第43話・秋の空
そんな次の日のことでした。俺が教室に入るとまず、真っ先にすずめさんに発見されるのです。
「アキラー! おはよ!」
嬉しいものです。ほかの何をおいても、まずまっさきに俺に関心を示してくれる。
ついつい笑顔になってしまうのも仕方ありませんね。
「おはようございます、すずめさん。それに要さんも」
思わず頬が緩んでしまうのは、仕方がないのでしょう……。
「アキラくんおはよ!」
何やら今日は、雰囲気が明るいですね。
そんな時です。俺の前の席の雷太さんが、こちらに来ました。
「これ以外が本当に思いつかないんだ。ごめん、失礼なこと言ったら止めてくれ!」
雷太さんは何やら葛藤があったみたいです。とは言われましても、と言いたいところです。
「はい、えっと? 何をなさりたいんですか?」
きっと、彼は俺にサポートを求めています。それ自体はやぶさかではないです。
「要ちゃんに少し聞きたいことがあってさ……」
それはまるで、手探りでもしているかのような言い方でした。彼女をちゃんで呼ぶのが正しいかどうか、そもそも質問していいかどうか。それを、不安ながらも踏み込むようなものでした。
「えっと、ボク、結構普通だよ?」
確かに、特段変わったようには思ったことがないです。
「えっと、じゃあ普通に女の子として接すればいいのかな?」
意図的に傷つけようとしない限りは大丈夫そうなほど。ただ、外見的に要さんは普通よりロリっぽいかもしれません。
「うん! そうしてくれると嬉しいな!」
もう一つ要さんは普通じゃないところがあります。喜ばせるのが、ちょっと容易です。普通に女の子として扱うだけで喜びます。
「そっか! まぁ、ぎゃくに男扱いとか無理だしなぁ……」
あ、雷太さんから視線感じました。
「無理ですねぇ……」
「うん、無理」
俺とすずめさんの意見は同じでした。そもそも外見的に無理があります。男子トイレに要さんが入ってきたら、びっくりします。
だからといって、女子トイレにもはいれないとなると、ちょっと利便性は悪いかもしれませんね……。
とはいえ、この学校ではトイレは3つに分かれています。男子、女子、ジェンダーレス。しかしGIDの人は少ないため、ジェンダーレスはどこも3部屋しかありません。びっくりから男子を守ってくれる場合が多いです……。
ちなみに、トイレ混雑時、男子や女子も使っていいと言われています。なお、混雑時などありませんが……。
「そ、そうかなぁ……」
これで褒め言葉になってしまうのですね。要さん本当に、女の子にしか見えないのに。
「なるほど! 難しく考えすぎだな!」
雷太さんはそう言って、ちょっと笑ったのです。とは言っても外見的特徴も様々です。要さんのように、とても女性的に見える人とそうではない人の苦悩は別のものです。ルッキズム脱却とは言いつつも、どこか第一印象は外見で決まります。
また、答えの出ない問に突き当たってしまいました。性別違和のない人の権利も考えると、俺一人で考えて答えが出る問題ではないですね。
「アキラ、また難しいこと考えてる?」
おっと、あまり彼女から目を離すのもいけないですね。せっかく一緒にいるのですから。
「ふふっ、ごめんなさい」
そう、こんなことがあるとついつい、手が彼女の頭に伸びてしまいます。彼女が一度求めてくれたから、もう歯止めがききません。
「アキラ、ママの目してる……」
拗ねたように、すずめさんは唇をツンと尖らせるのです。
「あー、要ちゃん、あれ何?」
目を離したすきにそんな会話が繰り広げられていました。
「昨日告白成功したてのカップル……のようなもの」
なかなかに失礼な言動です。でも、ブラックジョークですね。
「のようなもの!?」
事実ですし放置です。
「あれで付き合ってないを自称するらしいよ? 卒業まで」
もう正直、すずめさんは理解してくれているので、付き合っているということにしてもいい気がします。
「お熱いねぇ……妬けちゃうねぇ……」
嫉妬は、はっきりと口に出して言う場合、文脈によって賞賛や祝福に変換されます。これは婉曲的な祝福で、ユーモアが含まれています。
「そもそも、どちらかといえばパパですよ?」
よって彼らは無視です。どうせ、雷太さんも要さんを傷つける意図は持ちそうにないですから。
「優しさがママだし!」
しかし、駄々っ子みたいですね。それがまたなんとも……。
「自分のママって、前おっしゃってたのに……」
だから、そんなすずめさんのせいです。俺の頬が緩んでしまうのは。
「まぁま!」
「赤ちゃんがえりしても、可愛いだけですよ?」
だって、美少女の暴力がいつだって付いて回るのですから。
「なんっか、空気甘くね?」
「そうだね……」
とは言っても、ちょっと周囲の目を気にしなすぎかもしれません。
「放課後まで我慢できますか? ふたりっきりの時間をとってみましょう」
その時にたっぷりといちゃいちゃを堪能したかったものなのですが……。
「ごめん、満足した……」
まさに女心と秋の空でした。
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