幕間 ラテル放浪編
1
始めに
幕間はすべて三人称となります
―――――――――――――――
パチパチと、炎が爆ぜた。
辺りは真っ暗で、しんと静まっている。
寒さが激しくなるこの季節では、体温と体力を保つために早めに就寝するのが野宿のルールだ。
魔獣をおびき寄せないために、夕食の匂いは完璧に消えている。
「………気のせいか?」
念のため、外に出てみる。
心なしか、草を踏む音が聞こえた。だが、周りには何も誰もいない。
だが、見えないのであれば魔獣が出てくるはず。それがないということは、対処に焦る必要もない。
先日十歳を迎えたナオは白い息を吐きながら、上を仰いだ。満天の星が空を埋め尽くしている。
(確か小さい頃にも、母さんたちと星空を見たことあったっけ)
屋根に登り、寒いのも気にせず満天の星を眺めた。
多分、転生したことを自覚する前だった気がする。
当時は本当に無邪気で、何も知らなかった。この世界が前世にプレイしていたゲームの世界で、レベル上げをしないと死んでしまう。
きっと自覚しなければ、ずっとレベルは低いままで、身を守る術を何も持たずに、ただただ圧倒的な強さの前でひれ伏していただろう。
「………ナオ?」
「先生。起きていたんですか」
「今さっき目が覚めた」
隣の
「うう、寒い」
「テントにいればいいじゃないですか」
「こんな寒さじゃ寝れやしないよ」
イスを出現させ、座るように彼女は促す。ナオが大人しく座ると、懐から彼女はマグカップを取り出した。コポコポと魔法でできたミルクティーを注いで「はい」と俺に手渡した。
「ありがとうございます」
「いや、ちょうど飲みたかったし」
ほっと一息をつくと、冷えた体がじんわりと温もりを取り戻すのを感じた。
「
「確か先生は極東諸島出身なんでしたっけ」
「ああ。
「でも行ってみたいです」
ナオがぼそりと呟いた。ぱちりと彼女はまばたきをする。
「そういえば、ナオは
「ええ。……珍しいですよね」
大多数の中に少数派がいると浮くように、ラテルでは明るい系統の髪色が多いのに対し、ナオのような黒髪はあまり見たことがない。
(まあ、ラテルは広いんだし、国のどっかしらには先生のように黒髪の人もいるよね)
「……そんなまだ若いキミが一人で旅、か。可愛い子には旅をさせよとは言うけど」
「――――」
ナオはクロエを見た。
この世界は《アナザーワールド》に酷似しているからか、それとも本当に転生してしまったのかは分かりかねないが、それでもどことなく現実世界の構造に似ている。
現に、先生は日本人――もとい、アジア人テイストの顔立ちをしている。
(……とすると、ラテルは多分、ユーラシア大陸の大部分を占めているってことになる)
なんという広さなのだろうか。それこそ自分がどこにいるのか分からなくなりそうな。
(クルグスもメッサも、本当に“地方”都市だったんだ)
あとどのくらいで王都につくのだろうか。数ヶ月? 半年? それとも数年? いずれにしよ両親が元気な間は自分の力を育成するために時間を使える。
ナオは手首につけた
両親――ダリアとオルガが残した物の一つである魔石。当人の魔力が込められており、魔力が尽きない限り永遠に発光しているものだ。戦闘で使うものではないため、保存魔法がかけられている。
魔力が尽く=込めた人が死ぬ。
だから光っている間は、両親はまだ生きている。
「キミが今どんな立場かは知り得ないけど、でも私はキミに出会えて嬉しく思うよ」
「どうしたんですか急に」
クロエがしみじみとしながら言った。突然のことに、だけど慣れたそれにナオは苦笑しながら返す。
「いや、ここにきてまだ右も左も分からなかった私を助けてくれたんだから」
「先生なら突っ走りそうですけどね」
今までの彼女の行動を思い返しながら言う。
(魔熊を素手ではっ倒してそのまま食べようとした時は流石に凄かったけど)
「そんなことはないよ? 私はちゃんと後先考えて行動するタイプなんだから」
「ええ、それ言います?」
クロエの言い分にあえて茶化したように言うと、彼女はくすりと笑う。
それからんんっと伸びをすると、「じゃあ私寝るね」と言って先に
ナオはそれを見送り、しばし夜空を堪能してからある場所に向かった。
カサリと草むらをかき分けると、魔兎の群れが眠っていた。
それらは鋭利な一本角を持っており、普段は群れで地中で生活していて、捕食時のみ地上に這い上がってくる。そして獲物を見つけると躊躇なく襲ってくる。
つまり今は、狩りの最中なのだ。
「………先生が危険になるし、食料もゲットできるから、丁度いいな」
飛び上がってきた個体を出した
半年近い野営で培った技術と勘だった。
ほとんどがナオによって息絶え、残った数体は散り散りに逃げていった。
「………ふう。明日の朝食にでもするか」
その場で血抜きと内臓処理を施し、魔法で出した氷で冷凍保存させる。
完成したものを
ちなみに今後二週間ほどは兎料理がメインになった。
「故郷の味には馴染みがないから嬉しい!」
とクロエは言っていたけど、ナオは正直一日で飽きた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます