第41話・ホワイトアウト
もう、アキラちゃんじゃないけど、この子が本当に可愛いっていうのは理解できるわ。子供みたいなところがあって、それが可愛くて。でも、今はちょっと痛々しいわ。ずっと思ってる、何とかしてあげましょう。
それと、アキラちゃんも一応は心配ね。どうせしょげてるでしょうし……。
好きな女に、辛い顔をさせた男なんてそうなるに決まってるのよ。
そんなアキラちゃんを探したけど、教室にはいなくて、だからふと思い立って保健室にに行ってみた。そこで、彼と出会えて本当に良かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「すずめちゃん、あなたを傷つけたってこんな顔になる男よ?」
もみじさんは本当に恥ずかしいことを言います。そりゃ、しょげてましたよ。傷つけてしまったと思ったから。
「あまり恥ずかしいことを言わないでください。俺だって男子高校生ですよ。そのくらいなります」
あぁ、本当にもどかしい。すずめさんが、ただただ好きになってしまったから好きなのだと理解してくれれば……。そこに理由なんてないのだと理解してくれれば。
「ほら、すずめちゃん」
すずめさんは俺の気持ちなどお構いなし。もみじさんと喋っていました。
「本当に?」
「大丈夫!」
全く、何を話しているのでしょうか。
しかし、今の俺にそれをたずねる資格などないでしょう。
「アキラ……恋人を前提に友達になってください!」
「それはだ……」
これまでと、言い回しが全く違いました。
それに、それは既になんというか、友達というのは変わらないです。
「えっと……はい……」
前提が変わっただけ、ただ今までと同じ関係が続いていくだけ。そもそも俺からしたら、何も変わっていなかったのです。
「本当だ! もみじ、本当だった!」
ただ、満面の笑顔が見られたので、恥ずかしかったぶんは帳消しとしましょう。
むしろプラスですね。関係は一歩前進。すずめさんは受け入れてくれました。
「だから言ったでしょ?」
もみじさんはそう言って、ちょっとだけめんどくさそうに笑いました。
「うん!」
しかし、してやられました。もみじさんも俺より一枚も二枚も上手です。
「そろそろ茶化していいか?」
ここは保健室の一角、そして高校生にとって恋バナなどというものは最重要の話題です。特に、異性がいない空間では下品にそれを語ったりします。
「すみません、雰囲気もへったくれもあったものじゃなかったですね」
もう、笑うしかありませんこの環境。もっと気の利いた場所でこの場面は起こるべきでした。
「告白したの私だけど?」
それはつまり、すずめさんに告白されたということで。そして、それは嬉しいということで……。
「そうでした。つまりそれは、おれが場所選びを間違えたということで……」
それはつまり、おれが悪いということで。もっと気を利かせるべきだったということで……。
「ダメだこいつ、動転してやがる……」
静夜さんはぶっきらぼうな言い方をするけどいい人ということで……。
「こんなに舞い上がっちゃうのよ? 嘘なわけ……」
「ない!」
珍しくすずめさんが割り込むように言葉を発しているということは、それはつまり彼女の心情が好転したということで。
「落ち着けよ兄弟! リラックスできる草の茶だ」
それはつまり、麻薬のような印象ではありますが、つまり、カモミールティーなわけで。
それを口に含むと、ようやく思考が落ち着いてきました。
「えっと……相変わらずの言い方ですね」
そういう雰囲気を楽しむ場所で突発的に俺は告白されたようです。それも、それを受け入れられる形で……。
「えっと、聞いてた?」
あぁ、本当に心の底から格好の悪いことをしました。
「はい、もちろん。ただ、卒業の折には俺にリベンジのチャンスをください」
だから決戦はその時。俺は彼女の友達をやめ、そうですね、一足飛びに婚約まで行きましょう。両親は説き伏せますとも。
「私でいい?」
「もったいないくらいです」
すずめさんは、基礎に優しい心をもっていて、それがそれが故に色々と問題を抱えてしまった。
その優しさが、俺は好きです。そう、そろそろ辛くなったときは直接的に言葉にしてくれてもいい頃合です。
「じゃ、そろそろ……」
「控えな!」
そう言って、彼と入れ替わって女性の先輩が出てきました。
「すずめ、一歩前進ね? おめでとう」
「うんっ!」
本当にこの先輩は、ここぞという時に優しい気がします。ダウナーなのですが、本当に甲斐甲斐しい。すずめさんが気にいるのもよくわかります。ただ……。
「ちょっと! 放っておかないで! 取られちゃってもいいの!?」
そういえば、この学校にはレズビアンの方もいるのでしたね。女性も恋敵ですか。でもまぁ……。
「それは困りますね」
ちょっと、独占欲くらい出してみましょう。
「駆け引きごっこ? じゃあ、すずめはアキラに渡さないよ」
「できれば使いたくないのですが……。困ります」
一応は心理学。ある程度のことはできます。
コントロールとまでは行きません。でも、悪用したらいけないやり方がいくつかあります。特に不安を与えるためにコールドリーディングを使う手法……。
「すずめ、この男ガチだから逃がしちゃダメよ」
先輩はそう言って、すずめさんを離してくれたのでした。
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