第47話 迫真の演技
僕はユイちゃんの相手をしながら、自分の仕事をのんびりと進めていた。そもそも、僕たちの仕事は外での化け物退治がメインなので、中での仕事は報告書などまとめるくらいだ。なので、小さな女の子の相手をしながら仕事ができる。
本当はダメだと思うのだが……
「いや~トガ君が小さい子の相手出来て助かるよ!」
「ははは、なんか懐かれちゃって」
「まあ、事件が起きるまでゆっくり遊んでて! 息抜きと思って! 書類とか私が残りやっておくから 今やることないし」
「すみません、ありがとうございます」
治窓から差し込む光の濃さで、日が傾いてゆくのが分った。
「お! このままいけば今日は早く帰れるんじゃない!?」
「そうですね! 今日もしかして出動命令なしかも!」
僕たち二人は内心ワクワクしていた。
何故なら、毎日何かしら事件があって出動するからだ。毎回危険な目に遭う訳ではないが、世界樹の根がおかしな動きをし始めたとか、変な生き物を見たなど……
何かあっては遅いので、自衛隊と支部の職員と力を合わせて対応している。
「今日は平和に終わろう……」
「そうですね、毎回出動していたら身が持たないですよ。変な生き物の正体がゼノとか化け物ではなく、野生化したトイプードルだったときは、疲れた身体にドッと重いモノが乗っかった気分になりましたよ……」
「あるあるだよねぇ まあ、平和だったからいいじゃない」
「いや、そのトイプードルすっごく狂暴だったんですよ。嚙まれましたし、狂犬病になるかと思いましたよ……」
「よし! 今日の仕事はお終い! さあ、帰りますよトガ君。」
ウッキウキでキラさんは帰る準備をしている。こんな日は初めてだ。なんだかんだ事件が起きたりして、定時で帰った事は今までなかったから……
そもそもこの組織、定時とかそういう概念あるのか?
「ほら、早く帰る準備する! ユイちゃんもこのために早めに返したんだよ! ウダウダしていたら、上や頭のおかしい研究員に何をお願いされるやら……、誰かが来る前に帰るよ!」
そんなに仕事したくないんだ……
しかし、キラさんの願いも空しく、僕たち戦闘係の部屋に一人男が入ってきた。
サイトウナオキ、ここの頭のおかしい研究員の一人だ。サイトウさんの顔を見た瞬間、キラさんの顔から希望の光は消え失せた。僕自身もたぶんめんどくさい仕事お願いされるんだろうと思い、今日は何時に帰れるのかな? 日付変わる前に帰れるかな? と、ネガティブな事を頭の中で考えている。
「お疲れ様です。夜分遅くにすみませんが、キラさんにおね……」
サイトウさんが、キラさんに何かお願いしようとしたその時!
「嫌だ嫌だ! 帰りたい! もう仕事したくないィィィィィィィィ」
急に子供のように駄々を捏ね始めた。
な、なんだこれ?
はっきり言ってドン引きした。そう思ったのは、僕だけじゃなく横のサイトウさんも同じ感想だと思う。顔にそう書いてあるから……
やばい、なんだか自分まで恥ずかしくなってきた。
「やだやだやだ!」 ……チラッ
駄々を捏ねながら、キラさんはサイトウさんの顔色を窺っている。
こ、この人はプライドを捨ててまでして、仕事をしたくないのか!
「あ、あのキラさんお願いが……」
キラさんの迫真の演技も空しく、サイトウさんは仕事の件について淡々と話し始めた。
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