第8話 裏切り?!

 幸王丸こうおうまるの日常に突如として降りかかる叔父「満隆みつたか謀反」のしらせ──


 鎌倉かまくらは途端に騒然となり、急速な緊迫感に包まれていく。



 報せを耳にし狼狽ろうばいする幸王丸こうおうまるに対して、険しい表情を浮かべながら関東管領山内やまのうち上杉憲定のりさだが進言する。


「私もにわかには信じられませぬ。しかし、万が一の事を考慮して、ここは一先ひとまず私の宿所しゅくしょにご避難ひなん下され!」



 避難をうなが憲定のりさだ他所よそに、落ち込みながら幸王丸こうおうまるつぶやく。


「──俺が勉学をちゃんとやらなかったことに愛想あいそを尽かしちゃったのかな……」



 すると憲定のりさだはカッと眼を見開き、はげしく叱責しっせきする。


「何をそんな悠長ゆうちょうな事をおっしゃられるか! こうしてる間に満隆みつたか殿の手勢がこの鎌倉かまくら御所ごしょに攻めてくるやもしれませぬぞ!」



「わ、わかったわかった。憲定のりさだの言う通りにするよ」



 やがて、幸王丸こうおうまるはその日の内にわずかな供回りと一緒に、鎌倉かまくら御所ごしょを抜け出し、関東管領山内やまのうち上杉憲定のりさだの宿所に逃げ込む。



「よいか、まずは門を閉めよ! それから、ここにいる男たちは今すぐに甲冑かっちゅうまとい警戒を厳重にせよ! それから、もし怪しい者がおったらすぐ私に知らせよ!」


 憲定のりさだ宿所しゅくしょは、重々しい雰囲気に包まれる。



 こうして、三日三晩厳重げんじゅうな警戒態勢がかれたものの、結局は足利満隆みつたかの軍勢が攻めてくることはなかった──



「ふーっ、どうやら攻め込んでくる事はなさそうですな」


 関東管領山内やまのうち上杉憲定のりさだの表情に安堵あんどの色が見える。



「怖かった〜っ。──でもいまだに満隆みつたかおじさんが謀反むほんだなんて信じられないよ……」


 幸王丸こうおうまるは、安堵と「裏切られたかもしれない」という不安が入り混じった複雑な表情を見せながらつぶやく。



「今すぐには無理ですが、時間を空けて一度真偽しんぎを確認致しますゆえ幸王丸こうおうまる様は念の為今しばらく私の宿所にてご待機なされませ」



「わかった。そうさせてもらうよ」



 この一件は鎌倉かまくらにおいて大層な騒ぎとなったものの、間もなくするとほとぼりも冷めて9月に入る頃には、鎌倉に平穏へいおんが戻る。


 そして、しばらく経ったある日、関東管領山内やまのうち上杉憲定のりさだは事を収める為、足利満隆みつたかの屋敷に出向くことになる。

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