第39話・普段はぶらぶらしているくらいがちょうどいい
そして、一旦職員室に帰りつつすずめさんや要さんの現状を先生たちと共有している途中のことでした……。
「はい、最近はすごく明るくなってきていますよ。彼女は少し優しすぎるんです。だから、最初に自分を責めてしまう」
それが誰かに向くとしたら、自分の許容量を超える時くらいだと俺は思っています。あるいはそう、ビジネスライクな彼女の恋愛観に基づいてです。
彼女は自分の好きな人に全力で自分を提供してしまいます。その対価として、相手にも次第に全力を求めてしまうのだと思います。
「アキ……ラ?」
そんな場面ですずめさんとばったり出会ってしまったのです。
本当に不用意でした。時間がなかったからといって、移動中に話などするべきではなかった。別のところでしっかりと時間を取るべきでした。俺は、共有を一旦断るべきだったのです。
「すずめさん……これは……その……」
頭の中は真っ白で言葉がうまく出なくなってしまいました。
「そっか、アキラは先生に頼まれてだったんだ? 友達でもなんでもなかったんだ!!」
無償だった友人関係が壊れてくのを感じました。俺の不注意のせいで……。
「それは違うわ! アキラちゃんは風紀委員だけど、風紀委員どうこう以前で私たちの友達やってる! 本当にこの子は心から私たちの友達なのよ!」
いけません、どんどん俺が口下手に。でもどうやって伝えればいいのかがわかりません。伝えたい想いが伝わらないのは、あまりに息苦しく、そして重たく思います。
「そんなわけ無い! わかってた……。私なんか、本当に友達って思ってくれる人がいないくらい! みんな優しい言葉くれるけど、それがお世辞だってことくらい!」
どうしたら彼女に伝わるのでしょうか。彼女は本当に優しいのに。優しいから、相手のことを考えすぎてしまって、その結果信じられなくなってしまっているのに。
「信じてやったらどうよ!? 本心なんて宗教と同じよ! 本心を言っている確証もなければ、言っていない確証だって取れない! だから、信じてやらなきゃ誰とも付き合えないじゃない!」
そんなの、きっとすずめさんもわかっています。でも、それが本心じゃなかったっていわれた経験が多いのかもしれません。
だから、信じろっていうのが酷なことも想像してしまう。
「すずめさんごめんなさい。信じろとは言いません。でも、私はあなたのことを友人として、心の底から愛しています」
もみじさんの肩に手を置いて、俺は言いました。今、俺に言えるのはこのくらいです。そして、出来る行動は後ひとつです。
「すずめちゃん、この子が風紀委員になったのは、あなたと友達になった後のことです」
茜先生は証言をしてくれますが、そうですね……。実務経験なんてもういりません。俺の言葉は嘘です。俺も、所詮は男子高校生と言ったところですね。
「先生、今この場をもって風紀委員をやめさせてください。これからは、作りたい環境についてのみご相談にお伺いします」
将来なんかより、今ただ目の前にいる一人の女の子が大事です。無謀かもしれませんし、愚かな選択かもしれません。
「嘘だ……絶対、全部、嘘だ!」
そう言って、すずめさんは走りだしてしまいました。
「もちろん、すずめさんのことも……」
そんなことを言う拓海先生には僅かに憤りを感じました。
「上辺の言葉ではありません!」
そう言って、俺はすずめさんを追いかけようとしたのですが、それはもみじさんによって静止されました。
「今はあなたの言葉は信じてもらえないかも……。アタシが行くわ!」
……全く、もみじさんはイケメンです。
この前とは状況が違う、きっと俺の言葉すべてがすずめさんにとってはお世辞でしょう。
「お願いします……」
ただ、何が正解かわかりません。まるで五里霧中です。
「任せて! 何とかするわ!」
そう言って、今度はもみじさんがすずめさんを探しに行きました。
「アキラくん、あなたは後悔しない? 実務経験の時間が減っちゃうことになるけど?」
茜先生はたずねてきます。でもそれは、俺の言葉を尊重する言い方です。
「後悔しません。風紀委員手帳もお返しします」
俺は若く、今は青春時代。確かに実務時間が減るのは惜しいことです。でも、すずめさんとそれを比較することはできません。
彼女は今俺の大事な友人です。そして、俺は彼女と恋人になりたい。しっかりとした形で……。肉体関係からなんて、始めたくない。彼女を大事にしたい……。
「青春だなぁ……。分かりました! 手続きは任せて! 悪くないようにしとくからね!」
「茜先生!?」
茜先生は俺の選択を尊重してくれて、そして、拓海先生はそんな茜先生に驚きました。
「わかってるんですか? 彼ほどの風紀委員は二度と現れないかもしれない!」
続けるのもいいのですが、そんなことより本当にすずめさんが大事なのです。
「わかってますよ……。でも心のお仕事をしようとしている彼です。心を優先するのはおかしくありません。彼にはしっかりとした一貫性があります。功利的に考えましょう、彼はここで辞める決断をしたほうが、将来偉大なカウンセラーになる。私は、そう思っています」
それが本心ではないことはなんとなくわかります。茜先生はもっと直感的な人です。ただ、その説明が一番拓海先生が受け入れやすいのでしょう。
「分かりました……」
拓海先生はそれも、無理やり飲み込むかのような、苦虫を噛み潰したかのような顔をしていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます