第35話・三浦城
授業がなければ無いで拍子抜けしてしまうもので、途中から場所を保健室へと移しました。
この学校の保健室は、かなり広く作られています。保健室登校の生徒もほかの学校とは比べ物になりませんから……。
「いらっしゃい! 入ってこいよ! 茶を入れるからな!」
養護教諭の先生は、実は敬語が禁止されているのです。基本的には、校内全体で敬語を使う先生が多いのです。だからどうしても、他人行儀と感じることもあるでしょう。その対策として、たまには家族のような雰囲気でいられる場所をという試みが保健室です。
まだこの学校は二年目。先輩も二年生までしか存在しません。
年齢もまちまちだったりします。留年している方も多いのです。
「お邪魔します……」
ただ、養護教諭の先生はとても豪快な方で、思わず勢いに押されてしまったのです。
白衣を着ていらっしゃるのですが、その似合わないともうすべきでしょうか。ほかの学校であれば、体育教師をしていそうな方なのです。
整えていますが、ヒゲを生やした筋骨隆々の男性です。
「デカ……」
と、すずめさんが思わずつぶやいてしまうのもわかります。身長が2mありそうです。
「おう、デカいだろぉ! この筋肉がなぁ、怪我したガキを運ぶのにちょうどいいんだ!」
海賊か山賊でしょうか。そう思うほど、言葉遣いは乱暴です。でも、内容はちゃんと優しい。
「お前ら! イカレた新メンバーだ!」
迎え入れてくれる、先生は保険室内の生徒たちに向かってそう呼びかけました。
「歓迎するぜー!」
「地獄へようこそ!」
そんな声が帰ってくるもので、びっくりしてしまいました。
「世紀末なんですか!?」
もう、環境が個性的すぎるのです……。
「今はけが人も病人もいねぇからな! 騒いでるところだぜ!」
少し安心しました。ちゃんと、そういう時は静かになるのですね……。
「何? この……何?」
すずめさんは、これが保健室だとすら言えなくなったみたいです。
同意です。保健室という環境には俺にも見えません。
「何って保健室だろうがよ……。ま、入れ! ベッドもソファーもある! くつろげるぜ!」
くつろぐが別の意味にすら聞こえてしまいます。
保健室の中はほんのりとラベンダーの香りが漂っていました。
「なんかいい匂いするし……」
カオスの極地ですずめさんが呟きました。
「悪くねぇだろ? これがな落ち着けるんだ……」
凶悪な笑顔をやめていただきたい。本当に別のものに聞こえます。
そんな養護教諭の先生ですが、俺たちを座らせるなり、魔法瓶からお茶を注いでくれました。これが、ハーブティーなのです……。
「ようこそ、ここは安全だぜ……」
この先輩……絶対にワルノリしています。
「え? えっと……?」
思わず声が裏返ってしまいました。
「ちょ!? タバコ!?」
どこを見てもカオスしかありません。すずめさんが見つけたのは、棒状のものを加えて、白い吐息を吐き出している先輩でした。
「んなわけないでしょ? アロマスティック。これが、ベルガモットで……ほかに、サンダルウッドとか、ラベンダーとカモミールもある。ま、部屋の匂いじゃ物足りない人用にね? 気にしないんなら、自由に使っていいよ。リラックスできるから」
一応人畜無害ではあります。でも、めちゃくちゃアナーキーな雰囲気です。
「一体これ、どんな環境ですか……」
もはや俺には理解不能な世界だったのです……。
「まぁ、肩の力抜けよ。そんな堅っ苦しい言葉使わなくていいんだぜ? ここには敵なんて居ない。ひでえヤツからは、オヤジが守ってくれる」
マフィアかなにかでしょうか……。いやそれより、俺の口調が緊張している故のものだと思われています……。
「えっと、俺、普段からこうでして……」
すると、先輩はきょとんとした顔をしました。
「お前が悩んでて、その子がここに連れてきてくれたってわけじゃねぇのか?」
どうやら勘違いをされていたようでした……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彼ら、とても涙もろかったです。すずめさんと一緒に授業を抜け出した件で、涙腺がほころんでいたのですが、そこにすずめさんの過去話が合わさってもう皆さん大号泣でした。
「辛かったなぁ……すずめぇ……。ここにそんなやついないからな……」
「ここならいつでもオヤジが守ってくれるからね……」
そして、発覚したことなのですが、養護教諭の先生は三浦先生という名前らしいです。そして、保健室のメンバーからはオヤジと呼ばれてしたわれています。
元は不良だった生徒、少年院から来た生徒など、ここには問題児も多かったようです。ですが、その三浦先生が更正させたということもありました。
そもそも元々が三浦先生は法務教官だったようなのです……。
「良かった……本当に来てくれて良かった……」
そんな三浦先生も、本当に涙もろい方でした。一番涙を流し、そしてすずめさんを抱きしめています。
セクハラになりかねない行為。でも三浦先生がやると、不思議と自然に見えるのです。ただただ体格が規格外に大きい父親が、我が子を抱きしめているような……。
なんだか、日常と大きく距離を取れる場所なのだと感じたのでした……。
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