第40話・いつもガチガチでは疲れるのである
あぁ、本当にもう。わかるわよ、あなたの過去。どうせ親に言われたんでしょ、そんなのお世辞だって。せっかく周りから褒めてもらえたのに、それを全部嘘にされた。
ほんっと、親ってなんでそんなことするんだか。だから、見つかってちょうだい。今、あなたを慰めたいのよ。
「よっす! カマちゃん!」
ちょうどいいわね、彼に聞いてみましょう。
「髪の長い女の子を見なかったかしら? 少し髪を巻いてる感じの、今日は……ツインテールにしてたと思うわ」
髪は女の最大の遊び道具。あの子は長い髪が好きね。それで自分を可愛く見せるのが好きみたい。
「……廊下の突き当たりだ!」
ホント、この子もいい子になったわ。最初は荒れてたけど……。
でもちょっと距離感がつかめないのよね……。
「ありがとう!」
急ぎましょう。学校内じゃ自傷や自殺はできないけど、心は心配よ。
「今度お礼するわ!」
走りながら、彼女のいるところを目指して。後ろで何か言ってるあの子はほうっておく。今はすずめちゃんが、最優先よ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あぁ、本当にこの子は……。なんで一人になるのかしら……。
「さっきは大きな声出してごめんね?」
保健室に行けばよかったのに。でもきっと、誰も愛してくれない世界の中で気持ちが一人ぼっちになっちゃったのね。
「もみじ……?」
すずめちゃんはまるで、なんでとたずねるような顔をしている。理由なんてきっと、彼女もわかってるのよ。
「ええ。もみじちゃんよ! 探しに来たわ!」
もう、一人になんてさせてやるもんですか。すずめちゃんが、疑う余地なく本心の言葉を受け入れられるようになるまで何度でも伝えてやる。アキラちゃんとそうする。もう、決定事項よ。神様にすら覆させやしないわ。
「もみじ……その……」
うまく言葉にできないみたいね。
「隣、いいかしら? 落ち着いて話ししたいわ」
できるまで待ちましょう。きっと、アキラちゃんもこうするかしら……。
「うん……」
消え入るような声ね。痛々しくて、本当に見てられない。
「じゃ、失礼するわねっ」
そばに、ほんの少しでも動けば触れてしまうほどそばに。それが、ナツに話を聞いてもらったときの距離だから。
「アキラちゃんのこと、嘘つきだと思う?」
そうね、まずここから聞いてみましょう。簡単なYESかNOで答えられる質問を積み上げましょう。
「思わない……けど、思った」
なるほどね。思いたくないけど、経験が彼を嘘つきにしちゃうのね。
「実はね、アキラちゃん一つだけ嘘ついてるわ! それ以外全部本当よ!」
オカマ流荒療治といきましょう。嘘つき、肯定しちゃいましょう。だって、アキラちゃんってば一つ絶対嘘ついてるもの。
アキラちゃんが悪いから、後がどうなっても知らないわ。
「何?」
空気が震えてる、ってことはすずめちゃん、震えてるわね。
「友達として、よ! あの子、あなたにぞっこんよ?」
間違いないわ、だってアキラちゃんの目は恋してる目だったもの。
「前、誘惑してみた……。でも……」
アキラちゃん、その理由なんとなくわかるわ……。
「あなた、肉体関係じゃないと恋人じゃないの?」
誘惑されただなんて、あの子本当によく我慢したものよ。本当に、高校生の男子なのかしら。やっぱり菩薩か何かよあの子。
「違うけど……性格、クソだから……」
本当にこの子、全部自分の責任にしちゃうわね。
「クソじゃないわよ。あなたをクソって言う人こそ、クソくらえだわ」
だから、相手に嫌な思いをさせないようにいっつも緊張しっぱなしなのね。そんなの、いつか疲れて暴走しちゃって当たり前よ。
って、今が暴走中かしら。だとしたら、とても、控えめね……。
「わからないや。本当は、そう思ってないって……」
どこかそう思っちゃうだとか、頭の中で誰かが言うだとか。それがすずめちゃんの沈黙かしら。
「嘘も突き通せば真実よ。あなたも、全部嘘だなんて思いたい?」
あら、不思議そうな顔。
「思いたく……ない」
誰だって絶対そう。この世には嘘しかない、そんな悲しいこと誰も信じたくない。当たり前のことよ。
「でも思っちゃってるのよね? それって、何度もそう言われて、それがあなたにとっての真実に変わっちゃったってことでしょ?」
あなたがそうなった理由、明かしちゃいましょうか。だって、昔の私はそうだったから。なっちゃんに再度洗脳されて、その状態が心地よくなって今の私がある。
今度は私の番よ。
「え……えっと?」
理解を拒んでる、懐かしいわ。本当は自分が変わっていくことなんて怖いもの。そのはずなのに、これは変わって行くのが怖くない。そして、怖くないのが怖い。
それはまるで、倒れそうなときにさらに後ろから後押しされるかのような。痛みを覚悟していたのに拍子抜けするかのような。本当は、全部壊れちゃって、怖さも痛みも感じなかっただけなんじゃないかって思うような。そんな恐怖。
「あなたが理解するまで、アタシは何度でも言う。アタシが大好きになったすずめちゃんを罵倒する奴は許さない。例え、あなたでもよ?」
これはもう、アタシの最高の友達の一人。誰にも罵らせてやらない。
「う……うぅ……」
何も言えないわよね。だって頭の中、自分への罵声でいっぱいいっぱいでしょう……。
少なくとも、なっちゃんにやられたとき、私はそうだった。
「おいで、自分に罵声を浴びせるあなたにお仕置きよ?」
なっちゃんほど私は人畜無害には見えないけど、できるかしら……。
そんなことを考えていたら、ゆっくりとすずめちゃんは来てくれた。だから、ちょっとだけ強めに抱きしめちゃう。ちょっと苦しいのが、こういう時に本当に気持ちよかったから……。
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