第181話 受胎転生の真髄

 「で、どうなっているんですか?」

私は部下に今の戦況の現状を聞いた。まさか、こんなにも早く樹神教が攻め込んでくるとは思わなかった。私の読みの浅さが招いてしまった結果だ。しかも、こんな時にだ。


問題は3つある。

1つは樹神教の信徒3名が暴れている件。これは戦闘係B班が対処している。しかも、1人はもう倒しているらしいので、この件はもうすぐ終わるだろう。

2つ目、これが一番重要だ。トガ君と樹神教の戦闘。やはりトガ君の事を狙ってきたのだ。彼を失う訳にはいかない、今後の世界樹対策課にとって彼は必要な存在なのだ。

3つ目、アオバサユリの暴走。トガ君の肉体を移植した彼女は能力者として覚醒した。しかし、悪い予想が当たってしまった。彼女はトガ君の従順な部下であり、玩具へと頭がイカレてしまった。現在、彼女はミツバチが花に誘われるように、トガ君の元へと向かっている。重装備した職員を何人か向かわせたが、返り討ちにあってしまって、その人たちとは連絡が取れない。


「し、支部長、あの……私はこのままどうすれば……」

「ああ、アナタは引き続きトガ君の状況を報告してください。」

「こ、この場で待機ってことですか?!」

「不服ですか?」

「い、いえ! そんなことは!」

「では、お願いしますね。くれぐれもお気を付けて」


私はガチャリと電話を切った。

 

 まさか、また私、支部長自ら出向くことになるとは……

 緊急事態ですし、仕方ないですね……


私は席を立ち、アオバサユリの元へと向かった。





 先程まで悲鳴が響いていた場所に一時の静けさが訪れた。舞台の入れ替えみたいに、静かになったと思いきや、急にドゴンッという大きな音と共に第2幕が開かれた。トガショウがサクヤ様に対し、攻撃を仕掛けてきたのだ。トガショウは一度距離を取り、最初に私たちを追い詰めていた攻撃方法、遠距離からの高火力ミサイル攻撃でサクヤ様の出方を窺っているみたいだ。

 サクヤ様は踏みつぶされていたカメヤゲンドウさんを、着物の後ろから生やしたキツネの尻尾を器用に使い、私の所まで投げ飛ばした。危険だと判断されたからだろう。

「下がってなさい、危ないよ♡」

「は、はいい……」

私は急いでゲンドウさんと、死の土スートゥ様を担いで、この場から少しでも遠くへ離れようとした。


獣狐の咆哮じゅうこんのほうこう

サクヤ様が大量に向かってくるミサイルに対し、小さな口を可能な限り大きく開けた後、大声を出し始めた。すると次第にその声は強力なレーザー光線へと変化し、降り注ぐミサイルを蹴散らした。


「今度はこっちの番だよ!受胎転生・馬の子じゅたいてんせい・うまのこ 」

サクヤ様は着物の帯をスムーズに取り、紐、伊達締めと脱がれた。

きつく着ていた着物から解放されたサクヤ様、着物を方から羽織るように着ておられる。楽な状態になったのと同時に、サクヤ様のお腹が風船のように膨らみ始めた。尋常でない速度でぷくーと膨らみ、一瞬で妊婦さんになってしまわれた。今にも出産しそうなぐらい膨らんだと思ったのもつかの間、へそからミチミチと、生々しい音を出しながら、お腹の内側から割いて生まれてくる。人間の赤ちゃんではなかった。人間と馬のハーフの様な異形な生物は生まれた後、すくすくと大きくなり、ほんの数秒で大の大人を超える大きさになった。

子が立派に育った後、へその緒がプツンと切れ、サクヤ様のお腹は何事もなかったかのように綺麗に閉じた。


「気持ちの悪い能力だな……」

「そうかな~、結構気に入っているんだけど! 君がゼノを取り込む能力なら、私はゼノを産みだす能力。君が食べたいと言う意志なら、私は産みたいと言う意志。私は君の子も産みたいな♡ 世界の意志同士の子供、すっごい子が出来そう♡」

「やだね、さっさとその馬も食ってアンタを倒す!」


私はこの戦いにはついて行けそうにない……

本当にこの現実で起こっているとは認めたくないぐらい異常な光景だ。

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