第31話 ゾンビマン
ハツカメの手からゲル状の物質があふれ出ている。
「死ね、童貞野郎!」
スライムを大きなスイカぐらいの塊にして、僕の顔面にめがけて投げつけた。
「ど、童貞ちゃうわ! てか、アブね!」
僕はギリギリでスライムをかわすことができた。
「ふーん、優しく窒息死させてあげようと思ったのに……」
なにが優しいだ! 殺すことに優しいもクソもあるか!
「殺し方変更、次からこの子達は酸性になりまーす。触れたらひどい痛みに苦しみながら死ぬことになりまーす。」
「おいおいおい、まじか」
さて、どうする?
残念ながら僕の能力は回復能力……不死かどうかは自分でもわからないし、攻撃手段が殴る蹴るしかない。だから、何とかこの女の懐に入って近距離戦に持って行かないと……
「おら! 死ね」
今度は大きく手を振りかざし、スライムを水しぶきにして攻撃してきた。確かにこの攻撃なら、かわすことはできない……
「うわああ」
スライムの飛沫が、僕の身体を寄生虫の様に食い漁りながら襲っていく。
「トガ君!」
「だ、大丈夫です。何とか再生能力で保ってます」
この状態のスライムは、溶かすのと比例して自身も消えていくようだ。長期戦ならこちらが有利だ。
「なによ! こいつ全然死なない……」
ハツカメは驚いているようだ。そりゃ普通、こんな強力な酸の液体かけられたら、タダじゃすまないからな。相手からしたら、ゾンビが向かってきているみたいなものなんだろう。顔にもかかっているからさぞかしおぞましい顔になっているだろうし。
「ぎゃぁぁこっちくんなぁぁぁ」
ハツカメの前に、ゾンビ映画に出てくるゾンビよりも顔の原型を留めてない化け物が近づいてくる。
なんとか射程圏内に入った……
何度か痛みで気が滅入りそうだったが、この女に対する怒りで奮い立たせ、ここまで近づくことができた。僕は右腕に力を籠め、ハツカメのみぞおちに一発お見舞いしてやった。
「おええええ」
ハツカメはその場で倒れて動けなくなった。本当なら顔面をぶん殴ってやりたかったが、一応女性なのでやめておいた。ユミちゃんも見ていることだし!
これにて一件落着!
今の僕は、ヒーローの姿ではなくグロテスクなゾンビの姿なのが、非常に残念なのだが、多くは望まない……小さい女の子を助けて敵を倒せたのなら十分じゃないか! 自分にそう言い聞かせて、ゾンビマンはアオバ達の所へ向かう。
「倒しましたよ~お二人共大丈夫でしたか?」
「トガ君! 油断しないで、後ろ!」
僕が後ろを振り向くより前に、後ろから首を絞められた。女とは思えないほど力強く締められ、さらに追い打ちをかけるように、腕から出されたスライムを僕の口の中から流し込んできた。
この女まだ気絶してなかった……
「あんなへなちょこパンチでやられるかボケ!」
さっきのスライムと違い、このスライムは僕の身体を溶かしたりしない……恐らくこの女の狙いは……
「今度は中から直接だ! まあ、今回は窒息死なんだけど。あんたにとってはこっちの方が厄介なんじゃない?」
その通りだ、こいつは酸性のスライムと違って消えることはない。ずっと僕の体内でとどまっているタイプなんだ。このままだと再生とか関係ない……窒息死の永久機関が出来てしまった。
「さ、この男はもう再起不能になったことだし 下手に殺さず放置放置!」
ハツカメが標的をアオバに変え、ゆっくりと近づいていく。
狂気の眼差しが、アオバ達に向けられる。
「ねえ、どういう死に方がいい? こいつみたいにもがき苦しみたい? それとも骨も残らないぐらい綺麗さっぱり消えてなくなりたい?」
不気味な質問を問いかけながら、どんどん近づいていく殺人鬼はとても楽しそうだ。いったいこの後、どんな拷問ができるか楽しみでしょうがないんだろう。
「ねえ、あなたのゲル状の液体どうやって出してるの? 脱水症状になったりしないの?」
「質問を質問で返してんじゃねえ、このアマ! 右か左かぐらい簡単な質問でしょうが!」
まさかこの状況でも、アオバリズムを崩さないとは……恐れ入る。
ああ、でも意識が遠のいていく……
頭に酸素が届いてないんだろうなぁ……
僕は一度死んだ。そしてすぐに蘇った。
だが、状況は変わらない……
相変わらず僕の口から肺まで入ったスライムで侵されている。しかも胃の中までしっかりと……
生き返っても苦しい、生き地獄だ。
なんとかしないと、このままじゃ彼女達が殺されてしまう。
そう思った瞬間、ぼくの身体に変化が起きた。
体がゲル状の液体に変化したのだ。一瞬、これもハツカメの能力の一つかと思ったが、感覚で分かる。
これは僕の能力だ!
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