第10話 アイツ

 体が焼けている! ハイノメの煙で作られた武器は、熱を持っているので拷問に最適だ。

「あついあつい!ハイノメ引っこ抜いて!」

「くっ! まだ死なないか!」

 

 それ僕に対していってないよね……


ハイノメはその後、背中から出ている煙から新たな武器を作り出し、化け物の首を焼き切り落とした。良かった……僕に対して言ったわけじゃないようだ。 たぶん……


 激しい痛みは次第に消えていき、三分も立たないうちに元の状態に戻った。傷跡も、火傷の後もない。

「すごい回復力ね……」

「ああ、これがなかったらあんな無茶はしないよ。それよりもお前! 僕ごと攻撃したな!」

いくら再生するとは言え、気分がいいものではない。痛みはあるのだから、

「ごめんごめん! でも私言ったわよ ショウごとやっちゃていいのよね! って」


 な! なんて性格の悪い女なんだ!


「そうだ! あの人は?」

僕はハイノメに聞いた。 彼女は首を横に振った。


 助けられなかった……

 救えたかもしれない命、もう少し速く助けられたら……


「私たちは全力を尽くしたわ、あなたが気に病む事はない。そんなことより気を取り直して他の人たちを助けに行くわよ。まだ間に合う命があるのだから……」


 そうだ まだ救える命がある。

 こんな所で立ち止まっている場合ではない!


それにミナさんの安否も気になる。

「どうか無事でいてくれ……」

そう心に決めて、僕たちは赤く染まった広場を後にする。


 広場の近くの建物や、テントには人の気配は全く感じられない……まるで、この世界から、ぼくとハイノメ2人だけになったようだ。

「血痕や争った形跡がないってことは、もう化け物はいないってことね。」

「じゃあ皆は?」

「救助されて遠くに行ったんでしょう。だとしても……」

ハイノメは何か気掛かりがあるのか言葉を濁す。

「何か引っかかるのか?」

「ええ、おかしいのよ……」

ハイノメが伝えようとした瞬間、瓦礫の間からなにか音が聞こえた。


 何かいるようだ 鬼が出るか蛇が出るか


ぼくとハイノメは臨戦態勢に入った。

瓦礫の隙間、丁度小柄な人なら3,4人は入れそうな大きさだ。


「さて、中には何が潜んでいるのか……ハイノメ先生お願いします。」

「わたしがやるのかよ! そこは、男の僕が行きます! だろ!」

「いや……、ここは先輩を立てようと……」

「それに再生能力の高いあんたの方が適任でしょ!」


 ガサガサ……


僕たちが言い争っている中、向こうの方から正体を現してきた。その正体は、ぼくより小柄で、白い肌が土とかすり傷だらけになっていて、とても酷い姿だった。

でも、ぼくは知っている。一瞬、その姿で気が付かなかったが、ぼくが今一番会いたかった人


「ミナさん!」


おもわず声が出た。そして同時に、さっきのやり取りを聞かれていたと思うと、少し恥ずかしくなった。まあ、そんなことは置いておいて、僕は彼女の元に駆け寄り、彼女を瓦礫の隙間から助け出すため、手を差し伸べた。

すると、彼女がぼくにこう問いかけた。

「あ、あの……あいつはいないんですか?」


 あいつってなんだ?


「大丈夫ですよ! 周りに化け物はいない……」

ぼくが彼女を安心させようと言葉をかけた瞬間だった。



一瞬にして朝が夜になった。


 いや、これは影だ!


上を見上げると原因が分かった。クジラほどの大きさで、トカゲに翼が生えた生物……、そう それはまさしく ドラゴンそのものだった。



 圧倒的存在を感放つドラゴンは、僕たちの存在に気づいていない。人が部屋の隅にいる虫に、気が付かないのと同じ感覚なんだろう。

「な、なんなのあの大きさ……」

ハイノメもこの大きさに驚愕している。この反応で、この状況がどれだけヤバいかわかる。

「ど、どうすれば……」

戦うという選択肢は、今の僕の頭にはなかった。それは隣にいるハイノメも同じ考えだった。2人とも頭をフル回転させ、逃げる方法、見つからない方法を考える。


「見つかるのは時間の問題、早くしないと……そうだ! ミナさん! その隙間まだ余裕ある?」

ハイノメが出した答えは、なかなか無理があった。

「あ、えっとまだ詰めれば……」

「はやく奥に行って!」

ミナさんに拒否権はなかった。


ハイノメの圧に負け、ミナさんはゆっくりと隙間の奥へと進む……、ハイノメも音を出さないように、瓦礫の隙間へ入っていく。続けてぼくも瓦礫の隙間に入り……


「あ、やばい!」


服が引っ掛かってしまった。さらに不幸は重なる……


 ギャアアアアアス


聞いたことのない咆哮が空気を轟かせる。

どうやらドラゴンがこちらに気づいたようだ。

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