第30話 探偵はアオバサユリ
ピリピリとした空気が周りに広がっていく……
アオバサユリが、ユイちゃんをデートに連れまわそうなんて言うからだ。
「ハツカメさんの言う通りですよ! 今の状態のユイちゃんを連れまわすなんて、何考えているんですか! しかも、相手が得体のしれない研究者なんて!」
僕も勿論、彼女の暴挙を止めようとする。この女に連れまわされたら、ユイちゃんは完全に闇落ちしてしまうからだ。
「え、得体のしれないって……ちょっと~トガ君、私を何だと思っているの? 別にとって食べようってわけじゃないのよ。ただ、ここだと話せない事もあるじゃない♡ ね! ハツカメさん……」
どういうことだ?
話すも何も、この子はしゃべれないんだぞ。僕は彼女が何を言っているのか理解できない。
「ハツカメさん、ユイちゃんは犯人の凶器を見ましたか?」
「いえ、ただ何か特殊な液体を出していたと……」
アオバサユリはハツカメさんに問いかける。まるで探偵のようだ。
「この子があなたにしゃべったのですね」
かなり強い口調に変え、さらに問い詰めていく。
「そうです。この子は人見知りで心に傷を負っていて私にしか話せないのです」
ハツカメさんもかなり苛立ち始めて口調が強くなっている。
「そうなのですか、この子はしゃべれないのに」
僕の頭上に?マークが出来ていた。
「な、何を言っているのですか。この子は私にだけ……」
ハツカメさんの言葉に焦りの色が現れていた。先ほどまでの苛立った話し方が、急に嘘の辻褄が合わなくあなって、自信がなくなった感じだ。
まさか……ね
「そのまさかよ。トガ君」
「うお、心の声でも聴けるのですか?」
何なんだこの人は、僕の心の声を当ててきたぞ。
「ち、ちがうんです。この子は手話で私に伝えてきたのです」
ハツカメさんの言い分はかなり苦しく感じたが、確かにそうかもしれない。
どうでる? アオバ探偵……
僕はアオバサユリの方を振り向くと、彼女は何か手と体を動かしていた。
これは! 手話だ。
彼女はハツカメさんに見せつけるようにやった。
「手話が分かるのであれば、私が何を伝えたかわかりますよね」
アオバサユリは、嫌味ったらしくハツカメさんを煽った。かなり性格が出ている。
「でも、どうしてユイちゃんが喋れないってわかったんですか?」
「それは、彼女の口の中を見たのよ。おそらく犯人がこの子にチクらないよう しゃべれなくしたんでしょ。その後はこの子の近くにいて保護者面すれば……」
「ちょっとまてや! それじゃあ、私が犯人だってこと」
いきなり富士山が噴火でもしたのか、ハツカメさんが顔を真っ赤にして怒り狂た。
「まあ、そうですね。あなたはうまく使って、別の者を犯人に仕立て上げたかったんでしょうが、残念ながら脳みそが悪かったのね……かわいそう」
空気がピリついている……女二人の言い争いが最高潮に達しているからだ。
「もうどうでもいいわ! ばれているならあんたら二人共殺してあげる」
ばれてやけくそになったからか、ハツカメはユイちゃんの保護者役の演技を辞め、乱暴な殺人犯の役にチェンジした。
「さあ、トガ君! 出番よ」
「え、この後は僕がやるんですか?」
「勿論、私はユイちゃんと一緒にこの場所から離れておくから♡」
「逃がすか! ババア!」
ハツカメは逃げようとするアオバとユイちゃんの目の前に、緑色の液体の壁を生み出した。ハツカメの腕から出されたその液体は、プルプルと動いており、まるで生きているようだ。
「なにこれ! まるでスライムみたい♡」
「ちょっと今は見とれている場合じゃないですよ!」
「アハハ! そうよ 私は体からこのスライムちゃんを出すことができるの。この能力便利でね。人のカラダを溶かしたり、そのガキみたいにいじくる事もできるの」
「そのためだけに、この子の喉を……」
僕は心臓の奥底から怒りが込み上げてきた。
「ええそうよ、犯行現場見られちゃったし。この子を上手く使えば別のやつを犯人に仕立て上げることができると思ったわけ、そこのババアが言ったことそのまんまよ」
「ちょっといい加減にしなさい」
アオバも我慢出来なかったのか、声を荒げて怒りをぶちまけた。
「お姉さん、お姉さんと呼びなさい! 頭の出来が悪いあまちゃんさん!」
ええええ、そこ!? でも、この人はそうか……
もしかしたらと、思っていたがやっぱりその部分気にしていたか
ただ、少しはユイちゃんのことで怒りなさいよ!
「そしてトガ君にやられた後、土下座してユイちゃんに謝る事ね」
その言葉を聞いて、僕は少しニヤリと笑い戦闘態勢に入る。
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