第34話
~佐々木由香side~
出発してから30分以上経った。元々、大学がある場所が田舎であることもあって私たちが住んでいる場所を少し離れればすぐに周囲は一面畑になってしまう。最初に星がきれいに見える場所と言っていたので、てっきり近くに街頭や民家がない場所に行くのだろうと思っていた。しかし、現在私たちを乗せた車はどんどんとグネグネとした山道を登って行っている。
「あの、田口さんどこを目指しているのですか?」
私は少し不安になって、助手席に座っている田口さんに聞いた。
「えっと、この山の山頂付近だよ。まあ、山頂に近づくにつれて道幅が狭くなっていくらしいから、実際は中腹よりも少し上ぐらいかな。さすがに佐々木さんと山本さんがいるのに登山はしないから安心して。」
「え…!」
田口さんは平然と言ったが、何から突っ込んだらいいのだろうか?まず、道幅が狭くなるってどういうこと?もう既に車一台が通れるかどうかで対向車が来たら避けようがない状況なのにもっと狭くなるっていうこと?あと、私と山本さんがいるから登山はしないって言っているということは私たちがいなかったら登山をするということかな?
「シカがいる!」
考えていると突然佐藤さんが車を止めながらしゃべった。山道に入ってから全くしゃべらなくなっていた佐藤さんがしゃべったことに驚きながら顔を上げると、車の前にシカが3頭いた。
「どうする?クラクション鳴らしてみようか?」
佐藤さんが助手席に座る田口さんに聞いた。
「いや、パニックになってこっちに向かって来れれたら困るからしばらく止まって様子を見よう。」
「そうだな。それじゃあ、しばらくここで待機だな。」
佐藤さんはそういうと車のエンジンを切って車を停止させた。
「まったく見えなくなりましたね。」
友梨ちゃんが言った。
「そうだね。」
周囲には街灯がなく、頭上も木々に覆われてしまっているため月明りもない。そのため、すぐ横にすわっているはずの友梨ちゃんすらうっすらと輪郭が見えるレベルでとても前にいたシカは目視することはできない。あれ、これってどうやってシカがいなくなったかを確認するのだろうか?
「翔真、どうする?」
「どうするって言っても来た道をバックでは戻るのは怖くないか?」
「そうだな。だけど、シカくつろいでいないか?」
「そんな気がする。せっかくだから写真撮っておこうか。」
「そうだな。」
私と友梨ちゃんが手を繋いで怖さを紛らわしている中、田口さんと佐藤さんはスマホを出して写真を撮り始めた。
「シカ、行ったね。」
「そうだな、それじゃあ、出発するぞ!」
「了解。」
しばらくの間写真を撮っていたようだが、シカがどこかへと行ったので、再び動くことにしたようだった。すぐに車のエンジンがかかり、再び真っ暗なグネグネ道を進みだした。
車で走ること15分、少し開けた場所に出た。
「翔真、ここから先は行くのはやめておこう。」
「そうだね。ここでも十分星を見れそうだしね。」
そういうと田口さんと佐藤さんは車を降りて行った。私たちも慌てて車を降りると、満天の星空が広がっていた。
「「おお~!」」
あまりにもきれいで声が出た。
「すごいね。」
「うん。」
私たちは、男子2人がすぐ近くの小道に入っていくのに気が付かず、普段生活している場所からでは絶対に見ることができない景色を見ていた。
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