第31話・命の意味
もう、仕方がないので無理やり切り出すことにしました。
「すずめさんと、生きる意味についての話になりました。一緒に話した中に、その答えを持っている人がいたのですが、全員が死後の魂などに言及しました。俺たち、高校生ですし、これが厨二病とかそういうのの延長線ではないかと思って。先生たちにもお尋ねしたくなりました」
拓海先生はそれを聞いて考え込み、逆に茜先生はすぐに答えを述べました。
「普通だと思いますよ。むしろ人生の意味を考えたら、自然と死後の魂や世界に帰結すると思います。だから、宗教がいくつも存在するのではないかなって思ってます」
たしかに、人生の意味を考えたら死後の世界を考えるは当たり前かもしれません。その後が本当にすべて消え失せるなら、それは結局何の意味もないでしょう。
自分がこの世界から全て消えるとして、それでも人生に意味を見出そうと思う方はこう考えます。人が本当に死ぬのは、忘れられた時である。
それでも、宇宙の消滅は科学ではいたるところで叫ばれています。ならば、結局そのあとはない、本当に空虚です。
そんな感想を抱いていると、拓海先生が僅かに顔を上げました。
「ありがとうございます。そういった思春期のおかしな考え方ではないと知って、安心しました。ところで、拓海先生も何か思いつきましたか?」
だから俺は、もともとの予定に言葉を足して、拓海先生に問いかけたのです。
「いえ、別に科学は死後の世界を否定できているわけではないなと。否定する根拠もないですし、なら信じて人生を豊かにできるなら、信じるに損はないかなと思ったのです……」
たしかに、死後の世界を解き明かした科学的証拠は何もないかもしれません。それどころか近年では、意識とはどこかの次元ともつれ状態にある量子の集合体かも知れない。そんなことを科学者が言っています。そして、間違いなく脳内には量子効果が発生しているということも。
更には、意識を薄れさせる麻酔薬などは、この量子効果を減らしてしまうなんていう話もあります。量子力学、学ぶべきなのかもしれません。もしかしたら、心理学とつながっているかも知れないと思ってしまうのです。
「どうやら、あながち厨二病でもなかったみたいですね! しかし、たしかに、死後の世界が科学的に否定されていないなんて考えたこともなかったですよ」
拓海先生の言葉が本当に興味深かったです。科学的視点から、宗教を考えさせてくれました。
「いえいえ、逆に私は人生の意味なんて考えたこともなくて、高校生ってすごいこと考えるなって感心しましたよ! 新しい知見でした!」
それは、朗報でした。だって、無駄な話ばかりしてしまうのもなんでしたし。
「ところでアキラくん! なんで、そんな話になったかはわかりますか?」
そして少し、カルテの作成のための話です。
「憶測という前提で聞いてください。すずめさんの人生は、これまであまり良いものだったと言えません。ただ、そうだとしても生きてしまったのは事実。そんな人生を無為にしたくなかったのかなと思いました」
本当に憶測です。ただ、辛い人生を、そのせいで報われない今を歩く人にとっては、意味があったと思えないといつまでも辛さに囚われてしまう可能性があるのかもしれないと思うのです。
「なるほど。すずめさんは。そんな人生に意味を見いだせたと感じますか?」
茜先生は今度は憶測を前提に訪ねてくれました。だから安心して答えを返せます。
「そう感じました。というのも、ナツさんが“人生は経験のためにある”って言ってくれたからですね」
すると、茜先生は少し驚いたような顔をしたのです。
「え!? なっちゃん!? あの子まで、そんなことまで考えてるの!?」
もはや、ナツさんはなっちゃんで浸透しているようで、少し気の毒です。しかし、特に男性らしいニックネームなんていうものもないですし、それでいいのかもしれません。
「どんな印象なんですか!?」
ただ、ナツさんは無意識に道徳的な人だったはずです。
「底抜けに明るくて、人懐っこいショタ受け?」
しかし、茜先生は超残念でした。
「茜先生……職員会議ですね……」
さすがの拓海先生も呆れた顔で、茜先生に言います。
「え!? え!?」
拓海先生を見て、茜先生は困惑します。ここは本当に、茜先生が残念だ。
「いってらっしゃい……」
なのでもう、俺は彼女を見捨てるしかありませんでした。
当然冗談だったのですが……。
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