第5話 マスクの少女

 ボウリングの球が三個 宙に浮いた……

ひとりは叫びながら、スイカの種を飛ばしてる……

ひとりは座って、自分の周りに黄色い池を作っている……

ぼくは今日食べたもので、残飯を作っている……


 ああもう、疲れた……


 「逃げてください!」

その言葉で我に返った。 今の状況は!

自衛隊の人が戦っている。

女性警察官が失禁している。

ぼくはゲロまみれ。


 よし、最悪だ。


なんだあの化け物…タコの足みたいに動いている!?

そして、先端が鋭利な刃になっているのか?

漫画の寄生獣のような バイオハザードに出てきたクリーチャーのようだ。

ぼくを殺したやつとは違う……今は考えるのはやめよう。

また気分が悪くなってきた。

でも、弾丸は効いているようだ。 このままいけば……

 

 ドシュ


嫌な音がした。

そう思った瞬間には彼の首は飛んでいた。希望の星が宙に舞った。


 逃げなきゃ……


まともに戦える人がいない中、逃げるという選択肢以外 ぼくにはなかった。

「早くこっちに!」

ぼくは、戦意喪失して座り込んでいる女性警察官の手を引っ張り、化け物の眼から離れ、物陰に身を潜めた。

「ごめんなさい ごめんなさい」

彼女はただ子犬のように震えながら、謝るだけだ。

「大丈夫です。 絶対に助けは来ますから」

そう言って、彼女を安心させようとした。いや、自分に言い聞かせようとしたのか……


 化け物は獲物を見失ったからか、急に動かなくなった。

さっきまで暴れ馬のように動いていた触手は、元気がない花のように

くたびれて、先端の刃は地についている。



 これってチャンスじゃ…


このチャンスを逃すわけにはいかない! 物陰に隠れながら、亀のようにゆっくりと動けば!

「いまがチャンスです。ぼくが先に行きますので、後ろからついてきてください。」

「はい」


 ゆっくり ゆっくりと……


今すぐ走って、この状況から逃げ出したい気持ちを押し殺し、二人は進んで行く。



 ぐちゃぐちゃ……



肉をこねくり回す音が聞こえた。 すぐにその発生源がわかった。

根っこであるはずの化け物が変身 いや、 進化し始めていたのだ。その場から移動できるように、足が生え始めていた……まるで、毛のない犬に頭から触手が生えた姿は、奇妙でおぞましかった。


「走って!」


咄嗟に叫んだ 絶対にこの展開はやばい! ぼくは立ち上がり、後ろにいる女性の腕を掴み全速力で走りだした。息を切らしながら ただひたすらに走っていたが、違和感を感じ立ち止まった。


後ろにいたはずの彼女の姿がないことに……


その原因を知るのに時間はかからなかった……


  次はぼくだ


そう悟った瞬間、あの日の記憶が蘇る。


  ああ、ぼくの人生ここまでか……

 

次の場面ではもう、ぼくの頭と体はきれいにわかれていた。意識がなくなってきたのか、化け物が自分の身体を食っているシーンが、徐々にフェードアウトしていく……




 刹那! 遠のく意識の中、化け物の触手が宙に舞うのが、はっきりと見えた。


何が起こったのか……そこでぼくの意識はなくなった。


 たぶん死んだんだろう…

 

 目が覚めると、見慣れない場所にぼくはいた。

ぼくたちの区画の場所から遠く離れていない場所だろうか?

でも、なんで一人でこんな所で寝ていたんだろう?


 まったく記憶がない……


「目が覚めたんだね いえ生き返ったって言った方がいいかしら?」

そう言いながらぼくに近づいてくる少女……17歳ぐらいだろうか? スーツを着こなしてはいるが、アニメか映画でしか見たことのない物騒なマスクを着けており、どことなく異質感を漂わせている。

「あの ここは何処でしょうか?」

「もしかして、何も覚えてないの? 完璧に蘇るわけじゃないのね。」

「はい??」

言っている意味がわからない? 蘇った?

「暴走はしてないようね! 教えてあげる。 昨日、何があったのかを……」


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