
「そりゃあ、遼太たちだよ。佐々木さんたちは車の鍵を閉めていないから寒くなったら車の中に戻っているだろうけど、遼太たちのの方は、岩本がさぁ…」
「ああ…大丈夫だろう。どれだけあいつが突っ走っても遼太が絶対に抑えるから、気まずくはならないと思うよ。」
と健一郎に対して答えはしたものの、絶対に岩本が突っ走って遼太が全力で自分の理性を働かせようとしている気がするんだよね。だって、岩本が遼太に告白した時のことを考えるとね…なんとも言えないんだよな。まあ、その時の仕掛け人は僕なんだけれど。あれ、今回も僕が仕掛け人になるのかな?などとどうでもいいことを考えていると佐々木さんたちの姿が見えてきた。
「おい、翔真!なんか様子がおかしくない?」
「うん、そんな気がする。」
佐々木さんたちは何かに怯えるかのように一方向を警戒している。おかげで僕たちの接近にも気が付いていないようだ。
『どうする?声をかける?』
『そうしようか。』
僕と健一郎は目で会話をすると素早く佐々木さんと山本さんを両サイドから挟み込むような形で近づいた。
「大丈夫?」
「「ッ!」」
僕がそっと声をかけると佐々木さんと山本さんは驚いて健一郎のいる方向に向けて走り出そうとし、健一郎に受け止められた。
「大丈夫か?」
「「……」」
健一郎は2人の顔を覗き込みながら聞いたが返事は帰ってこなかった。
「健一郎、どうだ?」
僕は一切言葉を発さなくなった2人のことが気になって声をかけた。
「ご覧の通りだ。気絶はしていないが驚きすぎて放心している。これは放心状態から戻った時にどうなるか分からないから危険だぞ!岩本みたいに放心状態から戻った瞬間に僕らから離れようとして藪に飛び込んでいきかねない。」
「ああ…それじゃあ、とりあえず車に積み込もうか。健一郎、持てる?」
健一郎の体格なら余裕で2人を運搬することは可能だろうが念のため聞いてみた。
「問題ない。車のドアを開けてくれ。」
「分かった。」
僕が車のドアを開けると健一郎が2人を左右の肩に担いできた。そのまま、2人を後部座席に座らせて、僕たちも運転席と助手席に乗り込み車の鍵を閉めて2人がもとに戻るのを待った。
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