第38話・人生なんてちんちんみたいなものである。
その、保健室の話を職員室でしたところ、即座に俺たちは保健室に連れて行かれたのです。
茜先生は三浦先生のことを忘れていたようだったのです。
「忘れるたァ、寂しいじゃねぇですかい! つっても、俺ぁあまり職員室に行きませんで、仕方ねぇことですわな!」
三浦先生は敬語を使っても山賊か何のようです。おそらく、普通の敬語も使えるだろうけど、きっとあえて使っていない。このワルごっこの空気感を徹底して守っています。
「敬語なんて使わないで! ここはほら、そういう場所だから!」
対して、茜先生は全力で保健室の空気感に寄り添いました。ここは学生たちのワルいことしたい欲を満たす場所です。ワルぶって、ふざけ合って、笑い合う。そんなお祭りの会場です。
「タバコ!?」
拓海先生は、驚いていました。
「ちがうって。アタシのはアロマスティック。違法なもんじゃないよ。体にも悪くない」
むしろ、ヒーリング効果的に体にいいものなのですけどね……。
「おう、お前! とんぼ返りか? なんにせよ待ってたぜ!」
このおおらかなコミュニケーションです。これぞ保健室です。
……保健室って、そういう場所でしたっけ。
「歓迎ありがとうございます! こちら、友人のもみじさん」
横に居るもみじさんを紹介したのですが、後で少し指摘を食らってしまいます。
「おうおう! よろしくな! 俺は、静夜って言うんだ。んで、もみじちゃんよぉこいつどう思う?」
初手女性扱い。相手を尊重する考えをお持ちのようです。彼の名前は静夜さん、是非覚えておきましょう。
「どうって、いい子よ? あと、一応言っておくわ。アタシはオカマで、女の子とはちょっと違うからね?」
もみじさんはそうなのです。ジャンル分けしているから複雑になっている気もしてきました。もうめんどくさいので、もみじさんはもみじさん。優しくて、面白い人。それでいい気がしてきました。
「オカマね了解! んで、こいつなんだけど、名乗らねぇんだ。もみじちゃん紹介してくれたのに……」
静夜さんが俺を指差して言います。言われてみると、名乗った記憶が……。
「あぁ、すみません! 俺は
よく考えたら、名前を教えあうなんて人間関係の基本中の基本です。そんなものがさっぱりと頭から抜け落ちてしまうなんて……。
「なんだ、忘れてたのかよ! 嫌われてるのかと心配して損したじゃねぇか……」
しかし、静夜さんは笑って許してくれました。このおおらかな環境が、彼にもそうさせるのかもしれません。
「アキラちゃんがごめんなさいね! この子の周り、自分の名前を嫌がってる子も多いから」
もはや天の助けです、もみじさんは代わりに言い訳までしてくれました。
「なるほどな! 優しいやつだ! 気に入った!」
しかし、もうほぼ外国ですね。日本語しゃべっているだけの外国がここにあります。
「ねぇ、あなたたち。よかったらアタシにここでオカマバーごっこさせてくれないかしら?」
もみじさんは、自分の目的を伝えました。そこに耳ざとい三浦先生がやってきたのです。
「いいアイディア出しやがる! 面白そうじゃねぇか! お前らどうだ!?」
三浦先生はスムーズに総意を伺ってくれました。
「「賛成!」」
そして、帰ってきた答えは非常に肯定的だったのです。
だって、お茶とアロマスティックではアナーキー感が足りません。そこにさらにそんな感覚を追加するには、ノンアルコールカクテルが非常に役に立つでしょう。
「教育に悪い気が……」
拓海先生と三浦先生は大きくポリシーが異なります。
「真面目一辺倒じゃ疲れるってぇ俺ぁ思うんですわ。だから、ここは息抜きの場所。心配する事ァありやせんぜ、学校側にも許可とってますんで……」
それが悪い影響かどうかというと、そうは言えないように思えます。だって、少なくともここにいる先輩たちは、非常にいい人です。もちろん、ちょっと乱暴なところはあります。でも、本質としてそうなっているのです。
「拓海先生! あなたも、たまには外してみましょうよ!」
そんな茜先生はというと……。
「先生はレモングラスがお好みたいね? 柑橘系は好き? ベルガモットも試してみる?」
すっかり馴染んでいました。なんでしょう、局所的に雰囲気がキャバクラです。
「あ、こっちもいい!」
普通学校の中にこの雰囲気が実現されるでしょうか……。
「茜先生!?」
ともあれ、拓海先生はかなりおいてけぼりです。
そんな裏で、もみじさんが三浦先生と何やら談合がまとまったようで、早速行動しました。
「お二人さん、どうぞ!」
氷をたっぷりと入れた飲み物を二人に差し出したのです。
「ありがと……」
先輩の顔が若干嬉しそうです。
「これだなぁ……よりいい雰囲気だ!」
三浦先生はそれを見て、また雷鳴のように笑うのでした。
「これ……ですか?」
ちょっと笑ってしまいそうですが……。
「いい雰囲気ですね……」
俺にはそう感じます。
「いいなぁ……」
そんなつぶやきをする先輩の元にもドリンクは運ばれます。
今ある材料で、即興でそれっぽくするのはすごい才能だと思います。
「おぉ! オヤジ、こいつ最高だ!」
「だな!」
なんか、一つの回答を見つけた気がします。先生たちとずっと話していたことの……。
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