第42話・ギフト

 変わらないようで、変わった俺とすずめさんの関係。


「ふふっ、すずめちゃん、アキラくんにべったり」


 それは主に距離に現れました。撫でて欲しいと、抱きしめてほしいと、そのように甘えてくるようになったのです。


「だって、高校卒業したら付き合うんだもん!」


 そういう約束です。というか、これはもう付き合っているのかもしれません。

 ただ、友達と同じ。気持ちにギブアンドテイクが必要ない状態で、こうなれて本当に良かった。


「普通卒業したらって言ったら……結婚とかだよなぁ?」


 確かに、ナツさんの言うとおりです。


「私たちはそれでいいの! ね? アキラ?」


 すずめさんは俺の横で俺を見上げてくるのですが、なんというか美少女の暴力です。


「そうですね」


 その、撫でろ抱きしめろが既に俺に多大な影響を与えています。こういうことをされるとつい、彼女の頭に手が伸びてしまうのは彼女のせいです。

 もちろん、悪いことではないです。安心して触れられるようになりました。


「もう、見せ付けてくれるじゃない! アタシも彼氏欲しいわぁ……」


 性的に少しマイノリティだと恋愛の難易度はぐっとあがります。それは仕方のないことですし、解消しようとすればマジョリティな人々の権利を侵害しかねません。


「彼氏できても、たまには俺に構ってくれよ?」


 こういうところ、ナツさんはとても可愛らしいです。


「当たり前よ! なっちゃんとの関係を嫌がるような人はお断り!」


 まぁ、そもそも恋愛自体がかなり難易度の高いものです。その全体を見ると、マイノリティである、ただそれだけの難易度上昇率はたいしたことないかもしれません。


「でもいいなぁ……ボクも恋愛したい!」


 これは、火付け役になってしまったかもしれません。俺とすずめさんは実質的には恋人、名目は友人。その中で幸せそうな表情をしているすずめさんは少しばかり周りを触発するかもしれません。


「なんだかんだ言っても、すぐ恋愛できるかもね?」


 そんなもみじさんの言葉をきっかけに、俺たちの考える問題は、次へと移ったのです。


「そうは言っても、ほらボク子供できないから……」


 要さんのその言葉は非常に寂しいものでした。解消不可能とは言っても、彼女が女性を自認する以上避けて通れない道です。


「だからって、退いてどうするの? 女は度胸よ! いざ邁進!」


 もみじさんはパワフルです。本当にもう、笑ってしまうほどに。


「キモがられるのを怖がってたのはどこのどいつだっけ?」


 あぁ、今はこんなに強いもみじさんにもそんな過去があるのですね。それは、相手によってはアウティングと言って、意図しない情報の漏洩になりかねません。


「あぁん、いじめないでよ!」


 ただ、もみじさんにとってはそれはある種のジョーク。こうしてジョークにすることで笑い飛ばすのを好む人です。


「うーん、そっか、退いちゃうんだ。何が辛いんだろうって思ってたけど……」


 わからないものです。ただ、ふとした瞬間に障害になるかもしれない。明確に疑問として言語化してくれるすずめさんには少し感謝です。


「ま、でも退いちゃう要素が多いだけよ。みんなどっかで自分が魅力的だなんて胸を張れないじゃない? だから、マイノリティを理由に息苦しさを感じる必要はないわよ要ちゃん!」


 そして、それは元気づけるための言葉でした。


「確かに、体で迫ってみて断られたときは自信喪失したなぁ……」


 元気になったからか雀さんも気持ちをどんどん言葉にしてくれます。


「そっか……特別恵まれてないってわけでもないんだねボク……」


 それはそうなのだとは思いますが、でも要さんのそれには一つだけ反論しておかないと気が済みません。


「でも、辛かったら言ってください。あなたは特別に恵まれていないというわけではないから、いつだってチャンスがあります。でも、特別に落ち込む時もあるでしょう。そんなときは、俺たち友人の出番です」


 もう、風紀委員ではないですが、誰かを助けるのに理由なんて必要ありません。お人好しで結構、俺はそう在りたいのです。

 ほんのひとかけらの余裕、余っていれば他人に施しましょう。奪い合えば足らぬ、分け合えば余る。そんな言葉が好きなのです。


「アキラいいこと言った! 全くそのとおりだぜ、なんも自分が特別劣ってるなんて考える必要はない! いつだって、チャンスがある! ただな、優れてるところは誰でもお前でも特別だ!」


 ナツさんの言うように思いたい。だって、自分の一人称は自分しか得られないのに、劣ってるところばかり特別扱いされるのは辛いです。

 だから、俺たちだけでも綺麗事を。優れた特別を大声で叫びましょう。

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