第9話 ライオンに狩られる草食動物の気持ち

 早朝の広場 いつもならちらほらと起き始めた人達がいるはずなのだが……


誰もいない あるのは冷たくなった人だったもの…… 血の海……

普通なら気分が悪くなって立ち止まるところだが、慣れてしまったのだろうか……、僕は冷静だった。

「広場だけどあまり死体がないわね ほかの人たちはうまく逃げたようね」

となりの女は冷たいほど冷静だった……、慣れなのか、能力の代償なのか……


 広場の隅の方に大男ぐらいの大きさの鳥、まるでダチョウ、いやヒクイドリのような見た目の化け物がいた。ヒクイドリをさらに大きくした化け物は、足の爪が熊のようで簡単に人の喉元を切り裂けそうだ。何より異質なのは、くちばしに肉食猛獣が持つ牙が生えている。危険であるのは間違いないが、ハイノメの力があれば難なく討伐できるだろう。


 普通なら……



 「あ ああ……助けて」


化け物のそばに微かにまだ息がある人がいる。しかし、化け物には知能があるのか、自分の獲物を横取りされまいと、その人を足で押さえつけた。

「ハイノメ! 早く助けないと!」

「わかってる でもこちらから仕掛けると……」


 人質がいるためうまく動けない

 なんとか注意をそらせば……


「ぼくが 化け物の注意をそらしてあの人から離す!」

咄嗟に出た言葉、考えなんてない。でも動かなければ……


 何も始まらない!


「どうやって気をそらすの?」

「回り込んで、この石ころを投げる。」

「えぇ! そんなので!!」

「そんなのってなんだよ! ほかに方法が思い浮かばないんだよ。それに早くしないとあの人が死んでしまう。」


捕らえられている人は血をだらだらと流し、今にも死にそうだった。早くしないと間に合わない……僕は焦っていた。


「でも、そんなことをしたら今度はあなたが危ない。」

ハイノメは心配してくれているが、ぼくには自信がある。

「ぼくは死なない身体を手に入れたんだ。後は……まあ、何とかなる。」

「ノープランかよ……」

ハイノメは一瞬、あきれた表情をしたが、その後くすりと笑い答えてくれた。

「わかったわ、のってあげる! 私はどうすればいい?」

「上手くぼくが怪物を引き離すからその後、捕まっている人を助け出してほしい。助けた後、今度は僕を助けてくれ」

「情けないわね わかったわ! ショウごとやっちゃていいのよね!」

いたずら好きの女の子の様な顔を作り、ぼくに問いかける。

「ああ、いいよ!」

この場面で断れる勇気なんて僕は持ち合わせていなかった。



 地の底から聞こえるような低いうなり声が広場を包む、張り詰めた空気……、上手くできるかわからない……、不安な僕を鋭い目がにらみつける。


少しずつ化け物の後ろに回り、手に持っている小石を投げる準備をする。


 心臓の鼓動がバクバクと止まらない……


いくら死なない身体になったとは言え、怖いし痛みはある。たった数メートル動いただけなのに、何時間も経ったような気分だ。まだ後ろに回り込んでいないが、手に持っている小石を早く投げて、この緊張感から早く解放されたい。そう頭によぎった次の瞬間、不快感を伴う粘性の叫びが僕に向けられ、化け物がこちらに向かってきた。まだ完全に後ろに回り込めてないが、作戦は成功だ。人質は解放され、ハイノメがすぐさま助け出した。僕は化け物を遠ざけるため全速力で逃げた。


 少しでも化け物とハイノメを遠ざけないと……


しかし、化け物の足は速く、すぐに捕らえられてしまった。熊のような鋭い足爪で背中を蹴られ、地面に倒れたところを、岩でも乗っかているような重さで踏みつけられて、全く身動きが取れない。


 上から見下ろす化け物……


 ああ、ライオンに捕らえられた獲物の気持ちがよく分かった気がした。

 ここまで何もできないと抵抗する気も起きなくなってくる……


 

 ドス


鈍い音が僕の体中をめぐる

「うわああ」


 痛い 痛い痛い痛い 


痛みで何も考えられない! 今自分は、生きたまま食われている。それ以外のことは何も考えられなかった。

「だ、だれか助け……」

神にすがる思いでその一言が出た。

その言葉にこたえるように、灰色の剣が化け物の体を貫く、  

僕ごと!


 「ぎゃああああ」「ギャアアアア」


化け物と叫び声が重なり合い殺伐とした空気が響き渡る。

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